『婚約破棄された令嬢は、静かに王国から不要な者を消していく』

ふわふわ

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第二十九話 問いの順序

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第二十九話 問いの順序

 再聴取の通知が出たことで、港湾管理局の内部は完全に身構えた状態に入った。誰もが余計な発言を避け、書類の扱いにも過剰なほど慎重になる。だが、こうした緊張は長くは続かない。人は、緊張が常態になると、どこかで必ず綻びを見せる。

 アーヴィンは、その「綻び」がどこから生まれるかを考えていた。証拠を突きつける必要はない。重要なのは、どの順序で問いを重ねるかだ。答えそのものよりも、答えに至る過程が、相手の立場を浮き彫りにする。

 彼は、再聴取用の想定問答を整理していた。最初の問いは、責任を問わない。確認だ。次に、選択肢を与える。最後に、矛盾が生じる地点へ自然に導く。その流れができていれば、相手は自ら線を引くことになる。

 午後、クラリスから一枚の紙が渡された。再聴取の進行案だ。目を通すと、彼が考えていた構成とほとんど同じだった。視線を上げると、彼女は短く言う。

「最初は、安心させます。答えやすい問いから」

 アーヴィンは頷いた。
 追い詰めるのは最後でいい。序盤で警戒させれば、口は閉じる。だが、穏やかな確認が続けば、人は自分が安全だと錯覚する。

 再聴取当日。

 港湾管理局の責任者は、形式通りの礼を取り、落ち着いた様子を装っていた。準備してきた資料も整っている。少なくとも、表面上は非の打ち所がない。

 最初の問いは、予定通り穏やかだった。
 手続きの確認。担当範囲の説明。過去の決裁の流れ。

 責任者は、淀みなく答える。
 ここまでは、想定内だ。

 次に、選択肢を含む問いが出される。
 あの年の修正は、現場判断か、それとも上からの指示か。

 責任者は一瞬だけ考え、現場判断だと答えた。
 その瞬間、線が引かれる。

 アーヴィンは、その答えを黙って記録する。
 否定もしない。確認もしない。

 そして最後の段階。

 別の資料が示される。
 同じ時期、同じ内容について、別部署で行われた決裁記録。

 そこには、責任者自身の署名があった。

 問いは、簡単だ。
 現場判断だったはずの修正に、なぜ自分の署名があるのか。

 責任者は、言葉に詰まった。
 説明はできる。だが、その説明は、先ほどの答えと必ず矛盾する。

 沈黙が流れる。

 その沈黙こそが、成果だった。

 ざまあは、声を荒げることではない。
 問いの順序によって、自分の言葉で立場を失わせることだ。

 アーヴィンは、記録を閉じながら理解していた。
 この瞬間から、主導権は完全にこちらに移った。
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