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第29話 最後の手紙
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第29話 最後の手紙
幽閉されてから、一年が過ぎていた。
王宮の地下深く、窓のない石の部屋。
エクウスは、薄い毛布に包まり、床に座っていた。
魔力灯の淡い光が、壁に長い影を落とす。
かつての金色の髪は、伸び放題で乱れ、
青い瞳は、虚ろに宙を眺めていた。
毎日の生活は、単調だった。
朝と夕方に、騎士が食事を運んでくる。
それ以外は、誰も訪れない。
本を読むことも、散歩することも、許されない。
ただ、静かに、日々を過ごすだけ。
エクウスは、時折、壁に指で文字をなぞった。
『イセッタ』
その名前を、呟く。
後悔が、胸を締めつける。
あの舞踏会の夜。
勘違いから始まった、すべて。
ソニアを庇護しようとした正義感。
イセッタを公開処刑しようとした傲慢。
それが、逆恨みを生み、
暗殺未遂を繰り返し、
王国を危機に陥れた。
今となっては、すべてが、愚かだったとわかる。
(俺は……
彼女を、愛していたのかもしれない)
だが、もう遅い。
イセッタは、ルクシオと幸せに暮らし、
王国を支える賢明の令嬢として、尊敬を集めている。
ソニアも、騎士と結ばれ、聖女として輝いている。
エクウスは、ただ、闇の中で、
過去を悔いるだけ。
ある日――
騎士が、珍しく手紙を運んできた。
「これ……陛下のご許可で」
封筒には、優雅な筆跡。
差出人――イセッタ・フォン・ノルドハイム。
エクウスは、震える手で封を開けた。
一枚の便箋。
『殿下へ
お手紙を差し上げるのは、これが初めてのことと存じます。
幽閉生活が、長引いておられることと存じます。
殿下は、かつて、私の婚約者でいらっしゃいました。
幼い頃は、優しく手を差し伸べてくださったこともありました。
あの舞踏会の夜、殿下のお勘違いから、すべてが始まりました。
私どもに、逆恨みを抱かれ、
複数回の暗殺を企てられ、
王国を危機に陥れられました。
しかし――
今、私は幸せです。
ルクシオ公爵に愛され、
ソニア聖女と固い友情を結び、
王国を支える立場をいただきました。
殿下は、また大きな『お勘違い』をなさいましたね。
私どもに恨む理由など、最初からございませんでしたのに。
聖女様も今は、私の庇護下で、大変お幸せに暮らしておられます。
もう、私どもをお悩ませになることはございませんわ。
どうか、静かに、お過ごしくださいませ。
――イセッタ・フォン・ノルドハイム』
エクウスは、手紙を読み終え、
ただ、静かに涙を流した。
優しく、しかし冷たく、
一刀両断する言葉。
あの舞踏会の夜、イセッタが言った言葉を、
優雅に、繰り返していた。
「殿下はまた大きな『お勘違い』をなさいましたね。私どもに恨む理由など、最初からございませんでしたのに。」
エクウスは、手紙を胸に押し当て、
床に崩れ落ちた。
「イセッタ……
すまない……
本当に……すまない……」
声は、誰にも届かない。
騎士が、食事を運んでくるが、
エクウスは、もう何も口にしなかった。
最後の手紙は、
彼の心を、完全に砕いた。
イセッタの言葉は、
優しさではなく、
決別だった。
エクウスは、静かに、
闇の中で、すべてを受け入れた。
一方、レーヴェント屋敷。
イセッタは、手紙の写しを、ルクシオに見せていた。
「これで……本当に、終わりね」
ルクシオが、妻を抱きしめた。
「貴女は、優しすぎる」
イセッタは、静かに微笑んだ。
「いいえ。
これで、殿下も、解放されるかもしれない」
ソニアが、部屋に入ってきた。
「イセッタ様……手紙、送ったんですね」
イセッタが、頷いた。
「ええ。
最後の、慈悲よ」
三人で、窓の外を見た。
秋の空が、澄んでいる。
王国は、平和で、
繁栄していた。
エクウスの影は、完全に消えた。
最後の手紙は、
すべてを、終わらせた。
イセッタは、ルクシオの胸に寄りかかり、
静かに目を閉じた。
(これで……
本当に、自由になった)
過去は、闇に葬られ、
未来は、輝いていた。
エクウスは、静かに、
歴史の片隅で、
その罪を、背負い続ける。
誰も、彼を、許さなかった。
しかし、王国は、
