図書館の堕天司書 ―私達も図書館から禁帯出です―

ふわふわ

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22話 浮遊床の発見

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22話 浮遊床の発見

拡張の揺れは続いている。

棚は増え、通路は伸び、空間は深呼吸を繰り返す。

探索ルートは依然として長い。

水平移動が増え、迂回が増え、無駄が積み重なる。

だが基盤は変わらない。

最下層は静かだ。

その日も二人は基盤層にいた。

禁帯出蔵書の山は無事。
毛布も無事。

揺れは遠い。

「……上、まだ遠いですね」

リテが天井を見上げる。

「距離は変わっておりません」

「体感が遠いです」

拡張により、空間の印象が変わっている。

レリアンは階段へ向かう。

「基準から再計測いたします」

二人は上へ。

階段は変わらない。

揺れは強い。

だが何かが違う。

階段の踊り場に、淡い光が浮かんでいる。

床が、わずかに浮いている。

「……あれ?」

リテが足を止める。

床板の一部が、魔導光を帯びている。

揺れに反応して、微かに上下している。

「拡張処理の副産物でしょうか」

レリアンが静かに近づく。

足を乗せる。

床は沈まない。

逆に、ふわりと持ち上がる。

「……浮きました」

リテの声が弾む。

床は静かに上昇する。

階段を使っていない。

直線。

揺れを無視するかのように、棚の間を滑る。

「停止いたします」

レリアンが呟くと、床は止まる。

ちょうど医術区画付近。

揺れは続いているが、床は影響を受けない。

リテが目を丸くする。

「……これ、階段より速いです」

レリアンは周囲を見る。

揺れの波が来ても、床は一定の高さを保っている。

「基盤層直結」

ぽつりと呟く。

拡張によって生まれた空間の隙間。

そこに、垂直移動の経路が形成されている。

「もう一度、下へ」

床はゆっくり降下する。

最下層へ。

揺れは消える。

着地は滑らか。

リテが笑う。

「……発見ですね」

「偶然ではございません」

「え?」

「拡張は効率化です」

空間が増えるとき、無駄も増える。

それを補正する仕組みが生まれる。

それがこの浮遊床。

「……通勤、楽になりますね」

リテがにやりとする。

レリアンは否定しない。

再び上昇。

揺れを横切る。

棚の間を直線で抜ける。

医術区画到達。

管理水晶が反応する。

《移動時間、再計算》

数値が跳ね下がる。

八時間。

四時間。

一時間。

さらに縮む。

司書の一人が驚く。

「今、何を?」

「垂直移動です」

レリアンは簡潔に答える。

館長代理が目を見開く。

「そんな経路、記録にない」

「拡張処理中です」

嘘ではない。

床はまだ不安定。

だが機能している。

夕刻。

最下層。

リテが浮遊床を見つめる。

「これ、正式になりますかね」

「安定すれば」

「安定、しますよね?」

レリアンは禁帯出蔵書を確認しながら答える。

「図書館は最適化いたします」

揺れは続く。

だが浮遊床は揺れない。

基盤層と上層を直線で結ぶ経路。

探索ではなく、基準。

リテが小さく笑う。

「通勤革命ですね」

「業務効率化です」

言い方の違いだけ。

その夜、管理水晶に新しい表示が追加される。

《垂直移動経路、暫定生成》

誰も操作していない。

図書館が、自ら選んだ。

最下層で、二人は本を開く。

浮遊床が静かに光る。

揺れの中に、一本の直線。

合理化の芽が、確定しつつあった。
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