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第6話 別れの夜
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第6話 別れの夜
レーヴェント公爵屋敷の客間は、柔らかな魔力灯の光に包まれていた。
窓の外はすでに夜深く、王都の街灯が遠くに瞬いている。
イセッタはソニアを上座に座らせ、自分は隣に腰を下ろしていた。
テーブルの上には、温かい紅茶と、夜食用の小さなケーキが並べられている。
ソニアは両手を膝の上で固く握りしめ、俯いたままだった。
「イセッタ様……本当に、ごめんなさい……」
声は震え、涙がぽろぽろと頰を伝う。
「私のせいで……殿下との婚約が……
あんな場で、私がもっとうまく言えていたら……」
イセッタは静かに首を振り、ソニアの手を優しく包み込んだ。
「違うわ、ソニア」
彼女の声は穏やかで、しかし確かな力強さを帯びていた。
「あなたは、ただ正直に話しただけ。
それが正しいことだったのよ」
ソニアが顔を上げる。
碧の瞳は涙で潤み、困惑と罪悪感で揺れている。
「でも……殿下は、私を守ろうとしてくださったのに……
私が否定したせいで、殿下の評判が……」
イセッタは小さく微笑んだ。
「殿下は、あなたを守ろうとしたわけじゃないわ」
ソニアが目を丸くする。
「え……?」
「殿下は、自分の正義感を満たしたかっただけ。
あなたを道具にして、私を公開処刑したかったのよ」
イセッタの言葉は冷たく、しかし事実を淡々と述べるだけだった。
「あなたが否定したことで、殿下の計画は崩れた。
それだけのこと」
ソニアは唇を噛んだ。
「でも……それで、イセッタ様が自由になられたのは……嬉しいけど……
私、王都にいづらくなってしまって……」
イセッタは頷いた。
「ええ、わかっているわ」
彼女はソニアの目を見つめ、静かに続けた。
「だから、提案があるの」
「提案……?」
「私の屋敷に、滞在しない?」
ソニアが息を呑む。
「ここ、レーヴェント公爵屋敷は広いし、別邸もいくつかある。
あなたが落ち着ける場所を用意できるわ」
「で、でも……そんな、ご迷惑では……」
イセッタは首を振った。
「迷惑じゃない。
むしろ、私がお願いしたいの」
ソニアが驚いた顔をする。
「あなたは本物の聖女の力をお持ちでしょう?
王国にとって、貴重な存在よ」
イセッタは優しく微笑んだ。
「そして――私は、あなたを守りたい」
ソニアの瞳に、再び涙が浮かんだ。
「イセッタ様……」
「殿下の勘違いで、あなたも巻き込まれてしまった。
これから、貴族たちの視線が厳しくなるかもしれない。
王宮にいたら、殿下の側近たちが何か仕掛けてくる可能性もあるわ」
イセッタはソニアの手を強く握った。
「ここにいれば、公爵家の庇護下に入る。
誰も、手を出しにくくなる」
ソニアはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……お言葉に、甘えても……いいでしょうか?」
イセッタは明るく微笑んだ。
「もちろんよ。
明日から、準備をしましょう」
二人は紅茶を飲みながら、他愛もない話をした。
ソニアの故郷のこと。
聖女の力に目覚めたきっかけ。
学園での小さな思い出。
イセッタは、転生者の知識を隠しながら、ただ優しく耳を傾けた。
(この子は、ゲームの主人公だけど……
原作とは、もう違う道を歩むわ)
深夜。
ソニアが客室に案内され、休む頃――
イセッタは自室に戻り、窓辺に立った。
夜の王都を見下ろしながら、静かに息を吐く。
(婚約は解消された。
これで、私は自由)
前世のゲーム知識では、ここから悪役令嬢は追放され、転落していくはずだった。
だが、現実は違う。
彼女は追放されず、むしろ世論の支持を得た。
貴族たちは、王太子の軽率さを非難し、イセッタの品格を称賛している。
(これから、どう動くか……)
イセッタは机に向かい、便箋を取り出した。
父公爵への報告書。
そして、いくつかの貴族家への礼状。
さらに――北のノルドハイム公爵家への書状も。
(ルクシオ公爵……
そろそろ、接触する頃ね)
ゲーム知識では、彼は隠れ攻略対象の一人。
冷酷で知られる辺境の公爵だが、実は深い愛情を持つ人物。
イセッタは、すでに数年前から手紙のやり取りを始めていた。
同盟の可能性を探る、表向きの理由で。
(彼なら、私の味方になってくれる)
筆を走らせながら、イセッタは静かに微笑んだ。
一方、王宮では――
エクウス王太子の私室。
彼は一人、窓辺に立っていた。
夜の街を見下ろしながら、拳を握りしめている。
(なぜ……あんなことに……)
屈辱が、胸に焼き付いていた。
イセッタの、あの余裕の微笑み。
ソニアの、涙ながらの否定。
貴族たちの、冷たい視線。
(俺は、正しいことをしただけなのに……)
だが、心の奥底で、小さな黒い感情が芽生えていた。
イセッタへの怒り。
そして――ソニアへの、裏切られたという思い。
(あいつらが……俺に恥をかかせた……)
エクウスは、ゆっくりと振り返った。
机の上に、側近からの報告書が置かれている。
