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第2話 見捨てる選択が出来なかった時点で――運命だったのだろう。
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高校の入学式前日。
俺は春休み最後の余暇を満喫していた。
休日とは心の疲れを癒す為にある最高の潤い。
縛られた学校生活を離れ、ぼっちが嘘偽りない真のぼっちでいることのできる時間。
つまり休日とはぼっちの親友である。
「お兄ちゃん、寛《 くつろ》いでるところ悪いんですけど……夕飯の食材を買いに行ってくれたら嬉しいです」
リビングのソファでアイスカフェラテを飲んでいると、キッチンで昼食の後片づけをしてくれている妹の声が聞こえた。
「天音《 あまね》……俺は見ての通り大忙しだぞ」
「めちゃくちゃ暇そうですけど?」
「休日を堪能することに全力だ!」
「何事にも全力なのは素敵なことだけど思いますけど、うちの冷蔵庫の戦闘力を見てください」
言って天音は、勢いよく冷蔵庫を開く。
「俺の角度からだと見えないんだが?」
パシャ。(カメラの音)
ポン。(メールが届く)
送り主は天音で、俺のスマホにバッチリと冷蔵庫の中身を撮った写真が送られていた。
中は空っぽ。
確かにこれは戦闘力皆無だ。
「わかっていただけましたか?
このままじゃ、夜には兄妹《 きょうだい》そろってお腹ペコです。
だからお兄ちゃん、スーパーにレッツゴーです!」
明るい声音と共にビシッと玄関の方向を指さして、天音《 あまね》は満面の笑みを向ける。
その笑顔は俺に全幅の信頼を寄せている。
こんな顔をされてしまっては、俺の中から断るという選択肢は完全に消えていた。
自分で言うのもなんだが、俺は妹に甘い。
「……わかったよ。
何を買ったらいいかは後でメールしてくれ」
「さっすがお兄ちゃん。
お礼にすっごく美味しいお料理を作るので、楽しみにしていてください」
「ああ」
天音は中学二年ながら、家事万能で、家の掃除、炊事、洗濯の全てを担当してくれている。
それも『毎日』なのだから、俺に感謝なんてすることはない。
残っていたカフェラテを一気に飲み干して、俺はゆっくりと立ち上がった。
「んじゃ、行ってくるわ」
「は~い、行ってらっしゃ~い……って、お兄ちゃん、エコバック忘れちゃダメです」
「おう、ちゃんと持ったよ」
玄関の扉を開くと、室内では浴びようのない眩い陽射しを浴びせられ、ぼんやりとしていた思考が少しはっきりとしていった。
でも、やっぱり休日に外に出るのは気乗りがしない。
知り合いにでも会ってしまったら面倒だから、さっさと買い物を済ませて家に帰ろう。
※
「ありがとうございました~」
妹からのメールにあった食材を購入して、サクッとレジ袋に詰め込んでスーパーを出た。
時刻は十四時を回ったところなので、真っ直ぐに家に帰ればまだまだ余暇を堪能できそうだ。
だから、寄り道はせずに真っ直ぐに家に帰る……はずだったのだけど。
「いいじゃん、ちょっとくらい付き合えって」
「ぜって~楽しいからさぁ」
「そ~そ~、すっげぇいいもんがあるんだよ」
下卑た男の声が耳に入り、視線の先に一際目立つ金髪の少女の姿が映った。
年齢は俺と同じくらいだろうか?
ティーン向け雑誌のモデル顔負けの美少女で、かなり目を引く容姿をしている。
そんな少女が三人の男と歩いていた。
人を見た目で判断するつもりはないが、如何にもチャラ男と言った感じの印象だ。
勿論、他人が誰とどんな関係を持っていようと俺の知ったことではない。
俺はこの場を立ち去ろうと背を向けた。
「や、やめ……い、イヤって言ってんじゃん」
直後、拒絶を現す困惑した声に、俺は思わず振り返る。
「触んないでよ……離して」
「んだよその態度……そんな拒絶しなくたっていいじゃねえか。
どうせナンパ目的で歩いてたんだろ?」
「ち、ちがっ……」
少女は不快……いや、不安そうな表情に変わっていた。
明らかにあの男に脅えている。
てっきり彼氏とデートでもしているのかと思ったが、今の状況は穏やかではない。
(……どうする?)
