『勘違い殿下の逆恨みは、鉄壁の公爵家に砕け散る~聖女と元婚約者が手を取り合った結果~』

ふわふわ

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第8話 公爵家の庇護

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第8話 公爵家の庇護

レーヴェント公爵屋敷の正庁。

朝の陽光が、ステンドグラスを通って色鮮やかな光の帯を描いていた。  
重厚な長テーブルを囲むように、公爵家の重臣たちと家令が並んでいる。  
上座には、イセッタと父のレオナルド公爵。そして、その隣にソニアが控えていた。

レオナルド公爵は、厳つい顔をわずかに緩め、ソニアに向かって口を開いた。

「ソニア嬢。  
本日より、正式に我がレーヴェント公爵家お抱えの聖女として迎えることを、ここに宣言する」

ソニアがびくりと肩を震わせ、慌てて立ち上がった。

「レ、レオナルド公爵閣下……!  
私のような平民が、そんな大役を……恐れ多いです……!」

公爵は低く、しかし優しい笑みを浮かべた。

「恐れることはない。  
お前の力は本物だ。教会の司祭団も、すでに認証を出している」

彼はテーブルの上に置かれた羊皮紙の束を指差した。

「ここに、正式な契約書がある。  
待遇は王宮の聖女と同等。住居は東別邸を専用とし、護衛とメイドもつける。  
報酬も、相応のものを用意する」

ソニアの瞳が揺れた。

「でも……私は、お金など……」

イセッタが静かに口を挟んだ。

「ソニア、それは受け取って」

彼女は穏やかに微笑んだ。

「あなたはこれから、王国全体のために力を使うことになるわ。  
その対価は、当然のものよ」

公爵が頷く。

「それに、我が家はお前を守る義務もある。  
王太子殿下の件で、お前も巻き込まれた。  
レーヴェント家の名にかけて、傷一つつけさせはしない」

家令が一歩進み出て、契約書をソニアの前に置いた。

「ご署名をお願いいたします」

ソニアは震える手で羽根ペンを取り、ゆっくりと名前を書いた。

署名が終わると、重臣たちが一斉に拍手を送った。

「これで、正式決定です」

公爵が立ち上がり、宣言した。

「ソニア聖女の護衛は、私兵団から精鋭二十名を常時配置。  
屋敷の結界魔法も、最高レベルに強化する。  
外部からの接触は、すべてイセッタの許可を得てから」

ソニアが涙を浮かべ、深く頭を下げた。

「ありがとうございます……!  
私、精一杯、務めさせていただきます……!」

イセッタはソニアの手を取り、優しく握った。

「ゆっくりでいいわ。  
まずは、慣れることから」

会議が終わり、二人が東別邸に戻る道すがら――

庭園の噴水の前で、ソニアが立ち止まった。

「イセッタ様……本当に、いいんでしょうか?  
私みたいな者が、公爵家に……」

イセッタは噴水の縁に腰を下ろし、ソニアを隣に座らせた。

「あなたは、もう『私みたいな者』じゃないわ」

彼女は空を見上げた。

「あなたは聖女。  
そして、私の大切な友人」

ソニアの頰が、わずかに赤らんだ。

「友人……だなんて……」

「ええ、そうよ」

イセッタはくすりと笑った。

「これから、たくさん話しましょう。  
あなたの故郷のこと、好きな食べ物、好きな花……  
全部、聞きたいわ」

ソニアは少しずつ、表情を明るくしていった。

「私……甘いものが、好きなんです。  
特に、蜂蜜のケーキ……」

「じゃあ、今日のお茶会は蜂蜜ケーキにしましょう」

二人は笑い合いながら、別邸へ向かった。

その頃、王宮。

エクウス王太子の私室。

側近が、震える声で報告していた。

「殿下……ソニア聖女は、本日、正式にレーヴェント公爵家お抱えとなりました。  
護衛は私兵二十名、屋敷の結界も強化済みとのことです」

エクウスの顔が、みるみるうちに歪んだ。

「なんだと……?」

彼は立ち上がり、窓辺に歩み寄った。

「俺が……王宮で庇護しようとした聖女が……  
あの女の家に……!」

側近が恐る恐る続ける。

「さらに、貴族社会の風向きも……  
イセッタ様を『気高く自由を選んだ令嬢』と称賛する声が、日増しに強くなっております」

エクウスは拳を握りしめ、窓ガラスを叩いた。

「くそっ……!」

心の奥で、黒い感情が渦巻いていた。

イセッタの、あの余裕の微笑み。

ソニアの、涙ながらの否定。

そして今、二人とも自分の手が届かない場所にいる。

(許さない……)

エクウスはゆっくりと振り返り、側近に命じた。

「情報を集めろ。  
レーヴェント屋敷の警備の隙、ソニアの行動予定……すべてだ」

側近が青ざめる。

「で、ですが殿下……それは……」

「黙れ!  
俺は、ただ……真実を知りたいだけだ」

だが、その瞳に宿る光は、すでに復讐の色を帯びていた。

一方、東別邸のバルコニー。

イセッタは、手紙を書いていた。

宛先は、北のノルドハイム公爵、ルクシオ・フォン・ノルドハイム。

内容は、婚約破棄の報告と、近々領地視察で北へ向かう予定であること。

そして――

「ご都合の良い日取りで、お会いできれば幸いです」

イセッタは筆を置き、静かに微笑んだ。

(ルクシオ公爵……  
あなたなら、きっと味方になってくれる)

転生者の知識が、静かに次の手を打ち始める。

公爵家の庇護は、鉄壁。

誰も、手を出しにくい要塞と化した。

ソニアは、新しい生活に少しずつ馴染み始めていた。

そして、イセッタは――

自由を手に入れ、未来を切り開こうとしていた。

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