勇気を出してよ皆友くん!

スフレ

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第17話 壁ドン

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        ※



 授業が終わり昼休みとなった。
 直ぐに竜胆は席を立ち上がる。
 用事があると言っていた通り、やはりどこかに向かうようだ。

「今日も彼氏と食べるん?」

 教室を出ようとした竜胆に、岬が話し掛けた。

「……まぁ、ちょっとね」
「またとぼけるん?
 あたしたちにも、そのうち紹介してよね」
「彼氏じゃないから」

 日常的なやり取りを終えて、竜胆は教室を出て行った。
 その足取りが少し重かったように思うのは、俺の勘違いだろうか?

「……なんか、今日の凛華さ……元気なくない?」
「ん……何かあったのかも」

 岬の疑問を小鳥遊は肯定した。
 仲の良い二人の目から見ても、今日の竜胆はどこかおかしいようだ。
 というか、今日は教室の雰囲気がいつもよりも重い感じがする。
 竜胆自身はいつも通り振る舞っているつもりのようだが、やはりクラスの中心にいる人物の口数が少なければ、誰もが違和感を覚えるだろう。

「なんかあるなら、相談してくれたらいいのに」
「……竜胆、すごく気遣いだから」
「本当ねぇ……。
 でもあたしたち友達じゃん、もっと頼ってくれても良くね?」

 少しの不満、何より寂しさのようなものを、岬は感じているかもしれない。

(……結構、優しいところがあるんだな)

 気は強く当たりがキツいところはるが、岬は姉御肌で面倒見がいい。
 少なくとも仲良くなった相手を、簡単に裏切るタイプではなさそうだ。

「……友達だからこそ言えないことってあるかも」
「そんなもんなん?」
「岬だって、言えないことくらい、あるでしょ?」
「……う~ん? でも、あたしは凛華とカナンにならなんでも話せるよ。
 二人のこと親友だって思ってるもん」

 それはきっと岬にとっては当たり前のことなのだろう。
 だが、小鳥遊《 たかなし》にはそうではなかったようで、

「岬……そんな照れること、よく真顔で言えるね」

 クールな少女の雪のように白い頬に紅が差した。
 普段、表情に乏しい彼女だからこそ、その変化にクラス内で驚きの声が上がった。
 一部の男子生徒など、小鳥遊に魅了されてしまったように目を離せないでいる。

「別に恥ずかしいこと言ってるつもりないけど?」
「……そ。
 でも、そういうことはっきり口にできるの岬の良いところだと思う」
「ほんと? ならあたし、なんでも正直に言うわ~。
 てかさカナン、多分なんだけど……竜胆が落ち込んでるの彼氏と喧嘩したからだと思うんだよね」
「彼氏と……喧嘩……――ぁ……もしかして――」

 それは岬の勘違いだ。
 竜胆に彼氏はいない。
 クラスでそれを知っているのは俺だけが、間違いないと断定できる。

「ねぇ……」

 昨日、夜にメールをしている時には竜胆の様子に変化はなかった。

「ねぇ、皆友君」
「え?」

 気付けば小鳥遊が俺の傍に立っていた。
 そして感情の薄い瞳で俺を見下ろしている。

「……話があるんだけど」
「俺に?」
「皆友って名字の人、このクラスにあなたしかいない」

 内心動揺しているのか、自分でも間抜けなことを聞いてしまったと思った。
 だが、どうして小鳥遊が俺に……。

「カナン、急にどしたん? そいつになんかあんの?」

 ヒエラルキー最上位の二人がいるせいで、必然的に注目が集まってしまう。
 クラスメイトたちは今、こう思っているだろう。

『あいつは一体、何をしたんだ!?』

 そんな表情で教室にいる生徒が俺を凝視していた。

「場所……移そ」
「なんで?」
「落ち着いて話したい」

 小鳥遊の強硬姿勢。
 有無を言わさぬその態度に俺は黙って立ち上がった。

「岬も一緒に来て」
「う、うん」

 流石の岬も戸惑っているようだがこの場では何も言わず、俺たち三人は教室を出た。


       ※



 連れられて来られたのは校舎裏。
 これ、完全にぼっちが不良にシメられる流れだぞ。
 だが目前にいるのはヤンキーではなく、二人の美少女。
 とはいえ、岬はかなりギャル感があるのでヤンキー的な威圧感がなくもないが。

「……話って?」

 俺が言うと小鳥遊が俺に迫ってきて、身体がくっ付くんじゃないかという近距離でやっと立ち止ま――ドン!

「……キミ、竜胆に何したの?」

 まさかの小柄な美少女による壁ドン。
 だが――ときめきはない。
 俺を見上げる小鳥遊の顔は真剣そのものだったから。

「カナン、マジでどしたん? 事情、説明してよ。
 そいつと凛華になんの関係があるん?」
「……昨日、竜胆とデートしてた」
「え?」

 ああ、そういうことか。
 小鳥遊が俺をここに連れてきた理由を、やっと理解できた。

「デート? 凛華と……え? えええええっ!? こいつがっ!?」

 岬が驚愕して信じられない者を見たように俺を見つめる。

「二人でいるところ、見たの」
「いや、でも、流石にこんなのとデートなんて……なくも、ない?」

 全否定されるかと思いきや、俺をまじまじと見て岬は小さく首を傾げていた。
 この状況で言い逃れしたところで、納得はしてもらえそうにない。
 特に小鳥遊は俺のことを完全に疑っているようだし、最低限の説明は必要だろう。
 何より……ここで情報を交換しておくことで、俺の知らない情報を得られるかもしれない。
 もしかしたらそれが、竜胆の抱える『なにか』に繋がるかもしれないという期待もあった。
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