『勘違い殿下の逆恨みは、鉄壁の公爵家に砕け散る~聖女と元婚約者が手を取り合った結果~』

ふわふわ

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第7話 聖女の涙

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第7話 聖女の涙

翌朝、レーヴェント公爵屋敷の東別邸。

朝の陽光が、白い大理石の回廊を優しく照らしていた。  
イセッタはメイドに案内され、別邸の応接室に入った。

そこに、ソニアがいた。

昨夜は客室で一晩休んだはずなのに、少女の顔は青白く、目元が腫れている。  
明らかに、泣いた後だった。

ソニアはイセッタの姿を見るなり、立ち上がり、深く頭を下げた。

「イセッタ様……おはようございます。  
そして、本当に……申し訳ございません……」

声は掠れ、肩が小刻みに震えている。

イセッタは静かに近づき、ソニアの前に立った。

「ソニア、顔を上げて」

ソニアが恐る恐る顔を上げる。  
碧の瞳は、真っ赤に充血していた。

「私……昨夜、ずっと考えて……  
やっぱり、私のせいでイセッタ様が……」

イセッタは優しく、しかし少し強く首を振った。

「違うわ。  
もう、昨夜も言ったでしょう?  
あなたは悪くない」

彼女はソニアの隣に腰を下ろし、少女の手を両手で包み込んだ。

「あなたはただ、正直に話しただけ。  
それが、殿下の勘違いを正したのよ」

ソニアの唇が震える。

「でも……殿下は、私を庇護してくださろうとしたのに……  
私が否定したせいで、殿下の評判が……  
そして、イセッタ様の婚約まで……」

涙が、再び頰を伝い始めた。

イセッタは静かに、ソニアの涙をハンカチで拭った。

「ソニア、聞いて」

彼女の声は穏やかで、しかし確かな力強さを帯びていた。

「殿下は、あなたを庇護したかったわけじゃない。  
自分の正義感を、皆に見せたかっただけよ」

ソニアが目を丸くする。

「殿下は、私を悪役に仕立てて、自分を英雄にしたかった。  
あなたはそのための、道具だっただけ」

ソニアは言葉を失った。

「あなたが否定したことで、殿下の計画は崩れた。  
それで、殿下は恥をかいた。  
でも、それは殿下が招いたこと。  
あなたが悪いわけじゃないわ」

ソニアは俯き、しばらく黙っていた。

そして、小さな声で呟いた。

「……でも、私、王都にいづらくなってしまって……  
聖女として王宮に呼ばれたのに、もう戻れない気が……」

イセッタは頷いた。

「ええ、わかっているわ」

彼女はソニアの目を見つめ、静かに続けた。

「だから、私の屋敷に滞在してほしいの。  
ここなら、安全よ」

ソニアが顔を上げる。

「正式に、レーヴェント公爵家お抱えの聖女として、  
あなたを迎えたい」

「え……?」

「公爵家は、王国随一の権力と軍事力を持っている。  
殿下の側近たちが、何か仕掛けてきても、  
ここなら守れるわ」

イセッタは優しく微笑んだ。

「そして――あなたには、聖女の力がある。  
王国にとって、必要な力よ。  
それを、正しく使ってほしい」

ソニアの瞳に、涙が再び浮かんだ。

今度は、罪悪感ではなく、感謝の涙だった。

「イセッタ様……私、平民で……  
そんな大それたこと……」

「平民だから、何?」

イセッタは少し強く言った。

「あなたは、本物の聖女。  
力を持っている。  
それだけで、十分よ」

彼女はソニアの手を強く握った。

「私も、あなたを守りたい。  
そして、一緒に、この王国を少しでも良くしたい」

ソニアは、しばらくイセッタの手を見つめていた。

そして、ゆっくりと頷いた。

「……ありがとうございます。  
お言葉に……甘えさせていただきます」

イセッタは明るく微笑んだ。

「よかった。  
じゃあ、今日から準備を始めましょう」

二人は立ち上がり、別邸の庭へ向かった。

朝のバラ園は、露に濡れた花々が美しく咲き誇っていた。

ソニアは、少しずつ表情を柔らかくしていった。

「イセッタ様……私、聖女の力で、  
少しでもお役に立てるよう、頑張ります」

イセッタはくすりと笑った。

「期待しているわ。  
でも、まずはゆっくり休んで。  
あなたは、もう十分頑張ったのよ」

二人は並んで歩き、庭の奥へ進んだ。

その頃、王宮では――

エクウス王太子は、私室で側近の報告を受けていた。

「ソニア嬢は、昨夜からレーヴェント公爵屋敷に滞在している模様です。  
正式に、公爵家お抱えの聖女として迎えられる方針だと……」

エクウスの顔が、歪んだ。

「なんだと……?」

彼は拳を握りしめ、机を叩いた。

「俺が庇護しようとした聖女が……  
あの女の屋敷に……!」

側近が恐る恐る進言する。

「殿下、このままでは、世論がさらに……」

「黙れ!」

エクウスは怒鳴った。

「すべて、あの女のせいだ!  
イセッタが、余裕で了承したあの態度……  
そしてソニアが、俺の前で否定した……!」

彼の瞳に、暗い炎が宿り始めた。

(許さない……  
二人とも、俺に恥をかかせた……)

逆恨みの火が、静かに、しかし確実に燃え上がり始めた。

一方、レーヴェント公爵屋敷の書斎では――

イセッタは、父公爵に報告を終え、一人残っていた。

窓の外、ソニアが庭でメイドたちと話している姿が見える。

(あの子は、大丈夫)

イセッタは机に向かい、新たな便箋を取り出した。

宛先は――北のノルドハイム公爵、ルクシオ・フォン・ノルドハイム。

(そろそろ、直接会うときね)

彼女は筆を走らせ始めた。

婚約破棄の報告と、領地視察の打診。

そして、同盟の可能性について。

転生者の知識が、静かに動き始める。

新しい物語が、ここから始まる。

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