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第12話 「胸の奥のざわめき――これはいったい何?」
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第12話 「胸の奥のざわめき――これはいったい何?」
不審な騎士の出現から一夜。
エテルナは、なかなか寝つけなかった。
――アレストの言葉が耳に残っている。
『誰にも触れさせない』『俺が守る』
(……あの声……あんなに強くて、優しくて……)
布団を抱きしめながら、
胸がじんと熱を帯びてくる。
(あれは……どういう意味なんだろう)
“白い結婚”なのだから、
恋愛感情なんて必要ないはずだ。
必要ないはずなのに――
エテルナの心は、静かにざわついていた。
***
翌朝。
エテルナが食堂へ向かうと、
アレストはすでに席についていた。
珍しい。
彼は普段、朝食を一人で簡素に済ませる。
「おはようございます、公爵様」
「……ああ。よく眠れたか?」
「は、はい……少しだけ……」
言いにくそうに言うと、
アレストはテーブルの上のカップを持ったまま動きを止めた。
「不安か?」
エテルナの胸がどきっと跳ねる。
(また……心配してくれてる)
「だ、大丈夫です。
護衛の方々もいてくださいますし……」
「俺もいる」
「……!」
小さく言い放たれたその一言に、
エテルナの心臓は一瞬で熱くなった。
アレストは続けた。
「何かあれば、必ず俺に言え」
「はい……!」
エテルナは胸に手を当てて答えた。
(どうしてこんなに嬉しいんだろう……?)
***
その日の午前。
エテルナは屋敷の中庭で、
咲き始めた青い花を眺めていた。
ミーナが駆け寄ってくる。
「エテルナ様~!!
今日の公爵様、なんだか様子が違いますよ!?
朝からやたら機嫌が良くて……!
家令さんが“あれはご結婚以来初めて見た”って!」
(き、機嫌が良い……?)
「え、えっと……理由は……?」
「わかりませんけど……
エテルナ様が笑うと、公爵様も微妙に優しい顔してます!」
「っ……!!?」
エテルナは一瞬で真っ赤になる。
(わ、私と関係あるの……?)
ミーナはさらに続けた。
「それに、廊下で部下たちが言ってましたよ!
“最近の公爵様は丸くなった”“夫人効果だ”って!」
「ふ、夫人……!」
胸がきゅっと締まる。
否定したいのに、
なぜか胸が少しだけ誇らしく感じてしまう。
(公爵様が優しいのは……私のせい……?)
そう思った瞬間、
心臓が跳ねた。
(な、なにこの感じ……!)
ミーナはぽんと手を叩いた。
「エテルナ様、公爵様に会ってくればいいのに~!」
「そ、それは……!
公爵様はお忙しいし……!」
「え~? でも、公爵様、
今ちょうど中庭の方へ向かっていますよ?」
「えぇっ!?」
そのときだった。
背後から足音が聞こえ、
エテルナは振り返った。
アレストが立っていた。
青空を背に、
風に揺れる黒髪、静かなまなざし。
「……エテルナか」
エテルナはドキッとした。
なぜか、
視線が逸らせない。
「……散歩か?」
「は、はい……」
アレストは少し迷うような仕草を見せたあと、
エテルナに手を差し出した。
「なら、一緒に歩こう」
「っ……!」
(な、な、な、何を言っているの公爵様は!!??)
固まるエテルナ。
ミーナは後ろで「きゃーーーっ!!!」と騒いでいる。
アレストはそんなミーナを無視しつつ、静かに言う。
「昨日のことがあった。
辺りを見回りながらの方が安心だろう」
あ、あぁ……そういう……理由……。
でも。
エテルナの心は勝手に走り出す。
(違う……そんな実務的な顔じゃない……!
なんか、優しい……気がする……!)
エテルナは迷いながらも、
そっとアレストの隣へ立った。
歩幅を合わせると、
自然とふたりの距離が縮まる。
空気が変わった気がした。
アレストがふと横目で見てくる。
「……緊張しているのか?」
「え、えっと……少しだけ……」
「安心しろ。俺がいる」
「……はい」
声が震えた。
胸の奥が熱い。
(私……公爵様の言葉ひとつで……こんなに揺れる……?
