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第3章 托卵の崩壊
セクション2 「暴かれた愚行」
しおりを挟む王都の宮廷にて。
昼下がりの穏やかな日差しが差し込む謁見の間は、緊張に包まれていた。
玉座に座る国王の隣で、王子アレックスは得意げに胸を張っていた。
その傍らにはエリザベス――ふくらみ始めた腹を愛おしそうに撫でながら、陶酔に浸った微笑を浮かべている。
「父上。彼女こそ、私の真実の愛……そしてお腹には私の子が宿っております」
アレックスは声を張り上げ、広間の臣下たちを見渡した。
その顔には誇らしげな光が宿っていたが――臣下たちの目は冷ややかだった。
そこへ、謁見の場を割るように一人の使者が進み出る。
ローソン家に仕える騎士だ。
「陛下。……この場にて、重大な事実を申し上げます」
空気が一気に張り詰める。
王は眉をひそめた。
「何事だ?」
騎士は跪き、冷徹に告げた。
「エリザベス嬢とフレーゲル男爵との密会を目撃いたしました。その折の会話にて……彼女の腹の子は、殿下の御子ではなく、フレーゲル男爵の子であると確認されました」
――ざわあああっ!
謁見の間は一瞬にして騒然となった。
臣下たちが口々に囁き合い、王の顔色が険しさを増す。
「な、何を……!?」
アレックスは血の気を失い、青ざめた顔で叫んだ。
「そんなはずはない! エリザベス、何か言え!」
震える王子の声に、エリザベスは唇を震わせた。
だが、先ほどまでの余裕ある笑みは消え失せ、顔は蒼白に染まっている。
「わ、わたしは……殿下のお子を……!」
「嘘を申すな!」
怒声とともに、別の証人が前へと進み出た。
それは王宮の衛兵であり、ローソン家の密偵が残した証拠を受け取った人物だった。
「陛下。密会の場において、フレーゲル男爵自ら『托卵』という言葉を口にしておりました。――これは録音魔導具に残されております」
証拠の魔導具が差し出され、幻影が広間に映し出される。
そこには確かに、月夜の中庭で囁き合う二人の姿――。
『殿下はすっかり信じ切っていますわ。わたしのお腹の子が殿下の御子だと』
『ふん、愚かなお花畑王子め。托卵とは言葉の通りだ――』
その瞬間、広間の空気は凍り付いた。
アレックスは、崩れ落ちるように膝をついた。
信じていた“真実の愛”。
愛しいと抱きしめた女。
そして誇らしげに語った“我が子”。
すべてが、欺瞞と嘲笑に塗り潰された。
「……そんな……ばかな……」
呻き声は誰にも慰められなかった。
臣下たちの視線は冷たく、王の瞳は怒りに燃えていた。
「フレーゲル男爵!」
王の怒声が響き渡る。
「お前は王家を欺き、我が子を愚弄した! その罪、死罪に値する!」
衛兵たちが男爵を捕らえようと進み出る。
フレーゲル男爵は狼狽し、必死に叫んだ。
「ち、違う! これは、ただの冗談で……!」
だが、その声に耳を貸す者はいなかった。
エリザベスは絶叫した。
「いやああっ! フレーゲル様! 離して! わたしは殿下の愛する女なのに――!」
だがその叫びも虚しく、兵に押さえつけられる。
アレックスは、蒼白な顔でその光景を見つめていた。
やがて、自らの喉から震えるような声を漏らす。
「……私は……私は、托卵に……欺かれた……のか……?」
誰も答えない。
だが沈黙こそが、その問いへの残酷な答えだった。
玉座の王は深々とため息をつき、厳かに言葉を放った。
「この愚行……この恥辱……もはや王国全体に広まるであろう」
謁見の間に、重く暗い影が落ちた。
王子の名誉は失墜し、王家の威信は地に堕ちた。
だが同時に――この瞬間こそ、ファミマリアの反撃の幕開けでもあった。
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