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第二部《転生者VS転生者》編
第112話【勇者スルト、掃除をする】
しおりを挟むスルト達は複数の馬車と荷馬車を編成した一団となり、目的地へと向かっていた。
豪奢な内装が施されたスルトの馬車には、アドリアンとセルンが同乗している。
揺れる車内で、セルンは青ざめた顔で額を押さえ、終始落ち着きのない様子だ。見かねたスルトが声をかける。
「セルンさん、どうしました? 二日酔いで馬車キツイですか?」
「い、いえ……それよりもやはり私が来たのは間違いではと……」
スルトは呆れた様子でアドリアンに目配せする。
「教会も勇者様への同行なら禁止どころか推奨されるのではないですか?」
「え、あの……そういうことではなくてですね……」
「昨晩はあんなに盛り上がっていたのに今日は暗いですね。飲み直します?」
スルトが懐から酒瓶を取り出すふりをすると、セルンが過剰に反応して手を振った。
「いえ! 結構です! あ、すみません……本当に大丈夫です」
「あ、そうだ。いい機会だから欲にまみれたアドリアンに懺悔させるので改心させてくれませんか?」
スルトの冗談に、アドリアンは心底苦い顔をして窓の外へ顔を逸らした。
* * *
バリオン子爵領に入り、しばらく進むと、丘の上に目的地である豪勢な屋敷が見えてきた。
「すっご、本当に金持ちなんだな」
スルトが感嘆の声を上げる。 馬車は屋敷から離れた木陰に停車した。全員が降りてくると、自然とスルトの周りに集まる。
「今夜はあそこに泊まるから。アドリアンはここで大事な積み荷とセルンさんやフェアベル達の護衛ね。後で呼ぶから敷地の中に馬車移動させて」
「承知しました」
スルトは手際よく指示を出し、手勢である三人の貴族を連れて屋敷の方へと歩き出した。
正門に辿り着くと、武装した門衛達が立ちはだかる。
「何者だ。ここはバリオン様のお屋敷だ。さっさと立ち去れ」
スルトが手を振ると、貴族達が躊躇なく剣を抜き、切っ先を突きつけた。
「おのれ……このようなことをしてただで済むと……」
そう言って剣を抜こうとした門衛を、貴族の一人が一閃の下に斬り裂いた。その隙にもう一人の門衛が悲鳴を上げて逃げ出し、警鐘が鳴り響いた。
「あーあー、いっぱい来ちゃうね。俺はこのまま行くけど死んだら自己責任だからね」
スルトの軽い言葉に、三人は無言で頷く。わらわらと湧いてくる衛兵に対し、スルトは散歩でもするかのように歩きながら、適当に魔法を放って吹き飛ばしていく。屋敷の重厚な扉に辿り着くと、蹴り一発で蝶番ごと破壊し、堂々と侵入した。
エントランスホールに入ると、豪華な衣装を纏った男が剣を構えて叫ぶ。
「何者だ! 私を誰だと思っている!」
スルトは一瞬で距離を詰め、男の剣を蹴り飛ばすと、鳩尾に拳を叩き込んだ。
「ごふっ……!」
「害虫駆除に来た業者でーす、なんちゃって。勇者だよ」
「ゆ、勇者……様……」
床に倒れ込み、悶絶しながらバリオン子爵はゆっくりとスルトを見上げる。その目に絶望の色が浮かぶ。
「やはり……こうなりますか……覚悟はできております……」
「そっか。じゃ、攻撃やめさせて居間に家族全員集めて」
スルトに襟首を掴まれて立たされたバリオン子爵は、震える足で廊下へ走り、降伏と招集を大声で叫んだ。
居間のソファにスルトが深々と腰掛けると、掃討を終えた三人の貴族が入ってくる。そのうちの一人が、脇腹から血を滴らせながら苦しい表情を浮かべていた。
「だらしないなぁ。陛下だったら呆れて殺されてるよ」
そう言ってスルトが手をかざし回復魔法をかけると、傷はたちまち塞がった。しきりに礼を言う貴族に、スルトは顎で外をしゃくる。
「アドリアン呼んできて。あと、君らも金貨とか金目の物、集めてきて。絵画とか大きいのはいらないから。あと積み込む荷馬車も調達よろしく」
残りの二人も居間から出て、作業にかかる。
しばらくして、居間にはバリオン子爵夫妻、数人の息子達と娘が怯えた様子で集められていた。
スルトが長男と思しき男に視線を向ける。
「お前がペリオンか。アドリアン、連れて行って準備して」
後ろに控えていたアドリアンが歩み出る。その顔に一瞬、暗い愉悦が浮かぶが、すぐに真面目な表情に戻り、抵抗しようとするペリオンを無理矢理引きずって部屋を出ていった。
