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第二十七話 逃げ場の形
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第二十七話 逃げ場の形
調査が進むにつれて、組織の空気は確実に変質していった。騒がしくなるわけではない。むしろ逆だ。港湾管理局の内部は、妙なほど静かになっていた。
指示は守られる。提出期限も守られる。書類の体裁も整っている。だが、それ以上のことは誰もしようとしない。新しい提案も、改善案も出てこない。ただ「求められた分だけ」を返す。それが暗黙の了解になりつつあった。
アーヴィンは、その様子を執務室で受け取る報告書から読み取っていた。一枚一枚の内容は、確かに問題がない。だが、どの文書にも共通して欠けているものがある。それは、判断の痕跡だった。
誰が、どの時点で、どの理由をもって決定したのか。その核心部分が、意図的に薄められている。責任が特定されないよう、文章が慎重に整えられているのだ。これは偶然ではない。組織として「そう振る舞う」ことを選んでいる。
午後になり、財務局から一本の連絡が入った。港湾管理局が提出した予算修正案に差し戻しがかかったという。理由は「整合性の再確認」。形式上はもっともで、反論の余地はない。だが、その言葉の裏にある意図は明白だった。誰かが時間を稼ぎ、状況をやり過ごそうとしている。
アーヴィンは机に肘をつき、静かに考えた。ここで圧を強める必要はない。むしろ、相手が自分で「安全だと思う逃げ場」を選ぶように仕向けるべきだ。その選択こそが、後に責任を集約させるからだ。
彼は、新たに一つの資料を作成した。現場判断の流れを時系列で整理した一覧表だ。誰の名前も書かれていない。ただ、どの時点で判断が行われ、どんな結果が生じたかだけを淡々と並べてある。その結果、逆に浮かび上がる。どこで誰かが「決めなかったか」が、はっきりと見える構成だった。
夕刻、クラリスから短い連絡が届く。「その資料、明日の協議で使用します」。評価の言葉はないが、使われるという事実だけで十分だった。今の彼に求められているのは、前に出ることではない。判断の材料を、正確に用意することだ。
その夜、港湾管理局の責任者が部下を集め、緊急の会議を開いたという噂が流れてきた。議題は「対応の統一」。つまり、個々の判断を一つにまとめ、責任の線を整理し直そうという動きだ。
アーヴィンは、その報告を聞いても表情を変えなかった。むしろ、事態は整理されつつあると感じていた。誰かが全体を統一しようとするなら、そこに必ず重みが集まる。責任は、分散されている間は掴めないが、まとめられた瞬間に形を持つ。
ざまあとは、相手を力で追い詰めることではない。選択肢を示し、その中から自ら選ばせることだ。安全だと信じた逃げ場が、実は出口のない場所だったと気づくのは、いつも後になってからである。
調査が進むにつれて、組織の空気は確実に変質していった。騒がしくなるわけではない。むしろ逆だ。港湾管理局の内部は、妙なほど静かになっていた。
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アーヴィンは、その様子を執務室で受け取る報告書から読み取っていた。一枚一枚の内容は、確かに問題がない。だが、どの文書にも共通して欠けているものがある。それは、判断の痕跡だった。
誰が、どの時点で、どの理由をもって決定したのか。その核心部分が、意図的に薄められている。責任が特定されないよう、文章が慎重に整えられているのだ。これは偶然ではない。組織として「そう振る舞う」ことを選んでいる。
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アーヴィンは机に肘をつき、静かに考えた。ここで圧を強める必要はない。むしろ、相手が自分で「安全だと思う逃げ場」を選ぶように仕向けるべきだ。その選択こそが、後に責任を集約させるからだ。
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夕刻、クラリスから短い連絡が届く。「その資料、明日の協議で使用します」。評価の言葉はないが、使われるという事実だけで十分だった。今の彼に求められているのは、前に出ることではない。判断の材料を、正確に用意することだ。
その夜、港湾管理局の責任者が部下を集め、緊急の会議を開いたという噂が流れてきた。議題は「対応の統一」。つまり、個々の判断を一つにまとめ、責任の線を整理し直そうという動きだ。
アーヴィンは、その報告を聞いても表情を変えなかった。むしろ、事態は整理されつつあると感じていた。誰かが全体を統一しようとするなら、そこに必ず重みが集まる。責任は、分散されている間は掴めないが、まとめられた瞬間に形を持つ。
ざまあとは、相手を力で追い詰めることではない。選択肢を示し、その中から自ら選ばせることだ。安全だと信じた逃げ場が、実は出口のない場所だったと気づくのは、いつも後になってからである。
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