スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~

空松蓮司

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第61話 トリガーハッピー

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「外はこんな感じだったんですね~」

 用事を終え、基地を出た僕は基地の外装を見物していた。
 円錐の白い塔だ。その塔を囲うようにスカイブルーの城壁がある。城壁の上には大量の砲台、城壁の内には塔以外にもアンテナや対空砲がいっぱいある。

(壁内もかなり武装してる……当然だけど、なんか配置が気になるんだよなぁ)

 塔のてっぺんからは大空に向かって透明の筒が伸びている。軌道エレベーター、僕らが通ってきた道だ。

「アレは張りぼてだね」

 チャチャさんは言う。

「壁1枚剥いだら複雑に入り組んだ機構が見えるよ。きっと」

 チャチャさんが言いたいことはなんとなくわかる。
 あの塔、いや、ここら一帯には何か仕掛けがある。そんな気がする。

「さてと、気を取り直して物件へ行こうか!」
「はい!」
「シキっちょが出した条件だけど、改めて確認していい?」
「もちろんです」
「1つ目の条件が武器の手入れ&開発ができる『作業場があること』、2つ目の条件が『武器庫があること』、3つ目の条件が『騒がしくないこと』、4つ目の条件が『セキュリティが強いこと』、5つ目の条件が『100万チップで買えること』。後はあったら嬉しいものとして『銃の試し撃ちができるスペース』。これで間違いない?」
「はい。条件多くてすみません……」

 正直たった100万で全部の条件を満たすことは不可能だと思う。これらの内2~3個クリアできれば上々だ。

「ぜーんぜん大丈夫だよ。チャチャさんが探した結果、全ての条件に合致する物件が1つだけあった」
「本当ですか!?」
「うん。ただ、首都近くはさすがに高くて無理だった。その物件があるのは中都市の1つ『ジョリー・ロジャー』。港街で、治安は悪い!」
「悪いんですか!?」
「海賊やマフィアが居るからね。人種も様々。自動翻訳は常にONにしておいた方が良いよ」

 自動翻訳機能はフルダイブ型ゲーム全般に付いている機能であり、海外の言葉を自動的に翻訳してくれる。
 インフェニティ・スペースのプレイヤーの30%は日本のプレイヤーだけど、70%は海外のプレイヤーだ。六仙さんやネスさんの言葉には自動翻訳が発動していたから、きっとあの2人は海外のプレイヤー。
 日本が1年早くリリースされたことや、日本人が作ったゲームゆえに日本人との親和性が高いという側面から上位のプレイヤーは日本人で占められているという事情はあるけど、プレイヤーのほとんどは海外の人間なのだ。

「やっぱり、治安の悪い所は土地も安い。ってことですか?」
「そうだね。そういう事情もある」

 さすがに怖いな。
 治安の悪い所に住むぐらいなら、もっとお金貯めて出直した方がいいかも。

「そんなに不安がることはないよ。治安は悪くてもあそこは良い街だ。港街だから流通も良いし、そこまで法がガッチガチでも無いから自由度が高い。情報統制も緩いから情報も入りやすいんだ。もしもシキっちょが『上』に行きたいのなら、あの街は悪くない」
「なるほど……」

 無法が良い方向に転がることもある、か。

 いま僕達が歩いているこの街、首都『アシア』は非常に綺麗で、すれ違う人達も愛想が良く、礼儀正しい。至る所にカメラがあって、警備ロボットと20秒間隔ですれ違う。きっと、この街中で発砲しようものならすぐさま警備ロボットや警察に囲まれて拘束されるだろう。誰に見られているかわからないから下手な会話は一切できない。ゲームとしては不自由、窮屈と言える。