「勇者様、この度は愚息が大変なご迷惑をおかけしまして……」
バリオンの必死の謝罪を、スルトが手を挙げて遮った。
「そういうのいいから。もう処分は正式に決定してるんだ」
処分と聞いて、全員が俯く。
「爵位は剥奪。領地も財産も全て没収。これが陛下から預かった書状ね。領内にもう一人息子いるみたいだけどちゃんと伝えてね」
机の上に書状を放る。
「陛下の……承知しました。寛大なご処分、感謝いたします」
子爵が深く頭を下げる。 それを見た子爵夫人が、糸が切れたように泣き崩れた。
「どうするのよ……命だけ残ったってどうやって生きていくの……あなたのせいで! あの子を甘やかすからこんなことに!」
居間に罵声が響く中、いつの間にか入ってきていたフェアベルが、スルトに耳打ちした。
「ねぇスルト様。あの子、もらってもいいですか?」
フェアベルの視線の先には、部屋の隅で震えながら涙を流す娘がいた。
「君、本当にブレないね。もう平民になったんだから好きに口説けばいいよ」
「ありがとうございます。優しい主様のことも愛してしまいそうです」
「興味ないくせに」
スルトが言い捨てると、フェアベルは娘の手を取り、優しく何かを囁きながら屋敷の奥へと消えていった。
罵倒する気力も尽き、夫人が呆然として座り込むと、バリオンがおずおずと尋ねた。
「あの……勇者様。ペリオンは……」
スルトは何も言わず、底知れない昏い瞳で子爵を見据えた。バリオンは怯えた様子で家族を連れ、逃げるように屋敷の外へと出ていった。
* * *
屋敷の一室で、騒動の元凶であるペリオンは椅子に縛り付けられていた。
アドリアンが近くのテーブルに、楽しげに道具を並べていく。
「めちゃくちゃ用意周到じゃん。そんな物騒なもの積んでたのか」
スルトが呆れていると、助祭のセルンが部屋に入ってきた。
「スルト様、お呼びでしょうか。……っ! こ、これは……」
異様な光景に息を呑む。
「仕事の時間だよ。セルンさん」
「え、いや、あの……私は……このような……」
後ずさるセルンを見て、スルトは小さくため息をつくと、貴族達にある指示を出した。貴族達が部屋から出ていく。
アドリアンが恭しく一礼する。
「準備が整いました」
「好きにしていいよ。俺がやったら加減できずにすぐ殺しちゃいそうだし。酒でも飲んで見てるよ」
「よろしいのですか? ありがとうございます」
恐怖に目を見開くペリオンの前に、喜色を浮かべたアドリアンが立つ。 ほどなくして、絶叫が響き渡った。セルンが顔面蒼白で顔を背ける。
貴族達が、大量の酒瓶を抱えて戻ってくる。スルトはその中から一本を受け取り、栓を抜くとセルンに差し出した。セルンは震える手でそれを見つめ、葛藤した様子で立ち尽くす。
「セルンさん、約束したよね? 神を裏切るの?」
その言葉は呪いのように響いた。 セルンは瓶を受け取ると、迷いを断ち切るように一気に呷った。
「アドリアン、セルンさんも手伝うって」
「わかりました」
絶え間のない絶叫を聞きながら、スルトはソファに身を沈めてぼんやりと考えていた。
(流れでセルンさん引き込んじゃったけど、教会使うのはアリだな。メリアさんとキリエさんは……真面目な人達だからやめとこ)
(オルラン司祭は……オーレリアに行ったんだっけ。あんな状況だと色々やらかしてそう。フェアベルに探らせてみるか。ついでにポラン侯爵も……おっと、いけない。いや、弱みを握っておくに越したことはないか)
しばらくすると、満足げな表情のフェアベルが入ってくる。
「スルト様、飼い猫が増えました。ありがとうございます」
「もう落としたんだ、早いね」
「泥水を啜りながら死んでいくのと、勇者様の理想郷のどちらがいいか選ばせただけです」
そう言ってスルトに身を寄せ、艶やかに耳元で囁く。
「スルト様もこんな悪趣味な鑑賞より、私達と遊びませんか?」
「婚約中の男を誘惑するんじゃない。今夜は仕事終わりだから適当に夫妻の寝室でも使ったらいいよ。明日は早いから寝坊しないように」
「あら、つれない主様」
そう言ってクスクス笑うと、フェアベルは裾を翻して部屋を出ていった。
スルトは酒を飲みながら、ペリオンの表情を眺める。やがて、満足そうな顔を浮かべ、深い眠りに落ちていった。
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