極道の男に恋をした夜

micha

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重ねられた唇から、厳の熱い吐息が流れ込んでくる。
ひまりは頭がぼうっとして、シーツを掴む手に力がこもった。優しく触れるだけのキスは、次第に深くなり、ひまりを逃がさないという執着を帯びていく。
「……んっ、……げん、さん……っ」
わずかに唇が離れた隙に、ひまりがその名前を呼ぶ。
厳は視線を外さないまま、ひまりの首筋、鎖骨へと、情熱を刻むように唇を這わせていった。
「ひまり、お前……自分がどれだけ危うい場所にいるか、分かってんのか」
厳の声は、まるで自分自身に言い聞かせているかのように低く、震えていた。
「ここは極道の家だ。……お前の日常も、プライバシーも、今日で全部終わりだ。これからはどこへ行くにも俺の許可がいるし、誰と会うかも俺が決める。……それでもいいのか」
厳の問いかけに、ひまりは潤んだ瞳で彼を見つめ返した。
確かに怖い。けれど、あの雨の夜に彼の手を握ったときから、自分の運命はもう決まっていたのだと、ひまりは確信していた。
「……いいですよ。厳さんの隣にいられるなら、私、なんでも我慢できます」
ひまりのその言葉が、厳の胸の奥にある、冷え切っていた孤独を溶かしていく。
厳は耐えきれないといった様子で、ひまりを今度は優しく、壊れ物を扱うように抱きしめた。
「……バカ野郎。そんなこと言われたら、一生檻に入れて飼い殺したくなるだろ」
そう言いながらも、厳の手はひまりの髪を愛おしそうに撫でていた。
その時、部屋の扉が遠慮がちに、けれどしっかりと三回叩かれた。
「——若、よろしいでしょうか。お食事の準備が整いました」
宇佐美の声だ。
一瞬にして部屋の空気が変わり、厳はひまりを庇うようにして体を起こした。先ほどまでの熱情を隠し、一瞬で「若頭」の冷徹な顔に戻る。
「……あぁ。徳に、部屋に運ばせろ」
「承知いたしました。……それと若、九条組本家から伝言が届いております。明朝、お会いしたいと」
宇佐美の言葉に、厳の眉がピクリと動く。
幸せな時間の終わりを告げるような、不穏な影が忍び寄っていた。
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