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第二部《転生者VS転生者》編
第114話【勇者スルト、多忙を極める】
しおりを挟むスルトはイゾルデと出発の準備を整えた後、アドリアン達と合流して皇都への帰路についていた。
揺れる馬車の中でひとしきり会話が弾んだ頃、イゾルデがふと遠慮がちな視線を向けてくる。
「あの、スルトさん。その……アドリアン様やフェアベル様とはどこで……」
「すみません。説明してなかったですね。アドリアンはシューメル侯爵から自分の下で教育して欲しいとお願いされたんです」
「教育、ですか。あの……えっと……」
言い淀む彼女へ、スルトは努めて明るく応じた。
「酷い評判だったみたいですね。ただ領地の件もあってシューメル侯爵のお願いを無下にするわけにもいかないので。今朝は礼儀正しかったでしょう?」
「はい。私もあくまで社交界での噂を聞いただけなので、思い込みは駄目ですね。ごめんなさい、変なことを言ってしまって」
しゅんとするイゾルデに、スルトは笑顔を向ける。
「いえ、気になることは遠慮なく言って下さい。フェアベルは、実は今回の騒動で状況がわからず困り果てていたときに私を訪ねてきて状況を教えてくれたんです」
「そうだったんですね。恩人の方に今朝は少し失礼な態度を取ってしまったかもしれません。彼女も……その……」
「フェアベルも悪評が多かったみたいですね。特に手癖の悪さが有名らしくて。イゾルデさんも見たでしょう、隣にいた2人。想像通りです」
「えっ……やっぱりそうなんですね」
イゾルデは顔を赤くして俯いてしまう。
「とはいえ、2人とも優秀なのでアレサンドで働いてもらいたいと考えています。問題ないですか?」
「はい。スルトさんのお仕事に口を出したりしませんから」
スルト達を乗せた馬車は、そのまま皇都へと進んでいった。
* * *
皇都への到着後、スルトとイゾルデはすぐさま皇宮へ参内した。ドミニス、そしてリーンと食卓を囲み、一連の騒動への対応に対する礼と、結婚式の相談を済ませる。
会食を終えた二人は再び馬車に乗り、会場となる大聖堂へ向かって石畳を駆けていた。
「良かったですね、イゾルデさん。リーン様も安心されてましたし」
スルトが声をかけると、イゾルデの表情が華やぐ。
「はい。リーン様には本当に感謝しかありません。それに、皇都の大聖堂で結婚式だなんて……夢みたいです」
「盛大にやりたいけど、その分準備も大変になりそうだなぁ。一旦二人でアレサンドに戻りますが、急いで仕事を片付けてこっちで準備しないと」
多忙を予感させる言葉に、イゾルデが心配そうな眼差しを向けた。
「戦争から戻られたばかりなので、無理をしないでくださいね」
「ありがとうございます。でも全然大丈夫です。イゾルデさんと一緒なのでむしろ元気が有り余ってるぐらいで」
「ふふ、私もスルトさんと再会してからすっかり体調が良くなりました」
微笑み合っているうちに、馬車は大聖堂へと到着する。そこには司教と共にセルンの姿があり、二人は大聖堂の中へと案内された。
* * *
皇都での用事を済ませ、出発を直前に控えた昼食の席。テーブルにはスルトとイゾルデに加えて、助祭のセルン、そしてパルマ伯爵が同席していた。
パルマ伯爵はシューメル侯爵から地方都市ゾディアンを中心とした広大な領地の管理を任されており、領地移譲に伴い今後はスルトの下で働くことになっている。
「パルマ伯爵、わざわざ皇都まで来て頂きありがとうございました。そのまま領地を管理して頂けるということで安心しています」
「万事お任せください。私もまさか勇者様の下で働けるとは思っておりませんでしたので身が引き締まる思いです」
真面目な顔で応じるパルマへ、スルトは冗談めかして返す。
「自分は伯爵としては後輩ですので色々教えて頂けると助かります」
「はは、承知しました。私は一度ゾディアンに戻りますが、必要でしたらすぐにアレサンドに駆けつけます」
「ありがとうございます」
続いて、スルトは静かに食事を進めるセルンへ視線を移した。
「こちらの司教様にも認めて頂いたのでセルンさんはアレサンドですね。本国の方とは大丈夫ですか」
「は、はい。問題ありません」
「そういえば、キリエさんと一緒になりますが、仲良く仕事できそうです?」
問いかけに、セルンが渋い表情を浮かべる。それを見たイゾルデが、助け舟を出すように口を開いた。
「喧嘩をされているのですか? もしよければ私からキリエさんに話しましょうか」