見て見ぬ振りをするのがベターな選択。
わざわざ助けるメリットは何一つない。
それどころか、高校の入学を控えている以上、デメリットのほうが多いだろう。
それに俺は、中学時代の経験から、誰とも深く関わらずに平穏な生活を過ごすと決めたはずだ。
迷う必要なんてないはずだ。
「いいからこっち来いっての」
友人同士だと思っているのか、それとも面倒ごとに関わり合いたくないのか、誰も少女を助けようとはしない。
見て見ぬ振りをして、その場を通り過ぎていく。
そして男たちは人通りの少ない裏路地の方に女の子を連れて行こうとしていた。
「や、やだっ――」
少女は怯えたように、強い拒絶の意志を示す。
気付けば俺の足は家とは反対方向に向いていた。
だって、ここで見て見ぬ振りをしたら……自分を許せなくなるから。
助けられるはずの相手を助けないのは、俺を裏切ったあいつと同じだ。
だからきっと、最初から答えは決まっていた。
「おい」
「あん? ぐっ……んなっ、いてててててて……」
声を掛けた直後、俺は少女の腕を掴んでいた男の手を掴み、捻り上げた。
「ぇ……?」
ポカンと目を丸めた少女が、驚いたように声を漏らす。
「ぐっ……て、てめぇ、いきなり何しやがる!?」
痛みと苛立ちの混ざった表情の男が三白眼を俺に向ける。
「嫌がってる女の子に、いつまで付き纏ってんなよ。
だせぇんだよ、振られたんなら潔《 いさぎよ》く消えろ。
わかったか?」
「あん? テメェ、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
男の仲間が苛立ちに声を荒げた。
瞬間――俺は掴んでいた男の腕をさらに強く捻り上げた。
「ぐあっ……い、いてててててっ!? わ、わかったから、は、離せ、オレたちが悪かった……」
謝罪の言葉を聞き、俺は男の手を離す。
これで終わればそれでいいのだが……。
「もう二度と、この子に近付くなよ」
「っ――さっきからオレらに命令してんじゃねえよ!」
怒りに塗《 まみ》れた表情で男が殴りかかってきた。
だが、ただの大振りほど避けやすいものはない。
こいつらが喧嘩なれしていないのは丸わかりだった。
「よっ……」
「なっ――うがっ!?」
俺は身体を逸らして振るわれた拳を避けると、足を一歩前に出した。
すると俺の足に引っかかり、殴りかかって来た男が転倒した。
「テメェ……!!」
仲間がやられたのを見てもう一人の男が拳を振り上げる。
が、動揺しているのか動きに迷いがあった。
俺は一歩後ろに下がって攻撃を避けると、がら空きの腹部に拳を叩き込む。
「おぶっ……!?」
鳩尾《 みぞおち》を突かれ呼吸ができなくなっているのか、俺に殴られた男は腹部を押さえてうずくまった。
「ったく……面倒くせぇな。
今日はこの女と色々と楽しむ予定だったのによぉ……邪魔してんじゃねえよ」
残り一人。
恐らくこいつがリーダー格だろう。
「お前、無事に帰れると思うな――」
「伝えてなかったが……お前がこの子を連れ去ろうとしてたとこ……スマホで撮ってあるからな」
「はあ!? テメ、それ、盗撮だろ!?」
ボス猿の偉そうな態度が一気に崩れた。
「婦女暴行の証拠だ。
もしこれを警察にでも見せたら……どうなるかわかるよな?」
これはただのブラフだ。
咄嗟に身体が動いてしまったのだから、証拠の写真など撮っているはずがない。
が、それを確かめる手段はこいつにはない以上、余程の馬鹿でない限りは、自身が最悪の状況にあるということを理解できるだろう。
こいつの頭の中には学校を退学になる自身の姿が浮かんでいるはずだ。
もしそれさえも理解できず、暴力に頼ろうとするなら……最悪は同じやり方で対処させてもらおう。
もう二度と逆らおうと思わないように。
「ここで穏便に済ませるなら、話はこれで終わりだ。
……が、この子にまた近付くようなことがあれば……」
俺はこれ以上は事を荒立てるつもりがないことを強調する。
「わかった。
悪かった……もう何もしない。
だから、これで勘弁してくれ……」
「なら、もう行け」
「ああ……た、頼むから、警察に言ったりしないでくれよ」
言って、男たちはこの場から去って行った。
残されたのは俺と名前も知らない少女の二人。
「……あ、あの……あ、ありがと」
「ああ」
呆気に取られていた少女が、意識を取り戻したみたいに礼を口にする。
頬が赤くなっているのは、さっきまでのトラブルで緊張していた為だろう。
俺は敢えて短く返事をすることしかしなかった。
それは余計な会話を交わしたくはないという意志表示のつもりだったのだけど。
「あ、あれ……」
緊張が解けたのか少女はその場にペタンと座り込んだ。
「大丈夫か?」
「あ、あはは……ち、力、入らなくなっちゃった……」
微《 かす》かに身体を震わせながら、少女は俺に向かって照れたみたいにはにかむ。
この時の少女の姿はとても弱々しくて、自信とはかけ離れた普通の女の子のように思えた。
俺は春休み最後の余暇を満喫していた。
休日とは心の疲れを癒す為にある最高の潤い。
縛られた学校生活を離れ、ぼっちが嘘偽りない真のぼっちでいることのできる時間。
つまり休日とはぼっちの親友である。
「お兄ちゃん、寛《 くつろ》いでるところ悪いんですけど……夕飯の食材を買いに行ってくれたら嬉しいです」
リビングのソファでアイスカフェラテを飲んでいると、キッチンで昼食の後片づけをしてくれている妹の声が聞こえた。
「天音《 あまね》……俺は見ての通り大忙しだぞ」
「めちゃくちゃ暇そうですけど?」
「休日を堪能することに全力だ!」
「何事にも全力なのは素敵なことだけど思いますけど、うちの冷蔵庫の戦闘力を見てください」
言って天音は、勢いよく冷蔵庫を開く。
「俺の角度からだと見えないんだが?」
パシャ。(カメラの音)
ポン。(メールが届く)
送り主は天音で、俺のスマホにバッチリと冷蔵庫の中身を撮った写真が送られていた。
中は空っぽ。
確かにこれは戦闘力皆無だ。
「わかっていただけましたか?
