『勘違い殿下の逆恨みは、鉄壁の公爵家に砕け散る~聖女と元婚約者が手を取り合った結果~』

ふわふわ

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第2話 公開婚約破棄宣言

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第2話 公開婚約破棄宣言

広間は一瞬にして地獄のような騒然に包まれた。

「婚約破棄だと……?」

「レーヴェント公爵令嬢を、王太子殿下が一方的に……?」

「しかも理由がいじめ? そんな話、聞いたことがないが……」

貴族たちのざわめきが波のように広がる中、エクウス王太子は胸を張って立っていた。  
金色の髪がシャンデリアの光を浴びて輝き、青い瞳には確固たる意志が宿っている――少なくとも、彼自身はそう信じていた。

エクウスはソニアの手を優しく取り、彼女を自分のすぐ脇に立たせた。  
ソニアは顔を真っ赤にし、俯いたまま小さく震えている。

「皆の者、よく聞け!」  
エクウスは再び声を張り上げた。

「このソニア嬢は、聖女の力を持つと認められた尊き存在だ。  
それなのに、長きにわたりレーヴェント公爵令嬢イセッタから、陰湿で執拗ないじめを受けていた!」

会場にどよめきが広がる。  
しかし、そのどよめきは驚愕よりも、困惑に近かった。

「学園で孤立させられ、陰口を叩かれ、時にはドレスに汚物を仕込まれるような卑劣な嫌がらせまで……  
そんな残酷な女を、私は正妃として迎えるわけにはいかない!」

エクウスはイセッタを指差した。

「イセッタ・フォン・レーヴェント!  
お前の罪は重い。ここにいる多くの者が、ソニア嬢の苦しみを目撃しているはずだ!」

だが――誰も頷かない。

貴族たちは互いに顔を見合わせ、首を傾げている。  
レーヴェント公爵令嬢が誰かをいじめる?  
そんな話は、誰も聞いたことがなかった。

イセッタは高台に立ち、静かにその光景を眺めていた。

(ふふ……殿下、随分と自信満々ね)

内心で小さく笑う。

前世のゲーム知識によると、ここで悪役令嬢は「そんな事実はない!」と逆上し、証拠を要求する。  
すると王太子側が用意した偽証人が次々と現れ、悪役令嬢は完全に追い詰められる――という流れだった。

だが、現実のイセッタは、そんな愚かなことは一切していない。

彼女はソニアが学園に入ったその日から、徹底的に守ってきた。  
孤立しそうになればさりげなく声をかけ、陰口を言う者がいれば冷ややかな一瞥で黙らせ、  
ドレスに何か仕込まれそうになったときは、事前にメイドに監視させていた。

つまり――いじめの事実は、最初から存在しない。

(殿下は、どこからそんな話を……?)

イセッタの視線が、広間の隅に立つ数人の貴族令嬢に注がれた。  
彼女たちはエクウスの取り巻きで、ソニアに嫉妬していたグループだ。  
おそらく、彼らが殿下に吹き込んだのだろう。

エクウスはさらに続けた。

「ソニア嬢は、恐怖のあまりこれまで口をつぐんでいた。  
だが、私は真実を知った。彼女の涙を見た。震える肩を見た。  
だからこそ、ここで正義を貫く!」

ソニアがびくりと肩を震わせた。

「イセッタ・フォン・レーヴェント!  
お前との婚約を、ここに即刻破棄する!  
さらに、お前の罪に対しては、相応の処罰を――」

その時だった。

イセッタが、ゆっくりと一歩前に出た。

静寂が戻る。

誰もが息を呑んだ。  
レーヴェント公爵令嬢が、今、何を言うのか。

イセッタは優雅にスカートの裾をつまみ、深く一礼した。

「殿下」

声は澄んでいて、しかし広間に響き渡るほどに明瞭だった。

「突然のご宣言に、私も大変驚いておりますわ」

微笑みは完璧。  
瞳は穏やかで、まるで波一つ立たない湖のよう。

「ですが……そのような重大なご決定をなさる前に、  
少しだけ、お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

エクウスが眉をひそめた。

「何だ? 言い訳か?」

イセッタは首を振る。

「いいえ。  
ただ、事実を確認したいだけですわ」

彼女はゆっくりとソニアの方を向いた。

「ソニア様」

ソニアが顔を上げ、怯えた瞳でイセッタを見る。

「殿下が今おっしゃったこと……  
私があなたを、長きにわたり陰湿ないじめで苦しめたというお話は、  
本当でしょうか?」

会場が凍りついた。

誰もが息を止めた。

ソニアの唇が震える。

エクウスが慌てて口を挟む。

「ソニア嬢、恐れることはない! ここにいる私が守る!  
正直に――」

だが、ソニアはエクウスの言葉を遮るように、深く頭を下げた。

そして、震える声で、しかしはっきりと――

「い、いえ……!」

会場がどよめいた。

「私……イセッタ様に、いじめられたことなど……  
一度も……ありません……!」

エクウスの顔が、初めて青ざめた。

「な、何を言っている! ソニア嬢、君は――」

ソニアは涙を浮かべながら、必死に言葉を続けた。

「イセッタ様は……いつも、私を……  
学園で孤立しそうになったとき、声を掛けてくださって……  
誰かが陰口を言おうとしたら、守ってくださって……  
ドレスに何かされそうになったときも、事前に止めてくださって……  
私、イセッタ様に……感謝しか……ありません……!」

静寂。

完全なる静寂が、広間を支配した。

エクウス王太子の顔が、真っ白になっていく。

イセッタは、静かに微笑んだまま、ソニアに優しく頷いた。

そして、再びエクウスに向き直る。

「殿下」

声は穏やかで、しかし冷たい。

「ご覧の通り、ですわ」

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