これって……)
今まで知らなかった感情が
静かに芽を出し始めていた。
アレストは気づかぬまま歩き続けるが、
その耳はほんのり赤く染まっていた。
***
エテルナの心のざわめき。
アレストの無自覚な優しさ。
二人の距離は、
誰もが気づくほど確かに縮まっていた。
ただ、二人だけが――
まだ、その名前を知らない。
不審な騎士の出現から一夜。
エテルナは、なかなか寝つけなかった。
――アレストの言葉が耳に残っている。
『誰にも触れさせない』『俺が守る』
(……あの声……あんなに強くて、優しくて……)
布団を抱きしめながら、
胸がじんと熱を帯びてくる。
(あれは……どういう意味なんだろう)
“白い結婚”なのだから、
恋愛感情なんて必要ないはずだ。
必要ないはずなのに――
エテルナの心は、静かにざわついていた。
***
翌朝。
エテルナが食堂へ向かうと、
アレストはすでに席についていた。
珍しい。
彼は普段、朝食を一人で簡素に済ませる。
「おはようございます、公爵様」
「……ああ。よく眠れたか?」
「は、はい……少しだけ……」
言いにくそうに言うと、
アレストはテーブルの上のカップを持ったまま動きを止めた。
「不安か?」
エテルナの胸がどきっと跳ねる。
(また……心配してくれてる)
「だ、大丈夫です。
護衛の方々もいてくださいますし……」
「俺もいる」
「……!」
小さく言い放たれたその一言に、
エテルナの心臓は一瞬で熱くなった。
アレストは続けた。
「何かあれば、必ず俺に言え」
「はい……!」
エテルナは胸に手を当てて答えた。
(どうしてこんなに嬉しいんだろう……?)
***
その日の午前。
エテルナは屋敷の中庭で、
咲き始めた青い花を眺めていた。
ミーナが駆け寄ってくる。
「エテルナ様~!!
今日の公爵様、なんだか様子が違いますよ!?
朝からやたら機嫌が良くて……!
家令さんが“あれはご結婚以来初めて見た”って!」
(き、機嫌が良い……?)
「え、えっと……理由は……?」
「わかりませんけど……
エテルナ様が笑うと、公爵様も微妙に優しい顔してます!」
「っ……!!?」
エテルナは一瞬で真っ赤になる。
(わ、私と関係あるの……?)
ミーナはさらに続けた。
「それに、廊下で部下たちが言ってましたよ!
“最近の公爵様は丸くなった”“夫人効果だ”って!」
「ふ、夫人……!」
胸がきゅっと締まる。
否定したいのに、
なぜか胸が少しだけ誇らしく感じてしまう。
(公爵様が優しいのは……私のせい……?)
そう思った瞬間、
心臓が跳ねた。
(な、なにこの感じ……!)
ミーナはぽんと手を叩いた。
「エテルナ様、公爵様に会ってくればいいのに~!」
「そ、それは……!
公爵様はお忙しいし……!」
「え~? でも、公爵様、
今ちょうど中庭の方へ向かっていますよ?」
「えぇっ!?」
そのときだった。
背後から足音が聞こえ、
エテルナは振り返った。
アレストが立っていた。
青空を背に、
風に揺れる黒髪、静かなまなざし。
「……エテルナか」
エテルナはドキッとした。
なぜか、
視線が逸らせない。
「……散歩か?」
「は、はい……」
アレストは少し迷うような仕草を見せたあと、
エテルナに手を差し出した。
「なら、一緒に歩こう」
「っ……!」
(な、な、な、何を言っているの公爵様は!!??)
固まるエテルナ。
ミーナは後ろで「きゃーーーっ!!!」と騒いでいる。
アレストはそんなミーナを無視しつつ、静かに言う。
「昨日のことがあった。
辺りを見回りながらの方が安心だろう」
あ、あぁ……そういう……理由……。
でも。
エテルナの心は勝手に走り出す。
(違う……そんな実務的な顔じゃない……!
なんか、優しい……気がする……!)
エテルナは迷いながらも、
そっとアレストの隣へ立った。
歩幅を合わせると、
自然とふたりの距離が縮まる。
空気が変わった気がした。
アレストがふと横目で見てくる。
「……緊張しているのか?」
「え、えっと……少しだけ……」
「安心しろ。俺がいる」
「……はい」
声が震えた。
胸の奥が熱い。
(私……公爵様の言葉ひとつで……こんなに揺れる……?
これって……)
今まで知らなかった感情が
静かに芽を出し始めていた。
アレストは気づかぬまま歩き続けるが、
その耳はほんのり赤く染まっていた。
***
エテルナの心のざわめき。
アレストの無自覚な優しさ。
二人の距離は、
誰もが気づくほど確かに縮まっていた。
ただ、二人だけが――
まだ、その名前を知らない。
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