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第39話 勝つさ
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先生が校庭にやってくる。
「……あなたという人間は、どこまでも私の逆鱗に触れる……」
先生は、俺の手にある黒い刀を見て、忌々しそうに言う。
黒曜刀・影打。良い重さだ。手に馴染む。黒曜刀には刃が無く、全ての面が平ら。だが切れ味を引き換えに強固さは何物にも負けない。
この刀なら俺の無茶にもついてこれる。あの技を、使える。
「アンタにも怒りとかそういう感情があるんだな。ただの錆びついた人形だと思ってたぜ」
「黙れ」
「なぁ先生、アンタ……生きるためだけに生きて、何か変わったのか?」
「黙れ……」
「ただ生き続けた先に、アンタが求めるモノは本当にあるのかよ。なぁ」
「うるさい!! あなたに何がわかると言うのです!!」
先生は怒りのまま、走り出す。
刀同士をぶつけ合う。俺は先生の左眼側から斬撃を繰り出し始める。すると段々、こっちが押し始めた。
「くっ!!」
「その左眼……ずっと閉じている所を見るに、抉られたか? やったのはワッグテールかな」
俺は先生の左脇腹を蹴り上げる。
「かはっ!?」
「アンタの剣術、随分と鈍って見えるぜ。達人程、片目が見えないってのは響くのかもな」
先生は怒りのまま刀を振り下ろす。俺は黒曜刀で受ける。
「何を上から言っているのですか? 追い詰められているのはあなたですよ?」
ズシ。と黒曜刀が重くなる。
「素の状態でも重い刀だ。もう持っているだけで辛いでしょう?」
「馬鹿かアンタ。重いってことはそれだけ――」
俺は刀を振り上げる。先生は俺の一撃を刀でガードするが、予想外の一撃の『重さ』に、大きくガードを崩した。
「強いってことだぜ。特に振り下ろしの一撃はなぁ!!!」
俺は黒曜刀を振り下ろす。先生は刀で受けず、身を引いて躱す。黒曜刀を叩きつけた地面は大きく割れた。
「……っ!!」
先生の顔に、冷や汗が浮かぶ。
「ま、持つのがキツいってのはその通りだけどな。もうわかったろ? 長期戦はお互いハイリスクだ。そろそろケリつけようぜ」
「いいでしょう。正面から斬り伏せます。どうやら私は……あなたという存在を完膚なきまでに叩き潰さないと気が済まないようだ」
「いいじゃん先生。アンタの今の顔、今までで一番『生きてる』よ」
互いに走り出す。
「この技で、終わりにしてあげますよ!!」
「『百日』か」
高速で剣を引き、高速で打つ。それを繰り返して相手の防御を打ち崩す技、『百日』。この人の唯一のオリジナル。
俺と先生は走り、そして、衝突する。
一!!
「互角か」
「いいえ! ここから――」
二!!!
「なっ!?」
先生はここで気づく。俺が先生と同じ技――『百日』を使っていることに。
「二度も見りゃ、コピーには十分だ!!」
下半身を石化させ、重心を落とす。
陽氣を上半身に集中。万全の体勢で『百日』に挑む!!
「うおおおおおおおおらあああああああああっ!!!!」
三! 四! 五! 六! 七! 八! 九! 十!!!
「――アンタは本当に、自分の運命に納得していたのか!!」
十一! 十二! 十三! 十四! 十五! 十六! 十七! 十八! 十九! 二十!!!
「私は……」
「アンタだって、本物に憧れたんじゃないか! 鳥籠の外に出たいと、願ったんじゃないのか!!」
………………五十一!!!
「憧れて何になる!! 偽物が、本物に勝てるわけがないんだ!!!」
「じゃあなんで、オリジナルの剣技なんて作った!?」
「!?」
……………………………………九十九!!!!!
