スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~

空松蓮司

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第27話 異次元の狙撃手

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 テーブルに置いてある適当なスナイパーライフルを手に取り、スコープを覗く。
 ベルトコンベアは13列。それらが常に横にスライドしている。 
 商品同士の間隔は1m程空いていて、結構隙間はある。1番奥のコンベアは右から左にスライドしていき、左の穴に入った商品はすぐさま右の穴から出てくる。

 スナイプサークルから狙いのクマちゃん人形までの道が全て貫通する瞬間は僅かコンマ4秒。
 フルオートや三点バーストは論外。1撃に賭けるなら命中精度の高いボルトアクション式。

(マクミランTAC-50……)

 3500m以上の狙撃も成功させたことがあるボルトアクション式スナイパーライフル。ここに並べられている中では1番精密射撃向き……、

(だ、け、ど)

 僕はあるスナイパーライフルに目を惹かれる。

「モシンナガンM28-30小銃」

 白い死神シモヘイヘの狙撃銃だ。
 原型は1891年に開発されており、銃の世界では『老兵』にあたる。マクミランとは実に100年近くの開発時期の開きがある。
 もちろん性能はマクミランに劣る。けれど、この銃には大きな実績がある。と言うのもシモヘイヘはこの銃でスコープを使わず照星と照門のみで狙撃をこなしていたのだ。スコープが使えないこのゲームにおいて、スコープ無しで狙撃を成功させた実績があるのは大きい。

 それにマクミランは他ゲームで使ったことないけど、モシンナガンは馴染みがある。M1911を使った時と同じで、馴染んでいるというのは大きい。

「これでいきます」
「どのナンバーのコンベアを狙いますか?」
「13で」
「承知いたしました」

 1番奥のコンベアの照明が強くなる。
 ふとツバサさんの方を見ると、

「え!?」

 なんか、ツバサさんの前に列が出来てる!
 ツバサさんはなんだあれ、サインを書いてるぞ。サイン会!? なんで!?

(やばばばば……! こんな大勢の前で冷静に狙撃なんてできないよぉ……)
「あ! シキちゃーん! 頑張って!!」

 僕の視線に気づいたツバサさんが手を振ってくる。同時に人々の目線が僕に突き刺さってきた。ツバサさんもサインしながら僕の方に体の面を向けている。

「はわわわわわわ……!」

 僕は体を震わせながらサークルに乗り、集中力散漫なまま引き金を引く。弾は1番前のコンベアの商品に激突。

「え!? シキちゃん!?」
「わわわわわ……!」

 そのまま2発、3発、4発と撃ち、いずれもあらぬ方向へ飛んでいく。

「ちょ、タイム! タイム!」

 ツバサさんがサークル内に入ってくる。

「……どーしたのシキちゃん。全然当たる感じないよ? ホントにスナイパー?」
「ああああ、あの、目線が……半径10m以内の距離に人がいっぱいいて、尚且つ視線が僕に集まっていると体が固まっててててててて……!」
「うわぁ!? まるで壊れた人形のよう!!」

 首が硬い。背中が痺れる。視界がグルグル回る~!

「じゃあなに? 人の視線が無きゃ当てられるの?」
「ははははい。おおおおおおお恐らくはははははは……」
「……わかった。視線を私に集めればいいんだね」

 ツバサさんはアイテムポーチを開いて、マイクを引き出した。

「ここはカジノだし、盛り上がるなら不法ライブも上等っしょ♪」
「え……?」

 ツバサさんは僕から距離を取った所で、

「みんな~! 盛り上がってるぅ!? 高校生アイドルの神灰ツバサでーす! 今日はオフの予定だったけど、特別に1曲歌っちゃうよ~!!」

 どわ。とカジノ全体が揺れた。
 博打をしていた客たちが、会場中の全ての目線がツバサさんに集まる。

(あ、アイドル!? す、凄い歓声だ……! 歌い出した瞬間、すべての視線を自分に集結させた。カジノ側からしたらとんだ営業妨害だけど……ディーラーも楽しんでいる感じだしいいのか? とにかく)

 これで人の目は散った。
 よし。名誉挽回、汚名返上だ……否! ここはあえて汚名挽回と言わせてもらおう!

(最初の4発でこのゲームにおけるモシンナガンの仕様はわかった。黄金時代でもオールドモデルは触ってたからね。もう弾道も弾速も完璧に把握した)

 サークルに入る。
 僕はすでに3列目より後ろのコンベアは見ていない。頭の中でコンベアを想像している。
 コンベアの動きは一定。全列の位置関係を頭に入れれば、前方3列の商品の位置から残りの列の商品の位置は把握することが可能。

「すぅ~、はぁ~……」

 うん、良い感じ。

(過緊張からの反動かな。すっと、肩の力が抜けた)

 体から余分な力が消えた。

(耳から音が消える。見なくとも、聞かずとも、周囲の景色が頭に浮かぶ。指先の感覚が尖り、口角に僅かに涎が溜まる。体がまばたきを忘れて、遥か先が目の前に見える)

 たまにある。『絶対に当たる』と撃つ前からわかることが。

 狙撃体勢に入り、狙いを定める。

「跳ねろ」

 30秒に1回訪れるコンマ4秒の空白を狙い撃つ。弾丸は1番奥、白い羽のクマちゃんに当たった。

「ヒット! おめでとうございます!」
(まだ1発残っている)

 次に今のクマちゃんの反転カラー、黒い羽のクマちゃんに向けて弾丸を放つ。弾丸は黒い羽のクマちゃんに吸い込まれていく。

「なっ!?」
(外しようが無い)

 弾は的のど真ん中に当たる。


「……寸分すんぶんくるいなし」


 世界の時が、再び正常に刻み始める。

「ひ、ヒット……あああ、当たりました……こ、こんなことが…!」

 撃ち抜いた2つのアイテムは僕のアイテムポーチに入る。

「ナンバー13の商品を、1ゲームで2個も取ったのはあなたが初めてです……」
「そうなんですか。あ、あまり人気ないゲームなんですね……」
「い、いえ、そんなことは……しかし……!」

 なんだこのNPC、驚いたり顔に汗を這わせたり、表情豊かだなぁ。

「シ、キ、ちゃーん!」
「うわっ!?」

 ツバサさんが抱き着いてきて、頬に頬ずりしてくる。

「つ、ツバサさん!?」

 あ、やばい。またお客さんの視線がこっちに……!

「ありえない! ありえないって!! ナンバー13の商品を2連発!? 君何者!? もったいない、もったいないよその腕を腐らせるのはさ! 狙える……君とツバサなら狙えるよ! てっぺんを!!」
「ととととと……!?」
「――よかったらさ!」
「あああ、あの、これあげますから!」

 僕はデータ化したぬいぐるみ2つを実体化させ、ツバサさんに押し付ける。

「それでは僕はこれで!」
「え、ちょっとまだ報酬を――」
「失礼しました!」

 そそくさと退散する。
 ツバサさんは僕を追いかけようとしたが、ファンの大群に押し寄せられ人の波に沈んだ。

(凄いなアイドルって。僕には100回人生があってもアイドルなんて無理だ……)
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