「それに、あの街の大体の事情ことは武力で収められる。シキっちょ程の実力があればトラブルは力で解決できるよ♪」

 チャチャさんは僕を高く見てるなぁ……。
 どんな相手でも制せるぐらいの力は無いってば。

「後はそうそう、近くに砂漠がある」
「この熱帯のコロニーに?」
「うん。意図的に降水量とか調整して作ったんだと思うよ。砂漠でしか採れない物とかもあるからね」

 そういうこともできるんだ。

「『ジョリー・ロジャー』にはどうやって向かうのですか?」
「船か海底列車だね」
「海底列車!? な、なんですかそれ!」
「海底にトンネルがあって、そこを列車が進むのだ!」
「そ、それ! 乗ってみたいです!」
「いいけど案外面白みはないよ? 海を進むんじゃなく海底の地下を進むだけだからさ、感覚としては地下鉄と変わらんね」
「それでも体験してみたいです!」
「オッケー。では案内してあげよう!」

 と、意気揚々と地下へのエレベーターに乗り、海底列車に乗り込む。

(ホントに地下鉄とあんまりかわんなーい)

 列車のデザインは新幹線みたいな感じだった。中も新幹線風。座席は基本4人席だ。席を探して通路を歩いていると、

「うわっ!?」
「どしたのシキっちょ?」
「あ、あの、荷物棚に……」

 荷物棚に人が眠っている。
 寝袋を着て、アイマスクをしたスペースガールだ。

「……この人もロジャー行きなんですかね……」
「だろうね」
「なるほど。愉快な街みたいだ……」

 先行きに不安を感じる。

 僕とチャチャさんは隣り合って座る。海底列車は暗い鋼鉄のトンネルを走る。

「それにしても自由なゲームですね。プレイヤーが世界も国も作れるなんて……」
「開発者の狂気じみた執念を感じるよね~」

 開発者……月上さんのお父さん。
 こんな凄いゲームを娘のために作ったのだから、凄い執念というか、凄い愛だよなぁ。

(そういえば月上さんってなんでいつも月に居るんだろう。せっかくお父さんがこんなに素晴らしい世界を作ったのに、月にだけ居るなんてもったいない)

――バン!! と、遠くから銃声が聞こえた。

「おやおや、ここにも狂気を発見。シキっちょ、どの辺かわかる?」
「……およそ3車両先ですね」

 銃声が次々と鳴り響く。音は次第に近づいてくる。音の抜け具合と連続性から察するにサブマシンガンだね。

「チャチャさんが様子を見てくるよ」
「その必要はありません。銃声の辺りのプレイヤーアイコンが次々と消滅して、残った1つのアイコンがこちらに向かってきます」

 車両を繋ぐ扉を蹴破り、ガスマスクを被ったスペースガールが僕らの居る車両に突入してきた。僕らがいる席からは遠い。

「ジョリー・ロジャー行きの皆さんこんにちは! 残念ですが皆様、この列車は進路を変更いたしまーした!!」

 ガスマスクのスペースガールは手に持ったサブマシンガンを構える。
 サブマシンガンの銃身には女神のような彫りがある。

(『列車の行き先は天国でーす』……なんてありきたりなセリフ言わないよね)
「お前たちの行き先は、天国だぁ!!」
「……あはは、言うんだ」

 僕はG-AGEを手に取る。

「あたしの新作! 『クレイジー・ヴィーナス』の錆になれ!!」

 ガスマスクの女性が弾を乱射する。僕とチャチャさんは屈んで回避する。

「錆になれって、剣じゃないんだから」
「まったくだよ。はぁ~あ、ついてないね。こんな所でトリガーハッピーの羽虫に遭うなんて……まぁ、ついてないのはあっちも同じか」

 チャチャさんは口角を上げ、僕を見る。

「シキっちょ。お願いしていい?」

 トリガーハッピー……引き金を引くことに悦を感じる変態、もしくは射撃に集中して他に意識が回らない素人のこと。彼女の場合はどちらにも当てはまる。

 着くまでの暇つぶしにはちょうどいいか。僕も、トリガーを引きたくてウズウズしていたところだ。 
 
「はい。駆除します」
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