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第1話 婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました
しおりを挟むその言葉は、ずいぶん丁寧だった。
「すまない。真実の愛を見つけた。私は、別な女性に恋してしまった」
王宮の応接室。
向かいに座る王太子は、申し訳なさそうに視線を伏せている。
私は少し考えてから、肩をすくめた。
「……いいと思うよ」
王太子が顔を上げる。
「え?」
「好きでもない女と政略結婚なんて、貴族社会の悪しき慣習だよ。
それを“おかしい”って思えたなら、まだ救いがある」
本音だった。
沈黙が落ちる。
想定していた反応と違ったのだろう。
「君なら、そう言うと思った」
王太子は苦笑し、少し安堵したように息を吐いた。
「婚約者でなくなっても、君とはいい友人でいられると思う」
その瞬間、私は即座に首を振った。
「やめてよ」
はっきりと、でも感情は乗せずに。
「好きな女が他にいるんでしょ?
なら、親しくしない方がいい」
「……そんなに?」
「うん」
私は指を一本立てる。
「絶対、変な誤解するやつがいるものだよ。
“捨てられた元婚約者”と“優しい王太子”。
想像するだけで胃が痛い」
王太子は、思わず吹き出した。
「君は、本当に――」
「現実的?」
「いや、聖女らしくない」
「それ、褒め言葉?」
「……多分」
私は立ち上がり、スカートを軽く整える。
「婚約は解消。
感情的なしこりもなし。
お互い、余計な火種は持たない」
それが一番、楽だ。
「じゃあ」
扉へ向かいながら、私は振り返る。
「お幸せに。
私は――」
一瞬だけ考えて、続けた。
「私は、ちゃんと楽な生き方を探すから」
王太子は、少し驚いた顔で私を見送っていた。
その視線を背中に感じながら、私は思う。
――さて。
これで、
毎日王宮に通う理由はなくなった。
それだけで、
胸の奥が少し軽くなった
婚約破棄の翌日。
私は当然のように王宮へ呼び出された。
「えー?」
思わず声が出る。
「婚約者、やめたんだし……いくら聖女でも、毎日王宮に通って、八時から五時までとか、勘弁してほしいんだけど」
執務官が固まった。
「聖女様、それは……」
「治癒はするよ? 必要な時に呼んでくれれば」
私はそう言ってから、少し考える。
「あと、拘束されるなら、その分はちゃんと欲しいな」
「……報酬、でしょうか?」
「うん。時給でいいよ」
その場の空気が、完全に凍った。
どうやらこの国では、「聖女=無償奉仕」が常識らしい。
でも、私は知っている。前世でも今世でも、善意を前提にした仕事ほど、消耗するものはない。
「命を救う仕事なんだし、安くはないでしょ」
事実しか言っていない。
その日の夕方、父に呼び出された。
「王国開闢以来の名門だ。お前には王太子と力を合わせ、この国を発展に導く義務がある」
私は少し考えてから答えた。
「そうは言ってもさ。婚約、破棄してきたのは向こうだよ?
それを今さら私に言われてもねえー」
父は言葉に詰まった。
たぶん、ここで反抗されたり、感情的になられたりする方が楽だったのだろう。
でも私は、ただ事実を言っただけだ。
婚約は終わった。
聖女の仕事は、契約次第。
だったら、無理なく、割に合う形でやるだけ。
「必要な時だけ呼んで。報酬は時給」
私はそう決めた。
――安定したサブスク生活のために。
聖女だって、人間なのだ。
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