前を向いていた。
最後の手紙は、
優しく、しかし確実に、
すべてを、締めくくった。
幽閉されてから、一年が過ぎていた。
王宮の地下深く、窓のない石の部屋。
エクウスは、薄い毛布に包まり、床に座っていた。
魔力灯の淡い光が、壁に長い影を落とす。
かつての金色の髪は、伸び放題で乱れ、
青い瞳は、虚ろに宙を眺めていた。
毎日の生活は、単調だった。
朝と夕方に、騎士が食事を運んでくる。
それ以外は、誰も訪れない。
本を読むことも、散歩することも、許されない。
ただ、静かに、日々を過ごすだけ。
エクウスは、時折、壁に指で文字をなぞった。
『イセッタ』
その名前を、呟く。
後悔が、胸を締めつける。
あの舞踏会の夜。
勘違いから始まった、すべて。
ソニアを庇護しようとした正義感。
イセッタを公開処刑しようとした傲慢。
それが、逆恨みを生み、
暗殺未遂を繰り返し、
王国を危機に陥れた。
今となっては、すべてが、愚かだったとわかる。
(俺は……
彼女を、愛していたのかもしれない)
だが、もう遅い。
イセッタは、ルクシオと幸せに暮らし、
王国を支える賢明の令嬢として、尊敬を集めている。
ソニアも、騎士と結ばれ、聖女として輝いている。
エクウスは、ただ、闇の中で、
過去を悔いるだけ。
ある日――
騎士が、珍しく手紙を運んできた。
「これ……陛下のご許可で」
封筒には、優雅な筆跡。
差出人――イセッタ・フォン・ノルドハイム。
エクウスは、震える手で封を開けた。
一枚の便箋。
『殿下へ
お手紙を差し上げるのは、これが初めてのことと存じます。
幽閉生活が、長引いておられることと存じます。
殿下は、かつて、私の婚約者でいらっしゃいました。
幼い頃は、優しく手を差し伸べてくださったこともありました。
あの舞踏会の夜、殿下のお勘違いから、すべてが始まりました。
私どもに、逆恨みを抱かれ、
複数回の暗殺を企てられ、
王国を危機に陥れられました。
しかし――
今、私は幸せです。
ルクシオ公爵に愛され、
ソニア聖女と固い友情を結び、
王国を支える立場をいただきました。
殿下は、また大きな『お勘違い』をなさいましたね。
私どもに恨む理由など、最初からございませんでしたのに。
聖女様も今は、私の庇護下で、大変お幸せに暮らしておられます。
もう、私どもをお悩ませになることはございませんわ。
どうか、静かに、お過ごしくださいませ。
――イセッタ・フォン・ノルドハイム』
エクウスは、手紙を読み終え、
ただ、静かに涙を流した。
優しく、しかし冷たく、
一刀両断する言葉。
あの舞踏会の夜、イセッタが言った言葉を、
優雅に、繰り返していた。
「殿下はまた大きな『お勘違い』をなさいましたね。私どもに恨む理由など、最初からございませんでしたのに。」
エクウスは、手紙を胸に押し当て、
床に崩れ落ちた。
「イセッタ……
すまない……
本当に……すまない……」
声は、誰にも届かない。
騎士が、食事を運んでくるが、
エクウスは、もう何も口にしなかった。
最後の手紙は、
彼の心を、完全に砕いた。
イセッタの言葉は、
優しさではなく、
決別だった。
エクウスは、静かに、
闇の中で、すべてを受け入れた。
一方、レーヴェント屋敷。
イセッタは、手紙の写しを、ルクシオに見せていた。
「これで……本当に、終わりね」
ルクシオが、妻を抱きしめた。
「貴女は、優しすぎる」
イセッタは、静かに微笑んだ。
「いいえ。
これで、殿下も、解放されるかもしれない」
ソニアが、部屋に入ってきた。
「イセッタ様……手紙、送ったんですね」
イセッタが、頷いた。
「ええ。
最後の、慈悲よ」
三人で、窓の外を見た。
秋の空が、澄んでいる。
王国は、平和で、
繁栄していた。
エクウスの影は、完全に消えた。
最後の手紙は、
すべてを、終わらせた。
イセッタは、ルクシオの胸に寄りかかり、
静かに目を閉じた。
(これで……
本当に、自由になった)
過去は、闇に葬られ、
未来は、輝いていた。
エクウスは、静かに、
歴史の片隅で、
その罪を、背負い続ける。
誰も、彼を、許さなかった。
しかし、王国は、
前を向いていた。
最後の手紙は、
優しく、しかし確実に、
すべてを、締めくくった。
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