勇気を出してよ皆友くん!

スフレ

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第28話 勇気の結果①

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         ※



 あたしは今、メールに送られてきた地図の場所に向かっている。
 時間は十九時五十分。
 でも、目的地に近付くにつれて、緊張感から足取りが重くなっていく。

(……怖い……)

 やっぱりあたしは弱い。
 きっとこの本質は変わらないのだろう。
 これから何が起こるのか?
 考えるだけで不安になっていく。
 でも、あたしは皆友くんの言葉を信じてる。
 彼を想うだけで、あたしは勇気が出せる。
 だから、

(……大丈夫だ)

 前を向く。
 ゆっくりでもいいから、一歩、一歩前に足を進める。
 そして、指定された時間の五分前――あたしは目的地に到着した。
 階段を下りることができるのだが……。

「……ここ、だよね?」

 スマホを確認する。
 マップ上が示す位置は間違いなくここだった。
 目前には工場――だが入口はロープで封鎖されていた。

(……廃工場、なの?)

 人気《 ひとけ》は全くない。
 誰も寄り付かない場所だからこそ、あたしを呼び出すには都合が良かったということなのだろう。

(……この中に入らないと、なんだよね?)

 ごめんなさい。
 心の中で謝って、あたしは敷地に入った。
 建物は二つ。
 工場と、その隣に立つ小さな建物……多分、事務所とか休憩スペースとか……だろうか?
 工場のシャッターは少しだけ開いている。
 身を屈めれば人が通れるくらいの隙間だ。
 まだ電気が通っているのか、隙間の先から薄明かりが漏れている。

(……多分、この中に……)

 一度深呼吸したあと、あたしは覚悟を決めて工場の中に入った。



          ※



 竜胆が店に入ったらしい。
 本当に面白い。
 指示に従い行動する。
 従順に動くおもちゃを手に入れた気分だ。
 よほど『過去』をバラされるのが怖いのだろう。
 中には既にあいつらもいる。
 先に遊んでしまうだろうが……それでも構わない。
 ああ、想像するだけで楽しくて仕方ない。
 頬を叩いたらどんなふうに泣くだろう?
 薬漬けにしてめちゃくちゃに犯したら、どんなふうに喘ぐだろう?
 心をぐちゃぐちゃに壊したら、どんな顔をするだろう?
 どうしたら、彼女の絶望した顔は見られるだろうか?
 やはり大切な存在――たとえば友人に裏切られるとか?
 いや、どうせなら恋人のほうがショックは大きいか?
 なら一度、自分の物にしてから楽しむのも悪くない。
 これからの遊びを考えているだけで、絶頂してしまいそうだ。
 綺麗なものほど……壊れる瞬間が美しい。
 だからこそその一瞬を見てみたくなるんだ。

「こういう時に限って、予定外の面倒もあったが……」

 さぁ……楽しみを味わいに行こう。
 その為の演出の準備はもう済んでいるのだから。



          ※



 建物に足を踏み入れた。
 視界の先には数人の男たちが立っている。

「時間通りじゃねえか」

 そう声を掛けてきたのは、あたしに言い寄ってきた男の一人だ。
 あの日に絡んできた三人の男は全員この場にいる。
 だが、おかしい……。
 この場にいる連中とあたしは、ほとんど面識もなければ、連絡先を伝えている相手なんていない。

「言われた通り、一人で来たみたいだな」
「なんで……あんたたちが――」

 ガチャ――。
 あたしの言葉を遮るように、工場内にある扉が開いた。
 そして、

「あ、本当に来たんだ~」

 女の子が一人、こちらに向かって歩いてくる。

「あなたは……――っ!?」
「あたしのこと、ちゃんと覚えてるんだ」

 髪型や化粧、髪の色が変わっていたから、直ぐに気付かなかった。
 けど、あたしは間違いなく彼女を知っていて……。

「二階堂……さん……」
「はははっ、まぁそりゃ忘れないよねぇ」

 忘れるわけがない。
 だって、彼女は中学時代にあたしの全てを奪った相手なのだから。

(……そういうことだったんだ)

 彼らがあたしの過去を知っていた理由は……彼女がいたから。

「あんたたちのこと、さ~んざん可愛がってあげたもんね~」
「っ……」

 二階堂さんが、ニヤッと挑発的な笑みを浮かべる。
 圧倒的な強者が弱者に余裕を見せつけるように。

「麗子の言ってたことはマジだったわけだ。
 こいつが元イジメられっ子ねぇ……全然見えねぇ……」
「気が強そうないい女って感じだもんな」
「めっちゃ可愛いよなぁ……これで処女とかだったら、マジで今日は最高なんだけど?」

 男たちが値踏みするようにあたしを見ている。

「見た目、中学時代と全然違うから、最初は全然気付かんかったわ~」

 言いながら二階堂さんがあたしに歩み寄って来た。
 そして目の前まで来たかと思うと、手を振り上げて――

「やっ、やめっ……」

 咄嗟に身をかがめてしまう。
 でも、彼女の手が振り下ろされることはなかった。

「ははははっ、中身はな~んも変わってない」
「か~わい~。
 叩かれそうになっただけで、脅えちゃってんじゃん」

 この場にいる全員があたしを嘲笑した。
 何も変われてない……それは事実だ。
 臆病で情けない姿を晒してしまっている……なのに、今も身体の震えが止まらなかった。
 だけど……このくらいで負けちゃダメだ。
 顔を上げてあたしは二階堂さんの姿を見つめる。

「っ……ば、バカにす――」
「黙れよ」

 パンッ――乾いた音が室内に響く。
 頬がじんわりと熱くなっていった。

「麗子、顔はやめろっての」
「そ~そ~ブスになったら、どうすんだよ?」
「犯《 や》るなら可愛い子のほうがいいべ」

 男たちが好き勝手なことを言っていた。
 何か言い返してやりたい。
 なのに、

(……あれ?)

 言葉が出てこない。
 ただ、軽く頬を叩かれただけなのに。

「そんな強く叩いてないし。
 こいつ黙らせたいなら、こうしてやるだけで大人しくなるって教えてあげたんじゃん。 見てよ、びくびく震えちゃってさ~……面白いでしょ~」

 二階堂さんが歪んだ笑みをあたしに向ける。
 心底おかしくて仕方ない。
 彼女の表情があたしにそう語っていた。

「んじゃあよ、犯してる最中に頬を叩いたら、喘ぎ声も出さなくなんのか?」
「かもね~。
 試したことないから、やってみる?
 どんな反応になるか見てみたいかも~」

 一斉に下卑た笑い声が上がった。
 何が楽しいのだろう?
 あたしには、理解できない。

「それじゃ……始めるか」
「ちょ!? 史一《 ふみかず》も交ざんの?」
「ちげーよ。
 お前にいくつか確認がある」

 史一と呼ばれた男があたしに近付いてきた。

「お前と一緒にいた男……あいつは同じ学校か?」

 それは考えてもいない、予想外の言葉だった。
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