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第1話 勝ち組に転生したと思いました
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第1話 勝ち組に転生したと思いました
目を覚ました瞬間、ルナ・ルクスは確信した。
――勝ちましたわ、と。
天蓋付きの寝台は、白い絹のカーテンに守られ、柔らかな光が朝を知らせている。空気は静かで、埃ひとつ感じられない。床に敷かれた絨毯は足音を吸い込み、壁には落ち着いた色調の絵画が等間隔に掛けられていた。豪奢だが、威圧感はない。長く使われ、丁寧に維持されてきた「生活のための贅沢」だった。
ここがどこか、説明はいらなかった。
記憶が自然に重なり、理解が追いつく。
――異世界。
――公爵家。
――そして私は、ルクス公爵令嬢。
前世での最期が、遠い夢のように霞む。深夜まで働き、評価されず、責任だけが積み上がっていった日々。あの重さは、もうここにはない。
侍女が控えめに扉を叩く。返事をするより早く、銀のトレイに載った朝茶の香りが届いた。温度は完璧、甘味も強すぎない。彼女の好みが、すでに把握されている。
――働かなくていい身分。
その事実は、疑いようがなかった。
この邸宅は、彼女が動かなくても回る。庭園は季節ごとに整えられ、噴水は静かに水音を奏でる。廊下を行き交う使用人たちは、必要なときにだけ現れ、不要なときには視界から消える。
午前は読書。日差しの入るサロンで、難解な書を開き、疲れたら閉じる。
午後は散策。裾を汚す心配のない園路を歩き、風の匂いを楽しむ。
夕刻はお茶。菓子は日替わりで、説明も簡潔だ。
なんて効率のいい人生。
努力も根性も、ここには不要だ。
ルナは紅茶を一口含み、静かに結論づけた。
「これはもう、休暇ですわね」
その認識が間違いだと知るまで、そう時間はかからなかった。
昼過ぎ、侍女が一枚の招待状を差し出す。
「今夜は王都で舞踏会がございます」
舞踏会。
その言葉に、軽い違和感が走る。
夜、華やかな音楽と光に包まれた会場で、ルナは微笑みを貼り付けた。挨拶、相槌、相手の立場を測る視線。失言は許されず、沈黙すら意味を持つ。三時間、姿勢を崩さず、感情を殺し続ける。
帰邸したとき、彼女は椅子に深く腰を下ろした。
足は痛くない。喉も渇いていない。だが、頭の奥がじんと重い。
……あら。
ルナは、そこでようやく気づいた。
働かなくていい身分だと思っていましたのに。
ここは楽園ではない。
――精巧に装飾された職場、ですわね。
その夜、公爵邸は変わらず静かで優雅だった。
ただ一つ、彼女の理解だけが、確実に変わっていた。
目を覚ました瞬間、ルナ・ルクスは確信した。
――勝ちましたわ、と。
天蓋付きの寝台は、白い絹のカーテンに守られ、柔らかな光が朝を知らせている。空気は静かで、埃ひとつ感じられない。床に敷かれた絨毯は足音を吸い込み、壁には落ち着いた色調の絵画が等間隔に掛けられていた。豪奢だが、威圧感はない。長く使われ、丁寧に維持されてきた「生活のための贅沢」だった。
ここがどこか、説明はいらなかった。
記憶が自然に重なり、理解が追いつく。
――異世界。
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――そして私は、ルクス公爵令嬢。
前世での最期が、遠い夢のように霞む。深夜まで働き、評価されず、責任だけが積み上がっていった日々。あの重さは、もうここにはない。
侍女が控えめに扉を叩く。返事をするより早く、銀のトレイに載った朝茶の香りが届いた。温度は完璧、甘味も強すぎない。彼女の好みが、すでに把握されている。
――働かなくていい身分。
その事実は、疑いようがなかった。
この邸宅は、彼女が動かなくても回る。庭園は季節ごとに整えられ、噴水は静かに水音を奏でる。廊下を行き交う使用人たちは、必要なときにだけ現れ、不要なときには視界から消える。
午前は読書。日差しの入るサロンで、難解な書を開き、疲れたら閉じる。
午後は散策。裾を汚す心配のない園路を歩き、風の匂いを楽しむ。
夕刻はお茶。菓子は日替わりで、説明も簡潔だ。
なんて効率のいい人生。
努力も根性も、ここには不要だ。
ルナは紅茶を一口含み、静かに結論づけた。
「これはもう、休暇ですわね」
その認識が間違いだと知るまで、そう時間はかからなかった。
昼過ぎ、侍女が一枚の招待状を差し出す。
「今夜は王都で舞踏会がございます」
舞踏会。
その言葉に、軽い違和感が走る。
夜、華やかな音楽と光に包まれた会場で、ルナは微笑みを貼り付けた。挨拶、相槌、相手の立場を測る視線。失言は許されず、沈黙すら意味を持つ。三時間、姿勢を崩さず、感情を殺し続ける。
帰邸したとき、彼女は椅子に深く腰を下ろした。
足は痛くない。喉も渇いていない。だが、頭の奥がじんと重い。
……あら。
ルナは、そこでようやく気づいた。
働かなくていい身分だと思っていましたのに。
ここは楽園ではない。
――精巧に装飾された職場、ですわね。
その夜、公爵邸は変わらず静かで優雅だった。
ただ一つ、彼女の理解だけが、確実に変わっていた。
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