このままじゃ、夜には兄妹《 きょうだい》そろってお腹ペコです。
だからお兄ちゃん、スーパーにレッツゴーです!」
明るい声音と共にビシッと玄関の方向を指さして、天音《 あまね》は満面の笑みを向ける。
その笑顔は俺に全幅の信頼を寄せている。
こんな顔をされてしまっては、俺の中から断るという選択肢は完全に消えていた。
自分で言うのもなんだが、俺は妹に甘い。
「……わかったよ。
何を買ったらいいかは後でメールしてくれ」
「さっすがお兄ちゃん。
お礼にすっごく美味しいお料理を作るので、楽しみにしていてください」
「ああ」
天音は中学二年ながら、家事万能で、家の掃除、炊事、洗濯の全てを担当してくれている。
それも『毎日』なのだから、俺に感謝なんてすることはない。
残っていたカフェラテを一気に飲み干して、俺はゆっくりと立ち上がった。
「んじゃ、行ってくるわ」
「は~い、行ってらっしゃ~い……って、お兄ちゃん、エコバック忘れちゃダメです」
「おう、ちゃんと持ったよ」
玄関の扉を開くと、室内では浴びようのない眩い陽射しを浴びせられ、ぼんやりとしていた思考が少しはっきりとしていった。
でも、やっぱり休日に外に出るのは気乗りがしない。
知り合いにでも会ってしまったら面倒だから、さっさと買い物を済ませて家に帰ろう。
※
「ありがとうございました~」
妹からのメールにあった食材を購入して、サクッとレジ袋に詰め込んでスーパーを出た。
時刻は十四時を回ったところなので、真っ直ぐに家に帰ればまだまだ余暇を堪能できそうだ。
だから、寄り道はせずに真っ直ぐに家に帰る……はずだったのだけど。
「いいじゃん、ちょっとくらい付き合えって」
「ぜって~楽しいからさぁ」
「そ~そ~、すっげぇいいもんがあるんだよ」
下卑た男の声が耳に入り、視線の先に一際目立つ金髪の少女の姿が映った。
年齢は俺と同じくらいだろうか?
ティーン向け雑誌のモデル顔負けの美少女で、かなり目を引く容姿をしている。
そんな少女が三人の男と歩いていた。
人を見た目で判断するつもりはないが、如何にもチャラ男と言った感じの印象だ。
勿論、他人が誰とどんな関係を持っていようと俺の知ったことではない。
俺はこの場を立ち去ろうと背を向けた。
「や、やめ……い、イヤって言ってんじゃん」
直後、拒絶を現す困惑した声に、俺は思わず振り返る。
「触んないでよ……離して」
「んだよその態度……そんな拒絶しなくたっていいじゃねえか。
どうせナンパ目的で歩いてたんだろ?」
「ち、ちがっ……」
少女は不快……いや、不安そうな表情に変わっていた。
明らかにあの男に脅えている。
てっきり彼氏とデートでもしているのかと思ったが、今の状況は穏やかではない。
(……どうする?)
