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第4話 完璧なる論破
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第4話 完璧なる論破
広間は、まるで嵐の後の海のように、静まり返っていた。
誰もが息を殺し、イセッタの次の言葉を待っていた。
イセッタはゆっくりと顔を上げ、エクウス王太子をまっすぐに見据えた。
「殿下」
その声は、氷のように澄んでいて、しかし広間全体に響き渡るほどに明瞭だった。
「ご覧の通り、ですわ」
彼女は優雅にスカートの裾を軽く持ち上げ、ソニアに向かって優しく微笑んだ。
ソニアは涙を拭いながら、小さく頷き返した。
イセッタは再びエクウスに向き直る。
「被害者とされるソニア様ご本人と、
加害者とされる私、双方が『そのような事実はございません』と申しておりますのに……」
彼女の微笑みが、わずかに深くなる。
「これは、殿下のお勘違いではございませんこと?」
その一言に、会場が完全に凍りついた。
エクウス王太子の顔が、真っ赤から真っ白へ、そして再び真っ赤へと変わっていく。
「くっ……! そ、そんなはずは……!」
彼は拳を握りしめ、唇を噛んだ。
「ソニア嬢は、恐怖のあまり本心を言えなかっただけだ!
周囲にイセッタの影響力が――」
だが、その言葉は途中で途切れた。
貴族たちが、明らかに冷ややかな視線をエクウスに向けている。
レーヴェント公爵家の影響力は確かに大きい。
しかし、それは「いじめ」を強要するようなものではない。
誰もが知っている。イセッタは派閥を作らず、孤立した者を守ることで有名だった。
しかも、今、ソニア本人が涙ながらに感謝を述べている。
エクウスは焦り、声を荒げた。
「証拠がある! ソニア嬢が泣いていた姿を、俺は見た!
学園で孤立していたのも、すべてイセッタのせいだ!」
だが、誰も頷かない。
むしろ、貴族の一人が小さく呟いた。
「孤立……? 確かにソニア嬢は最初は距離を置かれていたが、
すぐにイセッタ様が声をかけ、皆も自然と受け入れたはずだが……」
別の貴族令嬢が頷く。
「私も覚えているわ。イセッタ様が率先してソニア様をティーパーティーに招いてくださったのよ」
ざわめきが、再び広がる。
今度は、明らかにエクウスに対する非難の声だった。
イセッタは、静かに一歩前に出た。
「殿下」
彼女の声は穏やかで、しかし容赦なかった。
「もし、私にそのような罪がおありとお思いでしたら、
どうぞ証拠をお出しくださいませ」
エクウスがぎくりと肩を震わせる。
「証拠なら……ある! ソニア嬢の証言が――」
イセッタは優しく首を振った。
「ですが、ソニア様はすでに、はっきりと否定なさいましたわ」
彼女はソニアに視線を向け、優しく促した。
「ソニア様、もう一度、皆さまにお願いできますか?」
ソニアは深く息を吸い、勇気を振り絞って前に出た。
「はい……!
私、イセッタ様にいじめられたことは、一度もありません!
殿下が誤解なさっただけです……!
私を、こんな場で……巻き込まないでください……!」
その言葉に、会場からため息が漏れた。
同情の視線が、ソニアに、そしてイセッタに向けられる。
エクウスは完全に追い詰められていた。
「そ、それでも……俺は、ソニア嬢を守りたかっただけだ!
正義のために――」
イセッタは、静かに微笑んだ。
「正義……ですわね」
彼女はゆっくりと、エクウスに近づいた。
「では、殿下」
声は低く、しかし全員に聞こえる。
「殿下がそこまでして婚約破棄をお望みとあらば、
私に何らかのご不満がおありなのでしょう」
会場がどよめく。
「勘違いであろうと、本心であろうと……
私めは、殿下のお気持ちを尊重いたしますわ」
イセッタは深く、優雅に一礼した。
「どうぞ、ご自由に。
婚約破棄を、了承いたします」
その瞬間――
広間が、完全に静まり返った。
誰もが、息を止めてその光景を見つめていた。
王太子殿下が、一方的に婚約破棄を宣言したはずが、
逆に、公爵令嬢に余裕で了承されてしまった。
しかも、理由が「勘違い」だったと、被害者本人に否定されている。
エクウス王太子の顔が、初めて、完全に崩れた。
「イ、イセッタ……お前……!」
彼は何か言おうとしたが、言葉にならない。
イセッタは、静かに微笑んだまま、高台を降り始めた。
背筋はまっすぐ、歩みは優雅。
まるで、何事もなかったかのように。
貴族たちが、自然と道を譲る。
その視線は、明らかに――
同情と、尊敬に満ちていた。
(これで……終わったわ)
イセッタは内心で小さく息を吐いた。
ゲームのシナリオは、完全に崩壊した。
そして、これから始まるのは――
彼女自身の物語だった。
広間の出口に向かう途中、ソニアが駆け寄ってきた。
「イセッタ様……! ごめんなさい……! 私のせいで……!」
イセッタは優しくソニアの手を取り、微笑んだ。
「あなたは悪くないわ。
正しいことをしただけ」
彼女は小さく囁いた。
「これから、少し大変になるかもしれないけど……
もしよければ、私の屋敷に来て?」
ソニアの瞳に、涙が浮かんだ。
イセッタは、静かに広間を後にした。
背後で、エクウス王太子が、初めて味わう屈辱に震えていることなど、
彼女はもう、気にも留めなかった。
広間は、まるで嵐の後の海のように、静まり返っていた。
誰もが息を殺し、イセッタの次の言葉を待っていた。
イセッタはゆっくりと顔を上げ、エクウス王太子をまっすぐに見据えた。
「殿下」
その声は、氷のように澄んでいて、しかし広間全体に響き渡るほどに明瞭だった。
「ご覧の通り、ですわ」
彼女は優雅にスカートの裾を軽く持ち上げ、ソニアに向かって優しく微笑んだ。
ソニアは涙を拭いながら、小さく頷き返した。
イセッタは再びエクウスに向き直る。
「被害者とされるソニア様ご本人と、
加害者とされる私、双方が『そのような事実はございません』と申しておりますのに……」
彼女の微笑みが、わずかに深くなる。
「これは、殿下のお勘違いではございませんこと?」
その一言に、会場が完全に凍りついた。
エクウス王太子の顔が、真っ赤から真っ白へ、そして再び真っ赤へと変わっていく。
「くっ……! そ、そんなはずは……!」
彼は拳を握りしめ、唇を噛んだ。
「ソニア嬢は、恐怖のあまり本心を言えなかっただけだ!
