『勘違い殿下の逆恨みは、鉄壁の公爵家に砕け散る~聖女と元婚約者が手を取り合った結果~』

ふわふわ

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第12話 急速な接近

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 第12話 急速な接近

ノルドハイム城のバルコニーで、雪が静かに降り続いていた。

イセッタとルクシオは、欄干に寄りかかり、並んで夜空を見上げていた。  
遠くの山々が月光に照らされ、白銀の世界が広がっている。

ルクシオの言葉が、まだ耳に残っていた。

「私は、貴女に――ずっと、興味を持っていました」

イセッタは、頰の熱を抑えながら、静かに答えた。

「私も……貴方に、興味があります」

その一言に、ルクシオの銀灰色の瞳が、わずかに揺れた。

彼はゆっくりと体を向け、イセッタをまっすぐに見た。

「本当ですか?」

声は低く、抑えきれない喜びを孕んでいた。

イセッタは頷き、微笑んだ。

「手紙のやり取りで、貴方の考え方が好きになりました。  
領民を第一に考える姿勢、軍事力ではなく知恵で領地を守る方法……  
すべて、共感できました」

ルクシオの表情が、初めて柔らかくなった。

「貴女こそ……  
若いのに、あれほど深い洞察力をお持ちだとは」

彼は少し照れたように視線を逸らし、雪を見た。

「正直、婚約破棄の報を聞いたとき、  
すぐに手紙を書きたかった。  
でも、失礼になるかと思って……」

イセッタはくすりと笑った。

「だったら、もっと早く来てくださってもよかったのに」

ルクシオが顔を上げ、驚いたように彼女を見る。

「それは……本気で?」

「ええ。  
私は、もう自由です」

二人の距離が、自然と縮まった。

ルクシオが、ゆっくりと手を差し出す。

「なら……許可をいただけますか?」

イセッタは、その大きな手に自分の手を重ねた。

温かく、力強い感触。

「どうぞ」

ルクシオは優しく手を包み、静かに言った。

「イセッタ……  
これから、貴女の傍にいさせてください」

心臓が、どきどきと鳴る。

(これは……ゲームのルートを超えてる)

イセッタは、転生者の知識を頭の隅に追いやり、今この瞬間を感じた。

「嬉しいわ、ルクシオ」

二人は、雪の降るバルコニーで、しばらく無言で手を繋いでいた。

翌日。

ノルドハイム城の会議室。

イセッタとルクシオは、領地経営の話を本格的に始めた。

机の上には、地図と報告書が広げられている。

ソニアは少し離れた席で、紅茶を飲みながら見守っていた。

「北の領地は、鉱山資源が豊富ですが、冬の補給が課題ですね」

イセッタが地図を指差す。

ルクシオが頷く。

「その通り。  
だから、南からの交易路を強化したい。  
レーヴェント家の商業網を使わせていただければ……」

イセッタは微笑んだ。

「もちろん。  
その代わり、北の軍事技術を、少し分けてもらえませんか?  
私たちの私兵団の訓練に」

ルクシオが目を細める。

「取引……ではなく、同盟ですね」

「ええ。  
そして――」

イセッタは、少し頰を赤らめながら続けた。

「個人的にも」

ルクシオの表情が、明るくなった。

「喜んで」

二人は、領地視察の予定を立て始めた。

鉱山、要塞、領民の村……  
すべてを一緒に回る。

ソニアが、小さく微笑む。

(イセッタ様……幸せそう)

視察の合間、ルクシオはイセッタを城の図書室に案内した。

古い書物が並ぶ、静かな部屋。

「ここが、私の好きな場所です」

ルクシオが、本棚から一冊取り出す。

「貴女が手紙で勧めてくれた、古代魔法の書……  
実際に読んでみて、目から鱗でした」

イセッタは目を輝かせた。

「本物が見られて嬉しいわ」

二人は並んで本をめくり、魔法理論を語り合った。

時間が経つのを忘れるほど。

夕食の席で、ルクシオが正式に宣言した。

「イセッタ殿下の滞在期間を、予定より延長したい。  
一ヶ月……いや、二ヶ月でも」

イセッタは笑った。

「構いませんわ。  
お父様にも、許可は取ってあります」

ルクシオが、テーブル越しに手を差し出す。

イセッタが重ねる。

「では……婚約を、視野に入れて」

周囲の家臣たちが、驚きの声を上げた。

しかし、すぐに拍手が沸き起こる。

ソニアも、目を潤ませて拍手した。

急速な接近。

手紙から始まった関係が、現実で花開く。

その頃、王宮。

エクウスは、情報屋からの急報を受けていた。

「イセッタが、ノルドハイム城に滞在……  
しかも、ルクシオ公爵と、婚約の話が進んでいる模様です」

エクウスの顔が、真っ青になった。

「なんだと……?」

彼は机を叩き、立ち上がった。

「あの冷酷公爵と……!  
イセッタが……!」

情報屋が続ける。

「噂の流布は、効果を上げ始めています。  
一部の貴族が、『聖女の力に疑問』を口にし始めました」

だが、エクウスはもう聞いていなかった。

胸の奥で、黒い感情が爆発していた。

嫉妬。  
そして、さらなる逆恨み。

「許さない……  
絶対に、許さない……!」

彼は側近を呼び、声を低くした。

「北へのスパイを増やせ。  
イセッタとソニアの、すべての行動を監視しろ」

焦燥が、エクウスを蝕み始める。

北の城で、イセッタとルクシオの関係は、日ごとに深まっていく。

視察、会話、夜の散歩……  
二人は、互いのすべてを知りたがっていた。

イセッタは、ルクシオの溺愛に、少し戸惑いながらも、幸せを感じていた。

(これが……本物の恋?)

急速な接近は、誰も止められない。

新しい絆が、北の雪の中で、静かに、しかし確実に強くなっていく。
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