見て見ぬ振りをするのがベターな選択。
わざわざ助けるメリットは何一つない。
それどころか、高校の入学を控えている以上、デメリットのほうが多いだろう。
それに俺は、中学時代の経験から、誰とも深く関わらずに平穏な生活を過ごすと決めたはずだ。
迷う必要なんてないはずだ。
「いいからこっち来いっての」
友人同士だと思っているのか、それとも面倒ごとに関わり合いたくないのか、誰も少女を助けようとはしない。
見て見ぬ振りをして、その場を通り過ぎていく。
そして男たちは人通りの少ない裏路地の方に女の子を連れて行こうとしていた。
「や、やだっ――」
少女は怯えたように、強い拒絶の意志を示す。
気付けば俺の足は家とは反対方向に向いていた。
だって、ここで見て見ぬ振りをしたら……自分を許せなくなるから。
助けられるはずの相手を助けないのは、俺を裏切ったあいつと同じだ。
だからきっと、最初から答えは決まっていた。
「おい」
「あん? ぐっ……んなっ、いてててててて……」
声を掛けた直後、俺は少女の腕を掴んでいた男の手を掴み、捻り上げた。
「ぇ……?」
ポカンと目を丸めた少女が、驚いたように声を漏らす。
「ぐっ……て、てめぇ、いきなり何しやがる!?」
痛みと苛立ちの混ざった表情の男が三白眼を俺に向ける。
「嫌がってる女の子に、いつまで付き纏ってんなよ。
だせぇんだよ、振られたんなら潔《 いさぎよ》く消えろ。
わかったか?」
「あん? テメェ、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
男の仲間が苛立ちに声を荒げた。
瞬間――俺は掴んでいた男の腕をさらに強く捻り上げた。
「ぐあっ……い、いてててててっ!? わ、わかったから、は、離せ、オレたちが悪かった……」
謝罪の言葉を聞き、俺は男の手を離す。
これで終わればそれでいいのだが……。
「もう二度と、この子に近付くなよ」
「っ――さっきからオレらに命令してんじゃねえよ!」
怒りに塗《 まみ》れた表情で男が殴りかかってきた。
だが、ただの大振りほど避けやすいものはない。
こいつらが喧嘩なれしていないのは丸わかりだった。
「よっ……」
「なっ――うがっ!?」
俺は身体を逸らして振るわれた拳を避けると、足を一歩前に出した。
すると俺の足に引っかかり、殴りかかって来た男が転倒した。
「テメェ……!!」
仲間がやられたのを見てもう一人の男が拳を振り上げる。
が、動揺しているのか動きに迷いがあった。
俺は一歩後ろに下がって攻撃を避けると、がら空きの腹部に拳を叩き込む。
「おぶっ……!?」
鳩尾《 みぞおち》を突かれ呼吸ができなくなっているのか、俺に殴られた男は腹部を押さえてうずくまった。
「ったく……面倒くせぇな。
今日はこの女と色々と楽しむ予定だったのによぉ……邪魔してんじゃねえよ」
残り一人。
恐らくこいつがリーダー格だろう。
「お前、無事に帰れると思うな――」
「伝えてなかったが……お前がこの子を連れ去ろうとしてたとこ……スマホで撮ってあるからな」
「はあ!? テメ、それ、盗撮だろ!?」
ボス猿の偉そうな態度が一気に崩れた。
「婦女暴行の証拠だ。
もしこれを警察にでも見せたら……どうなるかわかるよな?」
これはただのブラフだ。
咄嗟に身体が動いてしまったのだから、証拠の写真など撮っているはずがない。
が、それを確かめる手段はこいつにはない以上、余程の馬鹿でない限りは、自身が最悪の状況にあるということを理解できるだろう。
こいつの頭の中には学校を退学になる自身の姿が浮かんでいるはずだ。
もしそれさえも理解できず、暴力に頼ろうとするなら……最悪は同じやり方で対処させてもらおう。
もう二度と逆らおうと思わないように。
「ここで穏便に済ませるなら、話はこれで終わりだ。
……が、この子にまた近付くようなことがあれば……」
俺はこれ以上は事を荒立てるつもりがないことを強調する。
「わかった。
悪かった……もう何もしない。
だから、これで勘弁してくれ……」
「なら、もう行け」
「ああ……た、頼むから、警察に言ったりしないでくれよ」
言って、男たちはこの場から去って行った。
残されたのは俺と名前も知らない少女の二人。
「……あ、あの……あ、ありがと」
「ああ」
呆気に取られていた少女が、意識を取り戻したみたいに礼を口にする。
頬が赤くなっているのは、さっきまでのトラブルで緊張していた為だろう。
俺は敢えて短く返事をすることしかしなかった。
それは余計な会話を交わしたくはないという意志表示のつもりだったのだけど。
「あ、あれ……」
緊張が解けたのか少女はその場にペタンと座り込んだ。
「大丈夫か?」
「あ、あはは……ち、力、入らなくなっちゃった……」
微《 かす》かに身体を震わせながら、少女は俺に向かって照れたみたいにはにかむ。
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