「この剣が……アンタの本音だ!!!」
先生の刀に、ヒビが入る。
「偽物が、本物に勝てる、はずが――」
――――百。
「勝つさ」
俺の黒曜刀が先生の刀を砕き、先生の腹に叩きつけられる。
先生の内臓を、骨を、破壊する感覚が手を伝わる。それでも力は緩めず、俺は先生を叩き飛ばした。
---
決着はついた。
刃がついていないとはいえ、渾身の一撃が入った。内臓も、骨も、ぶっ壊した感覚があった。
先生は俺の一撃を受けた地点から100メートル程先の森の中で、血だまりを作り、仰向けに倒れていた。その表情は……どこか晴れ晴れとしている。
「一つ、聞かせてください。あなたはどこまで、飛んでいくおつもりですか?」
俺は空を指さし、
「当然――この世界、全てを照らせる所まで……」
「ははは! ……あなたの進路、確かに聞き届けましたよ」
先生はごほっと血の塊を吐く。死期が――近い。
「……私は、愛する人を失い、全てを諦めた。だけどあなたは、全てを失っても、それでも進むと言うのですね……」
「全部失ってはいないよ。全部、俺の背中に乗っかってる」
「……重くないのですか」
「それが俺の強さになるんだよ。アンタの無念も、ついでに連れてってやる」
先生の口角が、上がった気がした。だけどもう、先生の目は虚ろだ。
次が最期の言葉だろう。
「私の部屋に、これからのあなたの旅に必要な物がある。――持っていきなさい。卒業祝いです」
「そうか。……ありがとう」
先生は笑って逝った。
「……あなたという人間は、どこまでも私の逆鱗に触れる……」
先生は、俺の手にある黒い刀を見て、忌々しそうに言う。
黒曜刀・影打。良い重さだ。手に馴染む。黒曜刀には刃が無く、全ての面が平ら。だが切れ味を引き換えに強固さは何物にも負けない。
この刀なら俺の無茶にもついてこれる。あの技を、使える。
「アンタにも怒りとかそういう感情があるんだな。ただの錆びついた人形だと思ってたぜ」
「黙れ」
「なぁ先生、アンタ……生きるためだけに生きて、何か変わったのか?」
「黙れ……」
「ただ生き続けた先に、アンタが求めるモノは本当にあるのかよ。なぁ」
「うるさい!! あなたに何がわかると言うのです!!」
先生は怒りのまま、走り出す。
刀同士をぶつけ合う。俺は先生の左眼側から斬撃を繰り出し始める。すると段々、こっちが押し始めた。
「くっ!!」
「その左眼……ずっと閉じている所を見るに、抉られたか? やったのはワッグテールかな」
俺は先生の左脇腹を蹴り上げる。
「かはっ!?」
「アンタの剣術、随分と鈍って見えるぜ。達人程、片目が見えないってのは響くのかもな」
先生は怒りのまま刀を振り下ろす。俺は黒曜刀で受ける。
「何を上から言っているのですか? 追い詰められているのはあなたですよ?」
ズシ。と黒曜刀が重くなる。
「素の状態でも重い刀だ。もう持っているだけで辛いでしょう?」
「馬鹿かアンタ。重いってことはそれだけ――」
俺は刀を振り上げる。先生は俺の一撃を刀でガードするが、予想外の一撃の『重さ』に、大きくガードを崩した。
「強いってことだぜ。特に振り下ろしの一撃はなぁ!!!」
俺は黒曜刀を振り下ろす。先生は刀で受けず、身を引いて躱す。黒曜刀を叩きつけた地面は大きく割れた。
「……っ!!」
先生の顔に、冷や汗が浮かぶ。
「ま、持つのがキツいってのはその通りだけどな。もうわかったろ? 長期戦はお互いハイリスクだ。そろそろケリつけようぜ」
「いいでしょう。正面から斬り伏せます。どうやら私は……あなたという存在を完膚なきまでに叩き潰さないと気が済まないようだ」
「いいじゃん先生。アンタの今の顔、今までで一番『生きてる』よ」
互いに走り出す。
「この技で、終わりにしてあげますよ!!」
「『百日』か」
高速で剣を引き、高速で打つ。それを繰り返して相手の防御を打ち崩す技、『百日』。この人の唯一のオリジナル。
俺と先生は走り、そして、衝突する。
一!!
「互角か」
「いいえ! ここから――」
二!!!
「なっ!?」
先生はここで気づく。俺が先生と同じ技――『百日』を使っていることに。
「二度も見りゃ、コピーには十分だ!!」
下半身を石化させ、重心を落とす。
陽氣を上半身に集中。万全の体勢で『百日』に挑む!!
「うおおおおおおおおらあああああああああっ!!!!」
三! 四! 五! 六! 七! 八! 九! 十!!!
「――アンタは本当に、自分の運命に納得していたのか!!」
十一! 十二! 十三! 十四! 十五! 十六! 十七! 十八! 十九! 二十!!!
「私は……」
「アンタだって、本物に憧れたんじゃないか! 鳥籠の外に出たいと、願ったんじゃないのか!!」
………………五十一!!!
「憧れて何になる!! 偽物が、本物に勝てるわけがないんだ!!!」
「じゃあなんで、オリジナルの剣技なんて作った!?」
「!?」
……………………………………九十九!!!!!
「この剣が……アンタの本音だ!!!」
先生の刀に、ヒビが入る。
「偽物が、本物に勝てる、はずが――」
――――百。
「勝つさ」
俺の黒曜刀が先生の刀を砕き、先生の腹に叩きつけられる。
先生の内臓を、骨を、破壊する感覚が手を伝わる。それでも力は緩めず、俺は先生を叩き飛ばした。
---
決着はついた。
刃がついていないとはいえ、渾身の一撃が入った。内臓も、骨も、ぶっ壊した感覚があった。
先生は俺の一撃を受けた地点から100メートル程先の森の中で、血だまりを作り、仰向けに倒れていた。その表情は……どこか晴れ晴れとしている。
「一つ、聞かせてください。あなたはどこまで、飛んでいくおつもりですか?」
俺は空を指さし、
「当然――この世界、全てを照らせる所まで……」
「ははは! ……あなたの進路、確かに聞き届けましたよ」
先生はごほっと血の塊を吐く。死期が――近い。
「……私は、愛する人を失い、全てを諦めた。だけどあなたは、全てを失っても、それでも進むと言うのですね……」
「全部失ってはいないよ。全部、俺の背中に乗っかってる」
「……重くないのですか」
「それが俺の強さになるんだよ。アンタの無念も、ついでに連れてってやる」
先生の口角が、上がった気がした。だけどもう、先生の目は虚ろだ。
次が最期の言葉だろう。
「私の部屋に、これからのあなたの旅に必要な物がある。――持っていきなさい。卒業祝いです」
「そうか。……ありがとう」
先生は笑って逝った。
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