スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~

空松蓮司

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第50話 1対12

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 『令和くの一』リーダー・黄蘭おうらんは港に上がり、敵スナイパーシキが逃げ込んだ工場を見つめていた。

「シーナは潰せた。これで後は雑魚だけだ」

 黄蘭の隣にはチームメイトのあかねがいる。

「ささっと潰しちゃうでござる!」
「……はぁ」
「え? なんでため息をつくでござる?」
「茜……そのござる口調、恥ずかしいからやめてくれと何度も……」

『蘭ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ』

 狙撃手・蒼井あおいが通信機越しに言う。

『あのシーナちゃんがチームに誘った人材、油断はNGだよ』
「確かに、ね」

 同意しつつも、黄蘭には確かな油断があった。侮りが無ければこの状況で呑気に味方の口調を注意したりなどしない。

(正直、アレは数合わせだと思うけどね)

 シーナが落ちる瞬間にシキが見せた間の抜けた顔が、黄蘭の頭には残っていた。

「……なんにせよ、とっとと潰すか。行くよ、茜」
「承知でござる!」
「アオ、いま奴はどの辺?」
『工場のちゅう――』

 蒼井の言葉を遮るように、2人の目の前の工場で射撃音が鳴り響いた。それも2回。

「なんだ? 誰を撃った?」

 次の瞬間、蒼井のアイコンがマップから消えた。

「アオ!? なにがあった!?」
『……足下から急に撃たれた……!』

 オペレーター室から蒼井は言う。

(アオは正面の工場からさらに2つ奥の工場の上にいた。つまり相手は数枚の壁と天井をぶち抜いたことになる。だけど、通常のレーザー式狙撃銃ではそれだけ壁に当たれば威力は減衰し、蒼井ターゲットに当たる頃には耐久値を0にするだけの威力は無くなるはず……)

 だからシキは2発撃った。1発目で障害物全てに穴を空け、2発目をその穴に通し威力を減衰させずターゲットを撃ち抜いた。2度の射撃の間隔は0.5秒以下、普通できることではない。

(一体どうやってアオを。いや、考えるのは後だ)

 黄蘭の頭から油断が消える。
 相手の狙撃手が手強いということは十分わかった。

『早く距離を詰めて! 離れているとあっちの思う壺よ!』
「合点でござる!!」
「ちぃ!!」

 2人は工場内に突入する。すると、

「「なっ!?」」

 工場内には作業机が並んでいた。
 狙っていた狙撃手――シキは、ど真ん中にある作業机の上に立っていた。

「こ、こんにちは~……えへへ」

 なんて、呑気に下手な笑顔で挨拶する。

 なんでそんな目立つ所にいるかはわからない。
 とにかく2人はアサルトライフルを握り、引き金に掛けた指に力を入れる――

「!?」

 攻撃しようとしたその時、突然、2人は背後から撃たれた。

(別の敵!? いや違う!!)

 振り返る。そこにあったのは6基のバレットピース。

(反対側の出入り口からバレットピースを一周させ、私達の背後を取ったのか!! もしくは建物の陰に隠していたか……目立つ場所に立っていたのは意識を自分に向かせるため……!)

 だがバレットピースの威力はそこまで高くはない。装甲の薄い右足首を破壊されたが、それ以外は無事。茜も同様だ。

 2人は再び正面のシキに意識を向けるが、遅い。シキはすでにサーベルを振りかぶっていた。

(この距離で!? まさか!!)

 黄蘭は屈むが、茜は正面に向かって飛んだ。制止する時間は無かった。シキはサーベルを高出力モードにして振るう。伸びたサーベルが12m離れた茜の胴体を両断する。

「サーベルが、ここまで伸びるなんて!?」
(やっぱり、拡張性全振りサーベル!! 1度見たことあったから何とか反応できた!)

 茜が撃墜される。黄蘭は顔を起こし、すぐさまアサルトライフルの火力をシキに集中させる。
 シキはニヤリと笑い、黄蘭に向かって前進しながらアサルトライフルの攻撃をスライドステップで躱す。

(狙撃手がみずから寄ってくるだと!? しかも回避行動が上手い!!)
「バレットピース」

 シキはバレットピースを左右に散らして射出。黄蘭の左右、背後、距離5メートル地点でバレットピースは止まる。

「くっ……!?」

 シキは右手でアサルトライフルを連射してくる。

「ちぃ!!」

 とりあえずバレットピースの1発を受ける。そう決めた黄蘭は足を止め、全方向をシールドピースで固める。
 まるで甲羅に引っ込んだ亀。シキは空いた左手でG-AGEを抜き、撃つ。全方位に気を張った黄蘭はその弾丸を機械的に、反射的にシールドピースで受ける。なぜこの場面で実弾を撃ってきたのか、考える暇は無かった。

 パリン!! とシールドピースが割られ、胸の中心を弾丸は貫く。

(なにも、仕掛ける暇が無かった……!)

 バレットピースに背後を取られてから今に至るまで、黄蘭はまともに思考する時間が無かった。
 奇策に次ぐ奇策。後手後手に回り、余裕を削られ、実弾での攻撃という『異常』に気を回すことができなかった。

「……天晴あっぱれ……完敗だ」

 令和くの一、敗退。
 シキは令和くの一が落としたドロップアイテムを確認する。
 修理キット×3 EN瓶×2 スモークグレネード×8
 暗殺を得意とする令和くの一は目くらましになるスモークグレネードを重点的に集めていたようだ。シキはドロップアイテムを見て、ニヤリと笑う。

「……いいね」


 --- 


 シキ含め、この造船所には残り10機のスペースガールが居る。
 シキ以外は3人チームで動いている。そして3チームともシキのいる工場を囲うように動いていた。狙いはシキだ。

 なぜシキが狙われているか。それはシキが3チーム共にレーダー狙撃をおこなったからだ。それぞれの狙撃はシールドピースによって防がれた。だが、壁抜きあるいは屋根抜き狙撃を何度もやったシキを他チームが警戒しないはずがない。落としやすい単独の駒、それでいて驚異的な駒をこのまま放置するはずも無し。

 工場東側の出入り口に1チーム、西側の出入り口に1チーム、さらに北側の窓付近に1チームが配置する。シキはそれぞれのチームの配置をレーダーで確認した後、アサルトライフルとバレットピースを使って3チームそれぞれに攻撃を仕掛けた。

 壁を抜いた射撃が3チームを襲う。しかし3チームともがシールドピースでガードし、中に突入する。
 しかし――

「な、なんなのですか! これは!?」

 突入した1人のスペースガールが叫んだ。
 工場内は――白煙で満ちていた。
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