周囲にイセッタの影響力が――」
だが、その言葉は途中で途切れた。
貴族たちが、明らかに冷ややかな視線をエクウスに向けている。
レーヴェント公爵家の影響力は確かに大きい。
しかし、それは「いじめ」を強要するようなものではない。
誰もが知っている。イセッタは派閥を作らず、孤立した者を守ることで有名だった。
しかも、今、ソニア本人が涙ながらに感謝を述べている。
エクウスは焦り、声を荒げた。
「証拠がある! ソニア嬢が泣いていた姿を、俺は見た!
学園で孤立していたのも、すべてイセッタのせいだ!」
だが、誰も頷かない。
むしろ、貴族の一人が小さく呟いた。
「孤立……? 確かにソニア嬢は最初は距離を置かれていたが、
すぐにイセッタ様が声をかけ、皆も自然と受け入れたはずだが……」
別の貴族令嬢が頷く。
「私も覚えているわ。イセッタ様が率先してソニア様をティーパーティーに招いてくださったのよ」
ざわめきが、再び広がる。
今度は、明らかにエクウスに対する非難の声だった。
イセッタは、静かに一歩前に出た。
「殿下」
彼女の声は穏やかで、しかし容赦なかった。
「もし、私にそのような罪がおありとお思いでしたら、
どうぞ証拠をお出しくださいませ」
エクウスがぎくりと肩を震わせる。
「証拠なら……ある! ソニア嬢の証言が――」
イセッタは優しく首を振った。
「ですが、ソニア様はすでに、はっきりと否定なさいましたわ」
彼女はソニアに視線を向け、優しく促した。
「ソニア様、もう一度、皆さまにお願いできますか?」
ソニアは深く息を吸い、勇気を振り絞って前に出た。
「はい……!
私、イセッタ様にいじめられたことは、一度もありません!
殿下が誤解なさっただけです……!
私を、こんな場で……巻き込まないでください……!」
その言葉に、会場からため息が漏れた。
同情の視線が、ソニアに、そしてイセッタに向けられる。
エクウスは完全に追い詰められていた。
「そ、それでも……俺は、ソニア嬢を守りたかっただけだ!
正義のために――」
イセッタは、静かに微笑んだ。
「正義……ですわね」
彼女はゆっくりと、エクウスに近づいた。
「では、殿下」
声は低く、しかし全員に聞こえる。
「殿下がそこまでして婚約破棄をお望みとあらば、
私に何らかのご不満がおありなのでしょう」
会場がどよめく。
「勘違いであろうと、本心であろうと……
私めは、殿下のお気持ちを尊重いたしますわ」
イセッタは深く、優雅に一礼した。
「どうぞ、ご自由に。
婚約破棄を、了承いたします」
その瞬間――
広間が、完全に静まり返った。
誰もが、息を止めてその光景を見つめていた。
王太子殿下が、一方的に婚約破棄を宣言したはずが、
逆に、公爵令嬢に余裕で了承されてしまった。
しかも、理由が「勘違い」だったと、被害者本人に否定されている。
エクウス王太子の顔が、初めて、完全に崩れた。
「イ、イセッタ……お前……!」
彼は何か言おうとしたが、言葉にならない。
イセッタは、静かに微笑んだまま、高台を降り始めた。
背筋はまっすぐ、歩みは優雅。
まるで、何事もなかったかのように。
貴族たちが、自然と道を譲る。
その視線は、明らかに――
同情と、尊敬に満ちていた。
(これで……終わったわ)
イセッタは内心で小さく息を吐いた。
ゲームのシナリオは、完全に崩壊した。
そして、これから始まるのは――
彼女自身の物語だった。
広間の出口に向かう途中、ソニアが駆け寄ってきた。
「イセッタ様……! ごめんなさい……! 私のせいで……!」
イセッタは優しくソニアの手を取り、微笑んだ。
「あなたは悪くないわ。
正しいことをしただけ」
彼女は小さく囁いた。
「これから、少し大変になるかもしれないけど……
もしよければ、私の屋敷に来て?」
ソニアの瞳に、涙が浮かんだ。
イセッタは、静かに広間を後にした。
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