追放された令嬢ですが、隣国公爵と白い結婚したら溺愛が止まりませんでした ~元婚約者? 今さら返り咲きは無理ですわ~

ふわふわ

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第11話 「迫りくる影――公爵、初めて怒る」

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第11話 「迫りくる影――公爵、初めて怒る」

馬車へ戻ったエテルナは、胸の鼓動がまだ早かった。

(あの視線……明らかに私を見ていた)

市場の熱気が嘘のように、
公爵邸へ向かう帰り道の空気は冷たく張りつめている。

アレストは向かいの席で腕を組み、
ずっと窓の外を見ていた。

沈黙が続く。

エテルナは不安になり、そっと声をかけた。

「あ、あの……公爵様。
 私、何か……迷惑を……?」

アレストが即座に振り返る。

「迷惑などない」

その瞳は鋼のように強かった。

(あ……怒ってる……?)

エテルナは胸がざわつく。

アレストは深く息をついて言った。

「……エテルナ。
 俺の前で、そんなことを二度と言うな」

エテルナは目を丸くした。

「俺は、お前を守るために結婚した。
 迷惑などと思ったことは一度もない」

言葉は厳しいのに、声は温かい。

エテルナの胸はきゅうっと締めつけられた。

(こんなふうに、誰かに守られたこと……今までなかった)

アレストは視線を伏せ、拳を握る。

「だが……今日の不審者は、看過できない」

「公爵様……あの人、やはり私を……?」

「恐らく王太子が放った者だ」

エテルナは息を呑んだ。

(やっぱり……!)

アレストは続ける。

「王太子の目的は“君の回収”。
 奴は君を支配下に置きたいのだろう」

「わ、私は……そんな……!」

「エテルナ」

アレストはエテルナの手をそっと取った。

エテルナは驚きで固まる。

「……君は、もう俺の妻だ。
 たとえ白い結婚であっても、だ」

「っ……!」

「奪わせない。
 誰にも触れさせない。
 王太子とて例外ではない」

言葉が強く響き、
エテルナは息を呑むしかなかった。

アレストが、こんなにも怒った表情を見せるのは初めてだった。

(私のために……怒ってくれている……?)

胸がじんわりと熱くなる。

***

公爵邸へ戻ると、
ルシアンと家令セオドアが緊急の報告を抱えて待っていた。

「公爵様! 先ほど、領内で不審者の目撃情報が複数……!」

「顔は隠していましたが、明らかに“騎士の動き”でした。
 訓練された者です」

アレストの表情が冷たくなる。

「……エテルナを狙っているな」

エテルナは不安そうにアレストを見る。

「わ、私のせいで……」

「違うと言っただろう」

アレストは即座に言い切る。

「王太子の動きは想定していた。
 むしろ今動いてくれたのは好都合だ。
 敵が誰か明確になった」

ルシアンは頷く。

「護衛を倍増し、結界も強化します。
 屋敷の周囲には一般の者は近づけません」

エテルナは申し訳なさで俯くが、
アレストの声が優しく響く。

「エテルナ」

顔を上げると、
アレストは初めて見せる表情をしていた。

それは――“心配”そのものだった。

「お前が無事でいることが、俺にとって最優先だ」

「……公爵様……」

「怖がらせたくはないが、状況は甘くない。
 だが、絶対に守る。
 約束する」

エテルナの胸に熱いものが込み上げた。

(こんなにも真剣に……私のことを……)

そのとき、ルシアンが小声でアレストに耳打ちする。

「……公爵様。
 やっぱり、これ“白い結婚”じゃ無理がありますって」

「黙れ」

アレストは即答した。

(無自覚です! 公爵様、完全に無自覚です!!)

エテルナは聞こえないふりをしたが、
耳の先まで真っ赤になっていた。

***

その夜。

エテルナが自室へ戻ると、
扉の前に護衛が二人立っていた。

「エテルナ様、どうぞ安心してお休みください」

「あ、あの……ありがとうございます」

不安はある。
けれど――心は不思議なほど温かかった。

(公爵様が守ってくれる……
 私のことを、大切に思ってくれている……)

胸の奥がじんと熱くなる。

その気持ちの名を、
このときのエテルナはまだ知らなかった。
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