勇気を出してよ皆友くん!

スフレ

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第15話 会いたくなっちゃってる

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 竜胆を駅まで送った後、俺は少し寄り道してから家に戻った。
 自宅に着いた頃には陽が落ち始めていた。

「ただいま」
「おかえりなさい~」

 居間の方から妹の声が聞こえてきた。
 部屋に戻る前に一度、天音の前に顔を出しておくか。
 俺は居間の扉を開いた。

「お兄ちゃん、デート楽しかったですか?」

 顔を合わせた瞬間の妹の第一声がこれだ。

「だからデートじゃない」

 ソファに座っている妹に淡々と伝えた。

「またまた~。
 どことなく今日のお兄ちゃんは機嫌が良さそうです。
 それが、彼女さんとイチャイチャしてきた証拠です!」

 ビシッ! と人差し指を俺に向ける。
 名探偵かお前は。

「残念だがその推理は外れだ。
 俺は部屋、戻るからな」

 本当は完全な的外れというわけではないが、これ以上あれやこれや聞かれても困る。
 俺は逃げ出すように部屋を――。

「お兄ちゃん」
「うん?」
「今度、彼女さん紹介してくださいね」
「……彼女じゃないが……そうだな。
 機会があればな」
「……――はい! 天音はとても楽しみにしています! お夕飯、できたら呼びますね!」

 天音の返事に間があったのは、俺の返答が意外だったからだろう。
 ただ、こんなことを言った俺自身が、自分の発言を驚いていた。



           ※



 部屋に戻ってベッドに倒れる。
 すると、身体の疲労感が一気に押し寄せてきた。
 気を抜くとこのまま眠ってしまいそうなくらいだ。

(……でもイヤな疲れじゃない)

 休日に誰かと出掛けるのなんて久しぶりだった。
 少し前までは……周りにはみんながいた。
 毎日が楽しかった。
 でももう、あの日が戻ってくることはない。

『達《 とおる》――忘れないでね。
 何があっても、僕たちはずっと親友だから』

 親友だったあいつの顔が――少しずつ思い出せなくなっていく。
 いつか全部忘れられたなら、この胸の痛みは消えるのだろうか?

「はぁ……」

 過ぎたことなんて考えても仕方ない。
 あの時、どうするのが正解だったのか
 そんな無駄なことを考えては、傷付いて、後悔して……その結果が今だ。

(……俺が竜胆と……関係を持つ資格なんてあるのだろうか?)

 俺はまた……築いた関係を壊してしまうんじゃないか。
 そうなったら、彼女を傷付けることになるだけじゃ――。

「……うん?」

 スマホが震えた。
 多分、竜胆からのメールだろう。

『今、帰ってきたよ~。
 皆友くん、今日は本当にありがとう』

『無事に着いたなら良かった』

 返事をしたが、少し素っ気なかっただろうか?
 文章で連絡を取るのは楽だが、あまり好きではないかもしれない。
 感情や意図が伝わらないことがあるからだ。
 そんなことを考えていたら、

『今度デートする時は、皆友くんの家に行ってみたいな』

 ちょ!?
 うちの妹とシンクロしてるのか?
 なんでこのタイミングで似たようなことを言ってくるんだ。
 そんな動揺を抱えつつ、

『機会があればな』

 俺は無難な返信をしておく。

『それか、うちの実家に来てくれてもいいよ?
 両親が皆友くんに会ってみたいって言ってるから』

 はあああっ!? ご、ご両親!?

『俺のこと伝えてるのか!?』

『うん。
 危ないところを助けてもらったって』

 なんだ。
 その話か……。
 大切な娘を助けてくれた恩人にお礼だけでも……といった感じだろう。

『気にしないでくれって伝えておいてくれ』

『でも、こうやって縁があったんだから……いつか遊びに来てよね』

『……それも、機会があればな』

『機会は作るものでしょ?
 まぁ、皆友くんの家に遊びに行くのはご家族の都合もあると思うから、直ぐには無理かもだけど、あたしの実家なら、いつ遊びに来てくれてもいいからね。
 パパもママも歓迎してくれると思うから』

 娘が男を家に連れてきたら、父親としては複雑な気持ちを抱くと思うが……。
 何より俺が緊張するので、やはり自宅デートなるものは勘弁願いたい。
 ――コンコン。
 部屋の扉がノックされた。

「お兄ちゃ~ん、ご飯だよ~」

 ドア越しからなので、くぐもった声が聞こえる。

「わかった。直ぐに行く」
「は~い」

 ベッドから身体を起こす。

『夕食ができたみたいだ』

『そっか。
 行ってらっしゃい』

『ああ。
 竜胆、明日……学校でな』

『うん。
 早く、明日になればいいのにな。
 さっきまで一緒にいたのに……もう皆友くんに会いたくなっちゃってるよ』

 そのメッセージを読んで、胸の中が熱くなっていく。
 俺は食事の前なのに、胸焼けで空腹が満たされるような、不思議な感覚が広がっていた。
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