『ソニア嬢、レーヴェント公爵屋敷に滞在を始めた模様』
その一文を読んだ瞬間、エクウスの瞳に、暗い光が宿った。
レーヴェント公爵屋敷の客間は、柔らかな魔力灯の光に包まれていた。
窓の外はすでに夜深く、王都の街灯が遠くに瞬いている。
イセッタはソニアを上座に座らせ、自分は隣に腰を下ろしていた。
テーブルの上には、温かい紅茶と、夜食用の小さなケーキが並べられている。
ソニアは両手を膝の上で固く握りしめ、俯いたままだった。
「イセッタ様……本当に、ごめんなさい……」
声は震え、涙がぽろぽろと頰を伝う。
「私のせいで……殿下との婚約が……
あんな場で、私がもっとうまく言えていたら……」
イセッタは静かに首を振り、ソニアの手を優しく包み込んだ。
「違うわ、ソニア」
彼女の声は穏やかで、しかし確かな力強さを帯びていた。
「あなたは、ただ正直に話しただけ。
それが正しいことだったのよ」
ソニアが顔を上げる。
碧の瞳は涙で潤み、困惑と罪悪感で揺れている。
「でも……殿下は、私を守ろうとしてくださったのに……
私が否定したせいで、殿下の評判が……」
イセッタは小さく微笑んだ。
「殿下は、あなたを守ろうとしたわけじゃないわ」
ソニアが目を丸くする。
「え……?」
「殿下は、自分の正義感を満たしたかっただけ。
あなたを道具にして、私を公開処刑したかったのよ」
イセッタの言葉は冷たく、しかし事実を淡々と述べるだけだった。
「あなたが否定したことで、殿下の計画は崩れた。
それだけのこと」
ソニアは唇を噛んだ。
「でも……それで、イセッタ様が自由になられたのは……嬉しいけど……
私、王都にいづらくなってしまって……」
イセッタは頷いた。
「ええ、わかっているわ」
彼女はソニアの目を見つめ、静かに続けた。
「だから、提案があるの」
「提案……?」
「私の屋敷に、滞在しない?」
ソニアが息を呑む。
「ここ、レーヴェント公爵屋敷は広いし、別邸もいくつかある。
あなたが落ち着ける場所を用意できるわ」
「で、でも……そんな、ご迷惑では……」
イセッタは首を振った。
「迷惑じゃない。
むしろ、私がお願いしたいの」
ソニアが驚いた顔をする。
「あなたは本物の聖女の力をお持ちでしょう?
王国にとって、貴重な存在よ」
イセッタは優しく微笑んだ。
「そして――私は、あなたを守りたい」
ソニアの瞳に、再び涙が浮かんだ。
「イセッタ様……」
「殿下の勘違いで、あなたも巻き込まれてしまった。
これから、貴族たちの視線が厳しくなるかもしれない。
王宮にいたら、殿下の側近たちが何か仕掛けてくる可能性もあるわ」
イセッタはソニアの手を強く握った。
「ここにいれば、公爵家の庇護下に入る。
誰も、手を出しにくくなる」
ソニアはしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷いた。
「……お言葉に、甘えても……いいでしょうか?」
イセッタは明るく微笑んだ。
「もちろんよ。
明日から、準備をしましょう」
二人は紅茶を飲みながら、他愛もない話をした。
ソニアの故郷のこと。
聖女の力に目覚めたきっかけ。
学園での小さな思い出。
イセッタは、転生者の知識を隠しながら、ただ優しく耳を傾けた。
(この子は、ゲームの主人公だけど……
原作とは、もう違う道を歩むわ)
深夜。
ソニアが客室に案内され、休む頃――
イセッタは自室に戻り、窓辺に立った。
夜の王都を見下ろしながら、静かに息を吐く。
(婚約は解消された。
これで、私は自由)
前世のゲーム知識では、ここから悪役令嬢は追放され、転落していくはずだった。
だが、現実は違う。
彼女は追放されず、むしろ世論の支持を得た。
貴族たちは、王太子の軽率さを非難し、イセッタの品格を称賛している。
(これから、どう動くか……)
イセッタは机に向かい、便箋を取り出した。
父公爵への報告書。
そして、いくつかの貴族家への礼状。
さらに――北のノルドハイム公爵家への書状も。
(ルクシオ公爵……
そろそろ、接触する頃ね)
ゲーム知識では、彼は隠れ攻略対象の一人。
冷酷で知られる辺境の公爵だが、実は深い愛情を持つ人物。
イセッタは、すでに数年前から手紙のやり取りを始めていた。
同盟の可能性を探る、表向きの理由で。
(彼なら、私の味方になってくれる)
筆を走らせながら、イセッタは静かに微笑んだ。
一方、王宮では――
エクウス王太子の私室。
彼は一人、窓辺に立っていた。
夜の街を見下ろしながら、拳を握りしめている。
(なぜ……あんなことに……)
屈辱が、胸に焼き付いていた。
イセッタの、あの余裕の微笑み。
ソニアの、涙ながらの否定。
貴族たちの、冷たい視線。
(俺は、正しいことをしただけなのに……)
だが、心の奥底で、小さな黒い感情が芽生えていた。
イセッタへの怒り。
そして――ソニアへの、裏切られたという思い。
(あいつらが……俺に恥をかかせた……)
エクウスは、ゆっくりと振り返った。
机の上に、側近からの報告書が置かれている。
『ソニア嬢、レーヴェント公爵屋敷に滞在を始めた模様』
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