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第21話 次の仕事?――いいえ、選別ですわ
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第21話 次の仕事?――いいえ、選別ですわ
朝のサロンは、いつもより書簡が多かった。
封の色も、差出人の肩書きも、実に多彩だ。
――潮目が変わりましたわね。
婚約破棄からしばらく経ち、
「批判」は「様子見」に、
「様子見」は「接触」に変わっていた。
ルナ・ルクスは、無造作に積まれた書簡を一通ずつ確認する。
急ぎ。
重要。
不要。
その分類は、迷いなく進む。
内容はだいたい同じだ。
・共同事業の打診
・顧問就任の要請
・助言の依頼
・後援のお願い
――仕事が、戻ってきましたわ。
だが、以前とは意味が違う。
これは、
「使われる側」への要請ではない。
「使いたい側」からの接近だ。
午前、執事が慎重に口を開く。
「……どれか、お受けになりますか?」
ルナは、首を横に振った。
「いいえ。
これは仕事ではありません」
一拍置いて、はっきりと言う。
「選別ですわ」
すべてを受ければ、
再び“期待”に囲まれる。
境界線が曖昧になる。
責任だけが積み上がる。
だから、選ぶ。
午後、ルナは三通だけを机に残した。
共通点は明確だ。
・契約条件が明文化されている
・責任範囲が限定されている
・途中解約条項がある
――学習した相手ですわね。
その中の一つは、地方都市の商業組合からだった。
内容は簡潔。
『一定期間、助言を求めたい。
実行責任は、当方が負う。
成果が出なければ、契約終了』
ルナは、満足そうにうなずいた。
「よろしいですわ」
これは、
“期待”ではなく、
“契約”だ。
夕方、短い面談が行われた。
相手は、疲れた顔をしているが、目は澄んでいる。
「正直に申し上げます。
王都のやり方では、
現場が回らなくなりました」
ルナは、相槌を打つだけだ。
「だから、
“何もしないで回している”
あなたに話を聞きたい」
その表現に、ルナは少しだけ微笑んだ。
「勘違いなさらないで。
私は、何もしないのではありません」
一拍。
「余計なことを、しないだけですわ」
面談は短く終わった。
条件は明確。
責任は相手側。
ルナは、助言するだけ。
実行しない。
矢面に立たない。
――理想的ですわ。
夜、書斎で一人、ルナはノートを開く。
・依頼は全受けしない
・契約なき善意は拒否
・責任の所在を曖昧にしない
前世では、
この三つを守れなかった。
だから、燃え尽きた。
窓の外では、静かに街の灯りが揺れている。
活気はあるが、騒がしくない。
ルナは、確信していた。
これから増えるのは、
仕事の量ではない。
選択肢の質だ。
働くかどうかではない。
どの仕事を、
どの条件で、
引き受けるか。
それを選べる立場に、
彼女は、ようやく立った。
そして、心の中で静かに呟く。
――次の仕事?
カップを置き、微笑む。
「いいえ。
私がするのは、
選別だけですわ」
それこそが、
働かない公爵令嬢ルナ・ルクスにとって、
最も重く、
最も短時間で済む、
唯一の“仕事”だった。
朝のサロンは、いつもより書簡が多かった。
封の色も、差出人の肩書きも、実に多彩だ。
――潮目が変わりましたわね。
婚約破棄からしばらく経ち、
「批判」は「様子見」に、
「様子見」は「接触」に変わっていた。
ルナ・ルクスは、無造作に積まれた書簡を一通ずつ確認する。
急ぎ。
重要。
不要。
その分類は、迷いなく進む。
内容はだいたい同じだ。
・共同事業の打診
・顧問就任の要請
・助言の依頼
・後援のお願い
――仕事が、戻ってきましたわ。
だが、以前とは意味が違う。
これは、
「使われる側」への要請ではない。
「使いたい側」からの接近だ。
午前、執事が慎重に口を開く。
「……どれか、お受けになりますか?」
ルナは、首を横に振った。
「いいえ。
これは仕事ではありません」
一拍置いて、はっきりと言う。
「選別ですわ」
すべてを受ければ、
再び“期待”に囲まれる。
境界線が曖昧になる。
責任だけが積み上がる。
だから、選ぶ。
午後、ルナは三通だけを机に残した。
共通点は明確だ。
・契約条件が明文化されている
・責任範囲が限定されている
・途中解約条項がある
――学習した相手ですわね。
その中の一つは、地方都市の商業組合からだった。
内容は簡潔。
『一定期間、助言を求めたい。
実行責任は、当方が負う。
成果が出なければ、契約終了』
ルナは、満足そうにうなずいた。
「よろしいですわ」
これは、
“期待”ではなく、
“契約”だ。
夕方、短い面談が行われた。
相手は、疲れた顔をしているが、目は澄んでいる。
「正直に申し上げます。
王都のやり方では、
現場が回らなくなりました」
ルナは、相槌を打つだけだ。
「だから、
“何もしないで回している”
あなたに話を聞きたい」
その表現に、ルナは少しだけ微笑んだ。
「勘違いなさらないで。
私は、何もしないのではありません」
一拍。
「余計なことを、しないだけですわ」
面談は短く終わった。
条件は明確。
責任は相手側。
ルナは、助言するだけ。
実行しない。
矢面に立たない。
――理想的ですわ。
夜、書斎で一人、ルナはノートを開く。
・依頼は全受けしない
・契約なき善意は拒否
・責任の所在を曖昧にしない
前世では、
この三つを守れなかった。
だから、燃え尽きた。
窓の外では、静かに街の灯りが揺れている。
活気はあるが、騒がしくない。
ルナは、確信していた。
これから増えるのは、
仕事の量ではない。
選択肢の質だ。
働くかどうかではない。
どの仕事を、
どの条件で、
引き受けるか。
それを選べる立場に、
彼女は、ようやく立った。
そして、心の中で静かに呟く。
――次の仕事?
カップを置き、微笑む。
「いいえ。
私がするのは、
選別だけですわ」
それこそが、
働かない公爵令嬢ルナ・ルクスにとって、
最も重く、
最も短時間で済む、
唯一の“仕事”だった。
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