「い、いえ! 大丈夫です! 彼女とは信仰について意見が分かれることが多いだけですから」
「そうですか。困ったことがあれば遠慮なくおっしゃってくださいね」
イゾルデの気遣いに、セルンはしきりに恐縮してみせた。
* * *
イゾルデと共にアレサンドへ戻ったスルトを、市民たちは大歓声で出迎えた。勇者の館にも大勢が詰めかけ、アラム男爵や管理人のスイレンが対応に追われることとなる。
喧騒が落ち着いた夕刻。居間にはスルトとイゾルデ、アラム、スイレンに加え、使用人全員が集まっていた。
「スルト様、改めてお帰りなさいませ。我々一同、首を長くしてお待ちしておりました」
「ありがとうございます。皆さん元気そうで安心しました。早速ですが、やることが山積みなので先に仕事の話をしてもいいでしょうか」
スルトの言葉に、アラム達は頷いてペンと手帳を取り出す。
「まずはアラム子爵、おめでとうございます。領地がかなり広くなったので男爵のままだとやりづらいかなと思って、先日陛下に認めて頂きました」
「えっ?!」
アラムが驚きの声を上げ、その場にいる全員が同様に目を見開く。
「さて、次ですが……」
「ちょ、ちょっとお待ちください! 先ほどのお話は本当でしょうか?」
先へ進もうとするスルトを、動揺したアラムが引き留める。きょとんと首を傾げるスルトの隣で、イゾルデが口を添えた。
「私も同席していましたので本当です。スルト様、アラム様にとっては一大事なんですから」
「え、そうですね。じゃあ今度パーティーをしましょうか」
あまりに軽い調子にイゾルデは苦笑し、アラムは恐縮しきりだ。
「えっと次ですが、お願いしていた物件2つはどうでしょうか?」
「は、はい。問題ございません。皆が総出で中を綺麗にしてくれましたのでいつでも使えます」
「ありがとうございます。皆さんには後でお土産もありますので」
スルトの言葉に、スイレンが一礼しつつも不思議そうな表情を浮かべる。
「さて、では本題になりますが、春に皇都の大聖堂でイゾルデさんと結婚式を挙げることになりました」
わっと歓声が上がった。アラムが代表して祝辞を述べる。
「本当におめでとうございます。勇者様のご結婚ですから皇都で挙式されるのでは、と皆で話していたのです」
「ありがとうございます。春が近付いてきたら早めに皇都に行って準備をしたいので皆さんの中から何人かイゾルデさんのお手伝いで来て欲しいと思っています」
その瞬間、使用人たちが大きくざわついた。期待に満ちた顔を見合わせる彼らを、スイレンが窘める。
「あなた達、気持ちはわかりますが静粛に。スルト様、人選はどうされますか?」
「スイレンさんにお任せするよ。イゾルデさんとも相談してもらえる?」
頷くスイレン。スルトの合図と共に、部屋へケースが次々と運び込まれてきた。
「じゃあ、お土産タイムにしましょうか。まずはアラム子爵」
スルトはアラムへ、豪奢な毛皮のコートを手渡す。
「こ、これは……このような高価なものは受け取れません!」
「留守を預かって頂いたお礼です。イゾルデさんが選んでくれました」
イゾルデが微笑むと、アラムは何度もお礼を言いながらそれを受け取った。
「次はスイレンさんに」
続いてイゾルデがケースを開けると、青い宝石が輝くペンダントが現れる。スイレンは目を見開き、思わず後ずさった。
「あ、ちょっと新鮮な反応かも。もちろんスイレンさんへのお土産です」
「あ、あの……すでに十分すぎるほど頂いていますし。私には分不相応で……」
慌てふためく彼女へ、イゾルデが立ち上がって歩み寄る。微笑みながら優しくケースを手渡すと、スイレンは目尻に涙を浮かべ、何度も感謝の言葉を繰り返した。
「皆さんにも色々買ってきましたので好きなものを選んでくださいね」
その言葉に、使用人たちが一斉に色めき立つ。
「あ、順番どうしよう。じゃんけんにします? って皆さんちょっと目が怖いですよ。殺気感じるし落ち着いて。スイレンさんお願いします」
スイレンの周囲へ、全員が血走った目で集まり始めた。その光景に、アラムが苦笑いをもらす。
「勇者様の下で働きたいと言う者は大勢いるのですが、こういった噂が広まると帝国中から殺到しそうですな」
「領地も広がって人を増やさないといけないのでこれからも頼りにしています、アラム子爵。イゾルデさん、専用の部屋を用意してもらっているので早速行きましょう」
スルトはイゾルデの手を取り、楽しげな足取りで館の奥へと歩いていった。
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