勇気を出してよ皆友くん!

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第3話 再会と後悔……と不思議な期待

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「さっきの奴、知らない男か?」
「うん……歩いていたら、いきなり声掛けられて……断ったら強引に……」

 普通の女の子であれば、見知らぬ男に声を掛けられたら怖くて当然だろう。
 流石にこのまま一人で置いていくわけにはいかないか。
 落ち着くまでは傍にいるべきか?

「……立てるか?」
「あ、ありがと」

 俺が手を差し出すと、少女はギュッと握り返した。
 きっとまだ不安なのだろう。
 この手を離さないで欲しいと、そんな願いが籠っているのかもしれない。
 俺は、そのまま手を引き彼女を立ち上がらせた。
 まだ呆然としているようだが、緊張から目が赤く潤んでいた。
 少しずつ落ち着きを取り戻してきたようで、少女は俺の顔を見つめる。

「どうかしたか?」
「あ、え、えっと……た、助けてくれて、ありがとう、ございます」

 ポッと赤く染まる頬。
 髪を明るく染めギャルのような外見をしているが、中身はまるで清純派の美少女のようだ。

「礼なんていいよ。
 もう……大丈夫そうか? 一人で不安なら、駅くらいまでなら付き合えるぞ?」

 我ながらなんてお人好しなことを言っているのかと思ったが、どうせこの女の子との縁はここまでで、二度と交わることはない。
 だから……このくらいのお節介はしても、俺の人生に支障はないだろう。

「で、電車で来たので……駅まで行ければ……でも……迷惑じゃ、ない?」
「別にいいよ。
 途中まで方向は同じだからな」
「ありがと……」

 少女は安堵しように微笑を浮かべた。

「あのさ……落ち着いたなら、そろそろ手を離してもらってもいいか?」
「え……はうっ!?」

 俺に指摘されると、少女はぎゅっと握っていた手を慌てて離した。

「ご、ごめん……」
「いいよ。それじゃ、行くか」

 頷く少女を見て、俺は歩き出した。
 その少し後ろを付いてくる少女。
 歩幅を合わせてゆっくりと進んでいく。
 それから、俺たちは特に言葉を交わすことなく……駅まで辿り着いた。

「それじゃな」
「ぁ……」

 俺は直ぐに別れを告げる。
 これで少女との縁はおしまいだ。
 そう思っていたのだが、

「……うん?」

 踵を返したのと同時に服の裾を引かれた。
 振り向くと、少女が赤くなった顔を俺に向けている。

「あ、あの……お、お礼――まだ、何もできてないから」
「お礼? もう、ありがとうって言ってくれたろ?」
「そ、それだけじゃなくて、何か……えっと、直ぐに思い浮かばないけど……あ、あの……そうだ! 連絡先、教えてもらっちゃ、ダメ、かな?」

 少女は真剣な、でも拒絶されることを不安に思う表情を俺に向けた。
 本当にさっきのことを感謝してくれていて、ただ何かお礼がしたいと、純粋にそう思ってくれているだけなのが見てわかる。
 きっと優しい子なのだろう。

(……連絡先を教えても……返さなければいいだけか)

 ここで教えても、ブロックしてしまえばそれで済む。

「わかった」

 俺はメールアプリのQRコードを表示させた。

「あ、ありがと!」

 パッと眩しい笑みを浮かべて、少女は自分のスマホを取り出す。

「……えっと……こう、だよね?」

 そして慣れない手付きでQRコードを読み込んでいった。

「登録できた、よね?」
「ああ、大丈夫だ」

 家族としか使用しなくなったメールアプリ、凜華という名前が登録された。
 ブロックしてしまえば直ぐに消えて元通りだ。

「じゃあ、行くから」
「うん……あの、助けてくれて、本当に、ありがと」
「……ああ、それじゃな」

 それだけ伝えて駅から離れていく。
 今度こそ凜華は俺を止めることはなかった。



      ※



「ただいま」

 マンションの鍵を開いて玄関に入る。
 同時にスマホが震えたのがわかった。
 それを取り出すと、

『さっきは本当に助かりました。
 今度、どこかで会ってお礼をさせてください。
 本当にありがとう。』

 それは凛華からのメールだった。
 短い文章で飾り気もないものだったけど、それは彼女の感謝の気持ちが十分に伝わるものだった。
 友達はいらない。
 その想いに変わりはない。
 それでも、

「おかえりなさいお兄ちゃん。
 遅かったですけど、何かありましたか?」
「買い物の後、少し散歩をしてたんだ」
「そうでしたか。
 買い出しありがとうございました。
 バッチリ美味しいの作りますから、夕飯も期待しててください!」
「ああ、楽しみにしてる」

 竜胆に対して返事を送り返すことはなかったけど。
 いつもより少しだけ、俺の心は温かくなっている感じがしたんだ。



         ※



 そして翌日の早朝。
 高校の入学式直前の教室で――。

「え?」
「あっ!?」

 扉を開いて直ぐに目に入ったのは、一際目立つ金髪とモデル顔負けの美少女。
 そう。
 再び俺たちの道は繋がり、出会った。
 言っておくけど、これは運命の赤い糸で俺たちが結ばれてるわけじゃない。
 そんなお決まりあってたまるわけがない。
 これは、ただの偶然で……だけど、

「また、会えた」
「……」

 俺に満面の笑みを向ける凛華の顔を見ていたら、こいつとは何かあるんじゃないかって、そんな不思議な予感が胸の中に渦巻いていた。



               ※



 これが俺と竜胆凛華《 りんどうりんか》の出会いの物語だ。
 その後、竜胆が俺にあれやこれやと迫ってきたのは言うまでもないのだが……目立つ場所で俺に話し掛けないことを条件に、今も友人未満の関係が続いている。
 だからこそ、俺と竜胆は教室にいる時はこっそりメールで会話をしていた。

『昼休み、いつもの空き教室だかんね』
『友達と食べなくてもいいのか?』
『へーき。
 美愛たち、あたしが彼氏と食べてると思ってるみたいだから。
 違うって言ってるんだけどね』

 午前最後の授業に入る前の休み時間にしたメールがこんな感じだ。
 クラス内ヒエラルキー最上位の美少女が、最底辺以下の存在と昼食を一緒にしていると思う奴は、きっとこの学校には一人もいないだろう。
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