魔王山田、誠実に異世界を征服する

nexustide400

文字の大きさ
96 / 115
第二部《転生者VS転生者》編

第94話【勇者スルト、異世界の情勢を知る】

しおりを挟む

屋根伝いに走っていたスルトは教会を見つけ、無事にメリア達と合流し、再び話し合いの場に加わった。

「こちらは帝国で布教活動をされている司祭のオルラン様です」

メリアが紹介すると、老齢の男性がゆっくりと歩み出てきてスルトに会釈する。

「オルランと申します。勇者様にお会いできて光栄です。女神様から直々に遣わされたとお聞きしました」

「よろしくお願いします。ちょっと口が滑ってしまったんですがみんなには内緒で」

「このことが知れ渡ったらスルト様はいずれ次代の教皇として推薦される可能性が高いです。少なくとも私はそう考えています」

メリアの言葉に、スルトは気まずそうに眉をひそめる。

「いや、そういうのはちょっと……あの女神様を信仰って……」

「わかりました。スルト様のご意向を尊重して皆の胸にしまっておきます。キリエさん、スルト様にガイロス帝国の説明をお願いできますか」

オルランが促すと、助祭のキリエが地図を広げて机に置いた。

「もちろんです! あ、私はこの教会でオルラン様の下で布教活動をしていまして、派遣されたメリア様、セルン様のお手伝いをしています」

「そうだったんだ。宗教だから他国に教会を建てて布教してるってことね。っていうかここガイロス帝国ってところなのか。帝国ってことは皇帝がいる?」

「はい、そのあたりも含めて最初からご説明しますね。ここガイロス帝国はランドア大陸の西に位置する巨大な帝国です。大陸を北東に進むとノースランド連合の国家群、東にはモルドラス都市国家、南には神聖オーレリア王国があります」

地図の上を指で示しながらキリエが続ける。

「海が見えたから、西のここにいるわけね。ちなみに大雑把でいいけど東の方は? あと大陸ってひとつ?」

「大陸はランドア大陸とボルドア大陸があります。そして……モルドラスより東側は私達の神聖国を除き、全て魔王の支配下です」

「えっ?! もう半分ぐらい支配されてるってこと? まぁ勇者倒されたって言ってたしなぁ」

スルトの何気ない言葉に、場の空気が凍りついた。

「え……スルト様、今なんとおっしゃいましたか?」

メリアが蒼ざめた顔で問いかける。

「なんかそれ食堂でも言われた気がするけど、えーっと例の人が死んだって言ってたよ」

「そんな……」「新たな勇者様という時点で……」「でも教皇様からそんなお話は……」「スラン様はやはり亡くなっていたんですね……」

ざわめきが重なり合い、誰もが信じたくない現実を口にしていた。

「一度本国に連絡を取って教皇様に対応を確認します。新たな勇者様の誕生は公表される予定ですので」

メリアが落ち着きを取り戻すように告げ、キリエに続きを促す。

「次に、ガイロス帝国の状況についてご説明します。3年前に先帝が崩御し、ドミニス皇帝陛下が新たに即位されました」

そこでキリエが一瞬口ごもり、言いにくそうに視線を落とす。

「キリエさん、あなたの考えは理解していますが今スルト様に言うべきことではないでしょう」

オルランが穏やかながらも鋭い声音で制した。

「え? そういう風に言われるとめちゃくちゃ気になる。情報は自分で整理するから全部教えてよ」

スルトが口を挟むと、オルランはしばし逡巡してからキリエにうなずいた。

「先帝は温厚な方だったのですが……ドミニス陛下が即位されてから貴族の権利を大幅に認めたことで奴隷の身分に落とされる平民の人達が増えています。先帝が崩御されたのも暗殺という噂も……」

「キリエさん、私達が帝国で自由に布教できているのは信仰心の篤いドミニス陛下に認めて頂いているからです。そのような噂話を真に受けるなどあってはなりません」

オルランの厳しい言葉に、キリエは深く頭を下げた。重苦しい空気を破るように、スルトが声を張る。

「まぁまぁ、オルランさん。キリエさんも真剣にやってるから色々考えちゃうんだろうし。それに今の話で納得がいったよ、さっきの店の前での騒ぎ」

「いえ、私が悪いんです! オーレリア王国の件があってから私、少しおかしくなってて……次に、ガイロス帝国は神聖オーレリア王国と戦争中なんです」

「戦争中……」

スルトが呟いた時、教会の入口から騒がしい声が飛び込んできた。

 * * *

「早く司祭を呼んでこい。犯罪者を匿っているのはわかっているんだ」

「ですからオルラン様は今対応ができず……あっ!勝手に入らないでください!」

荒々しい足音が廊下を踏み鳴らし、男が奥の部屋に歩いていく。すると部屋からオルラン達が顔を出す。

「いかがされましたか? ここは神聖な場所です。静粛にお願いいたします」

「いたいた。おい、ここに犯罪者が……あっ! お前!」

男の指先が突きつけられ、スルトは自分を指差した。

「え? 俺? あーもしかしてさっき殴り飛ばした……」

「ポラン伯爵! こいつです! 勇者を騙り、我々貴族に楯突く平民です!」

やがて後方から壮年の男が現れる。伯爵と呼ばれたその人物は、冷ややかな眼差しをスルトに注いだ。

「ふむ。オルラン司祭、説明願いたい。なぜこのような男を匿っているのですか?」

「ポラン伯爵、彼は本物の勇者です。暴力で解決するのはいけませんが、ドロン男爵の暴挙を見過ごせなかったと聞いています」

「本物……なるほど、陛下がおっしゃっていた通り……わかりました、司祭であるあなたの言葉を信じましょう」

それを聞いてドロン男爵が必死に反論を試みる。

「ポラン伯爵! このような連中の言うことを信じてはなりません!」

伯爵の視線が鋭く突き刺さった。

「貴様如きが伯爵である私に意見するのか?」

「うっ……そ、それは……」

ドロン男爵の声が途切れ、沈黙が落ちる。伯爵は再びオルラン達へと向き直った。

「ただし、私の領地で貴族に暴行を加えたのは事実。ドミニス陛下から皇都に招集がかかっていますので勇者の行為について判断を仰ぎましょう。神聖国の使者であるあなた方も呼ばれているのでしょう?」

「はい。それでは私達も皇都に向かいます。スルト様、続きは移動しながらご説明しますね」

「わかった。メリアさんに任せるよ」

翌日、スルトは一行と共に皇都へと向かった。


【Invocation Protocol: ARIA/Target:Surtr】
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様

あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。 死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。 「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」 だが、その世界はダークファンタジーばりばり。 人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。 こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。 あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。 ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。 死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ! タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。 様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。 世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。 地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...