『婚約破棄された令嬢は、静かに王国から不要な者を消していく』

ふわふわ

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第二十五話 数値は裏切らない

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第二十五話 数値は裏切らない

 人の言葉は、
 都合で形を変える。

 だが、
 数値は嘘をつかない。

 アーヴィンは、
 財務局から回された帳簿を
 机いっぱいに広げていた。

 港湾、倉庫、街道維持費。
 一見すれば、
 どれも整っている。

 不自然な赤字はない。
 突出した支出もない。

 ――だからこそ、
 疑わしい。

 彼は、
 年度ごとの推移を並べ、
 細かく比べていく。

 増えている項目は、
 理由が明記されている。

 だが、
 減っている項目がある。

 兵站費。
 警備人件費。
 補修資材。

 減らしていいはずがない部分だ。

 帳簿の数字は、
 整いすぎている。

 現場を知らない者が
 “綺麗にまとめた”形。

 アーヴィンは、
 補足資料を引き寄せた。

 添付されているのは、
 簡単な報告書だけ。

 現地写真は、ない。

「……なるほど」

 声に出さず、
 理解する。

 帳簿は、
 正確ではある。

 だが、
 現実を反映していない。

 つまり、
 数字だけが先に決められ、
 後から理由を
 貼り付けている。

 これは、
 無能の帳簿だ。

 あるいは――
 隠しているか。

 昼過ぎ。

 アーヴィンは、
 一つの表を作り終えた。

 三年分の比較。
 支出と稼働状況。

 矛盾は、
 はっきりしている。

 だが、
 それだけでは
 決定打にならない。

 彼は、
 席を立った。

 向かうのは、
 倉庫管理局。

 現地担当者への
 聞き取りだ。

 名前を名乗ると、
 対応は丁寧だった。

 だが、
 どこかよそよそしい。

「補修は、
 予定通り終わっています」

 そう答えながら、
 担当者の視線は
 机の端に落ちる。

「では、
 この資材の使用量は?」

 アーヴィンが
 帳簿の一行を指す。

 担当者は、
 一瞬、言葉に詰まった。

「……記録通りです」

 短い返答。

 その間。

 アーヴィンは、
 確認した。

 迷い。
 戸惑い。
 計算。

 彼は、
 それ以上追及しなかった。

 ここで詰めても、
 相手は閉じるだけだ。

 戻る道すがら、
 彼は結論を出す。

 この案件は、
 表では終わらせない。

 だが、
 自分から
 声を上げる必要もない。

 やるべきことは、
 正確な報告だ。

 夕刻。

 まとめた資料を、
 クラリスのもとへ送る。

 感情は、
 一切添えない。

 事実と、
 推測の区別を明確にする。

 判断は、
 彼女が下す。

 それが、
 今の役割だ。

 夜。

 執務室に、
 一通の返書が届く。

 短い。

 だが、
 内容は明確だった。

 ――現地再確認を行う。
 ――同行は不要。
 ――追加資料を準備せよ。

 アーヴィンは、
 息を吐いた。

 拒否されなかった。

 無視もされなかった。

 それだけで、
 十分だ。

 ざまあは、
 感情の爆発ではない。

 積み上げた数字が、
 逃げ道を塞ぐことだ。

 誰かが倒れる音は、
 まだ聞こえない。

 だが、
 床はすでに
 抜け始めている。

 それを知っているのは、
 今のところ、
 彼だけだった。
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