勇気を出してよ皆友くん!

スフレ

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第14話 小鳥遊カナンは見ていた。

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       ※



 デートの終わりを告げて、俺は駅まで竜胆を送って行く。
 最悪、またあの不良共と出くわす可能性もあるから……念の為の用心だ。
 それに、竜胆がデートだと思ってくれているなら、駅くらいまで送ってくのがマナーだろう。

「もう少しで駅まで着いちゃうね……」

 竜胆は名残惜しそうに口を開く。
 どちらが最初に意識したのかはわからないが、二人の歩く速度が少しずつ遅くなっていくのを感じていた。

「……服、買ってこれなかったの残念だったな。
 折角、皆友くんが選んでくれたのに……」

 俺が服を渡した時、竜胆は本当に嬉しそうだった。
 心から幸せそうに笑ってくれていた。

「また一緒に、あのお店に行ってくれる?」
「それは……」
「ダメ?」
「……ダメというわけじゃないが、あの不良たちと遭遇する可能性を考えたら避けるべきだとは思う」

 そんな偶然、何度も重なるわけがない。
 だが、軽率な行動を取ることで竜胆が危険な目に合わせたくなかった。

「……あたしのこと、本当に心配してくれてるんだ」
「当たり前だろ」
「それはどうして?」
「ど、どうしてって……」

 見つめられて俺は竜胆から目を逸らす。
 今日は随分と攻めてくる。
 もしかしたらこれは、竜胆なりのちょっとした意地悪だろうか?
 俺が求められて答えをはぐらかしたことへの。

「言ってくれたら、あたし……絶対受け入れるよ?」
「なっ――!?」

 優しくてとても甘い言葉、頑(かたく)なな俺の心を解いていく。

「約束するから。
 だから、皆友くんの想い……聞かせてほしいの」

 竜胆は攻め手を止めない。
 ここぞとばかりに俺を畳み掛けてくる。

「あたしはキミにとって――特別、かな?」

 熱を帯びる瞳。
 震える声音。
 竜胆の緊張が伝わってきた。
 俺はそんな彼女にどんな言葉を伝えられるだろうか?
 真剣に考えを巡らせる。

「……少なくとも、こうして俺と話す同級生は、お前しかいないだろ」
「だから、特別?」
「三年間できる限り……傍にいるなんて約束する相手が、特別じゃないと思うか?」

 自分にできる精一杯を伝えて、俺は先に歩き出した。
 少し遅れて竜胆も足を進め隣に並ぶ。

「……欲しかった答えとは違うけど、今はそれで納得しとく。
 でも、大切な言葉……いつか、ちゃんと聞かせてね」

 少し不満そうではあったけど、竜胆にとっても及第点のようだ。
 欲しかった答え。
 大切な言葉。
 二人の関係を進める為に言わなければならない一言。
 今後、俺がその言葉を口にすることはできないかもしれない。
 だからせめて、その言葉以外の形で、彼女を喜ばせる為に何かしてあげたいと、俺は心からそう思った。

「……竜胆」
「どしたん?」
「……選んだ服……後で俺が買っておくから」
「え? プレゼントしてくれるってこと?」
「いや色々と選んだのに何も買わないんじゃ、お店にも悪いからな」

 歩調が自然に速まる。
 照れ隠しするみたいに。
 そんな俺の隣まで竜胆は並んで、服の裾をぎゅっと掴んだ。

「すっごく嬉しい……お礼、いっぱいするから。
 皆友くんのしてほしいこと、全部……いいよ?」
「――っ……」

 お礼――と聞いただけで、胸が震えた。
 それは期待、なのだと思う。

「ちょっとだけなら、エッチなのでも、いいから」
「お、おまえっ――」

 耳元でこっそりと言われる。
 頭がクラッとしてしまって、冷静な思考が奪われていく。
 ぼんやりとした思考のまま俺は駅まで向かい、なんとか竜胆を改札まで送り届けたのだった。



         ※



 駅を降りて小鳥遊カナンは映画館に向かっていた。
 友達と過ごすわけじゃない。
 たった一人、のんびりと自由に過ごす休日も、彼女は嫌いではなかった。

「あれ?」

 それは駅の近くの通り道。

「竜胆……?」

 カナンは反対側の通路を歩く、竜胆凛華の姿を見つけた。

(……それにあれって、同じクラスの男の子?)

 少し離れた位置だったけど、おそらく間違いない。

(……凛華とあの男の子って、やっぱり付き合ってるの?)

 二人は隠しているつもりだったのかもしれないけど、休み時間に視線を交わしていたり、授業中にイチャイチャしたり……カナンは二人が付き合っているのではないか? と思っていた。
 勿論、それを確認するつもりもない。
 カナンは竜胆から話してくれるのを待っていた。

「ぁ――」

 様子を窺っていると、二人はまた歩き出した。
 恋をする女の子の顔で、竜胆凛華は男の子を見つめていた。
 傍(はた)から見ていても胸焼けするくらい甘い。
 それこそ『友人』であるカナンが『嫉妬』してしまうほどに。

「はぁ……」

 カナンの口から溜息が漏れた。
 それは友人の――恋という強い感情を秘めた竜胆があまりにも綺麗だったからだ。
 私には向けられることのない激しい熱情。
 特別な感情を向けられているあの男の子が、カナンは羨ましかった。
 いつか自分も、そんな感情を向けられる『男の子』に出会えるのだろうか?
 カナンはそんなことを考えながら、映画館に向かって歩き出す。

(……これは、見なかったことにしよう)

 もし二人の関係が公になれば、クラスでちょっとした騒ぎが起こるだろう。
 小鳥遊カナンはこっそりと、二人の中を見守ろうと思うのだった。
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