ドッペルツィマー ~影武者の反乱~

空松蓮司

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第40話 旅立ち

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 先生との戦いに決着が着くと、ホルスが目の前に現れた。
 さらに翼が一枚増えている。左側が五枚で、右側が三枚に……。

『そこの遺体ゴミ、貰っていいかな?』

 ホルスは先生の遺体を指さす。
 俺が王になるためにホルスクラウンの製造は絶対条件。
 先生の遺体は良い武器に変わりそうだが、やむを得ない。

「勝手にしろ」

 ホルスは先生の遺体、捥げた腕も抱えて、天へと昇っていく。

『これからお前は争奪戦に参加するのだろう?』
「……止めるか?」
『いいや。影武者ドッペルが王位争奪戦に参加するのは初めてだ。お前がどういう結末を辿るのか、楽しみにしているよ』

 俺はホルスを睨みつけ、

「いずれテメェも殺す。覚悟しとけ」
『クク……! やれるもんならやってみな』

 ホルスと先生は王卵へと還っていった。

 王卵は黄金に輝き、破裂する。

 王卵が消失すると同時に天に浮かぶ八個の王冠。それぞれ赤、青、黄、緑、紫、黒、白、ピンクの宝石が埋め込まれている。

 王冠は高く高く空に昇ると、流れ星のように八方向に散っていった。

 これで本当の意味で儀式が終わったのか。
 島には俺一人が残された。
 王都から何らかの使者が来るにしても、そうすぐには来ないだろう。
 すでに夕方だったので、俺は出発は明日にすることに決めた。
 まず足を運んだのは見慣れた教室。

 17年間――いや、この1年間は除いて16年間、世話になった教室。みんなの影が見える。

 空っぽの教室を記憶に刻み込み、次に先生の部屋に行く。

「……これからの旅に、必要な物……か」

 先生の机の中に、それはあった。
 黒い、ハーフマスクだ。目元が隠れるマスク。
 俺の顔はカルラと同じだ。外で穏便に過ごすためには隠す必要がある。確かにこれは、必要なものだ。

「こいつも貰っておこう」

 部屋にあった大陸の地図も拝借した。
 脱出用の保存食をリュックいっぱいに詰める。そしてアレも……。

「……」

 部屋に隠して管理していた、花冠。
 シレナに貰った花冠も、リュックに詰めた。
 旅の準備を終えた後……墓を作り始めた。

 元々あった二つの墓に加えて、新たに七つの墓を作った。 七つの墓にそれぞれ名を刻む。

 九つの墓、一人の先生と八人の兄弟の墓を眺める。

 アトラス(地図)
 セーラス(極光)
 ソフォス(賢者)
 ペタルダ(蝶)
 レイン(雨)
 シレナ(人魚)
 イノセンス(無垢)
 アントス(花)
 クロウリー(冒険家)
 

 悪いな……いつか、もっと大きな墓を建ててやるからさ。
 今はこれで勘弁してくれ。

「……行くか」

 夜が明けて、地下空洞へ行く。
 迷路のような道を抜け、船へ。
 船の操縦桿に陽氣を込める。するとユラユラと船は動き始めた。数分でコツを掴み、海へ出る。陽氣の操作はもう慣れたものだ。

 薄暗い早朝、日の出が海の先に見える。

 とても静かだ。見送りは誰もいないはず……なのに、アイツらが見送ってくれている気がして、涙が込み上げてきた。

「うっ、ぐっ……!」

 きっと、もう暫くは戻れないと思うから。
 さようなら、みんな。


「―――――っっ!!!!」


 泣き叫んだ。
 これから先は泣いてる暇なんてない。
 だから俺は、誰もいない海のど真ん中で泣き叫んだ。
 涙が枯れるまで、ずっと……。


 創暦1868年5月2日。


 俺は世界へ飛び立った。


 ◆ヴィンディア王宮・円卓の間◆

 
 円卓を囲むは国王と8人の王子。
 灯りは円卓に乗った蝋燭の火のみで、暗く、王子の顔はよく見えない。

「今回は突然の招集に応じてもらって嬉しく思うぞ、我が子たちよ。と言っても、クレインの馬鹿は居ないが」

 ひとつだけ、席は空席である。

「ホルスクラウンは造られ、すでに各地へ散らばった」

 国王の言葉に、王子たちは多種多様な表情を浮かべる。

 笑う者、
 悲しむ者、
 無表情、
 欠伸をする者、
 様々だ。

「戦場は完成した。各々が親衛隊を連れ、冒険に出るといい。他の王子を殺すのもこれより自由だ。ただし、王都を出るまでは互いに干渉することを禁ずる」

 国王は席を立ち、声を大きくしていく。

「生まれた順番も関係ない、男だ女だも関係ない。性格も、能力も、どれだけ愛国心があろうとも、なかろうとも、関係ない。ホルスクラウンをが問答無用で次の国王だ」

 最後の一節を聞き、カルラは微笑んだ。


「さぁ始めようじゃないか……王を決める争いを! 王乱を!!!」


 話が終わり、王子たちが去る。
 一人取り残された王の下に、一人の従者が訪れる。

「国王様、どうやらこの王位争奪戦にイレギュラーが二つ紛れ込んだようです。いや、イレギュラーが二人、と言った方がよろしいでしょうか」

「把握している。捨て置け……それはそれで面白いではないか」

 国王はある一人の少年の顔を思い浮かべる。


「王子だろうが影武者ドッペルだろうが関係ない。王冠を手にした者が――王だ」
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