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STAGE1
第13話 揺るがぬ決意
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※
「……ははっ」
事情を把握した周防の口から乾いた笑いが漏れた。
その表情には深い影が落ちていく。
「……最悪の偶然だな」
魔族に召喚された転移者が、人間側の勇者に視線を向ける。
恋は警戒するように身体を強張らせた。
攻撃を受けるかもしれない――と、恋は危惧したのだろう。
そんな彼女の姿に、身近な友人であったはずの関係に綻びが生まれてしまったような重苦しさが生まれる。
「いきなり襲うような真似はしないよ」
周防もそれを感じ取ったのだろう。
複雑な表情を崩すことはなかったが、今直ぐに敵対するような意志はないと告げた。
「あっ……ご、ごめん……」
「仕方ないよ。
僕たち関係を考えればね……」
二人に罪はない。
神の悪戯で転移に巻き込まれて面倒な事情を押し付けられただけだ。
が――ここでの問題は、使命を果たさなければ元の世界に戻ることができないということだ。
つまり周防が再び日本に帰るには勇者を討伐――もっと直接的に言ってしまえば、恋を殺す必要があるということで……。
『因果なものだな』
悪びれた様子もなくアルは呟く。
だが、そこに悪意は微塵もない。
この先を楽しむような興味が孕んでいるようだった。
神々の視点からすれば一個人の生死など些末なことなのだろう。
『いっそ異世界管理局を崩壊させてやりたいくらいだ』
『それはやめておけ。
あそこの女神たちもただ遊んでいるわけではない。
存在する全ての星々の管理も兼ねているのだ。
管理者がいなくなれば、全ての星々に更なる混沌が押し寄せることになる』
これらの行為は世界を救う為に必要なこと……というわけなのだろう。
個人の犠牲で世界が救われるのなら――という神の視点から見た大局的な判断なのかもしれないが、それに巻き込まれた方はたまったものではない。
『俺なりに対策はあるが……その前に聞かせてくれ。
最高神の権限でどうにかできないのか?』
『巡がどうしてもと頼むなら、友として手を貸すことはやぶさかではないが……人は自ら歩みものであろう?』
この程度の事態に手を貸すつもりはないらしい。
一応確認をしてみたが、そもそも神々は自らの手を下すことはない。
彼らの手足となって異世界を動くことになるのが、転移者であり転生者……ということだろう。
「周防……俺たちは魔王を殺す為にここに来た」
「……そう、だろうね」
俺たちの視線が交差する。
そして周防は重々しく頷いた。
戸惑いはあるようだが、事実から逃げるつもりはないのだろう。
「お前の使命は魔王を守ることじゃないんだな?」
「ああ……でも僕は彼女――エリーナを守りたい。
たとえ君たちと争うことになったとしても……」
周防の瞳には揺るぎない決意が宿っている。
「どうして? 魔王はユグドの人たちを苦しめてるのに……」
「……麗花さんはそう聞いているんだね」
「どういう意味?」
「魔族には魔族の事情があるんだ」
俺が見てきた異世界でも、種族間の争いというのは多かった。
人種差別があるのは地球と変わらない。
迫害が怒りや悲しみを生み、大きな戦争へと繋がっていく。
(……話し合いでは解決できないところまできてしまったからこそ、転移者を召喚してまで争っているわけだからな)
だが俺にとっての問題はこの異世界の事情ではない。
二人をどうやってここから救い出すかだ。
「……もしも君たちがエリーナを殺すというなら、僕は……」
「俺たちと戦うか?」
返事はない。
いや、答えがないのが答えだろう。
「周防くんは……どうしてそこまで……?」
「僕は……」
恋に質問を向けられ、心優しい少年は言葉を詰まらせる。
次に口を開くまでに逡巡するような間があった。
「……僕は――エリーナが好きなんだ」
「え……?」
「す、好きって……そ、それって――」
そうか……。
考え込んでいた理由がわかった。
「一人の女性として、僕はエリーナが好きなんだ」
自分のそんな想いを誰かに伝えるのは、当然……照れるだろう。
(……好きな子を守りたいってわけだ)
「なら俺たちと敵対するのには十分な理由だな」
「すまない……」
それでも俺たちと――恋の命を奪わなければならないことを、周防は良しとは思っていない。
「僕からの提案がある。
……このまま、この異世界で暮らさないか?」
「なるほど……そうすれば争わなくてもいいと?」
元の世界に帰るという目的を捨ててしまえば、それは一つの手だろう。
「僕はエリーナと一緒にいたい。
彼女を守る為ならなんでもする……その決意は揺らぐことはない」
「……あたしは帰りたいよ。
家族に会いたい……きっと、あたしのこと心配してると思う。
夢だってある――やりたいこといっぱいあるの!
それは……周防くんだって同じじゃないの?」
「……育ての両親には感謝してる。
でも僕は麗花さんほど帰りたいって想いはない」
育ての両親?
周防の家庭の事情については聞いたことがなかったが……どちらにしても、現時点では二人の間には大きな差があった。
「なぁ、周防……俺からも提案がある」
「……なんだい?」
「俺は恋を守る。
もし恋とお前、どちらかしか助けられないなら……迷わず恋を選ぶ」
「……それは仕方ないことだよ」
俺のことを非情とは言わない。
大切な者を守りたい――その気持ちを持っている周防だらこそ、俺の想いを理解しているのだろう。
「だけどな――どっちも助けられるなら、その選択肢があるのなら当然そっちを選ぶ」
「……?」
「俺を信じてくれるなら――恋の願いも、お前の願いもどっちも叶えてみせる」
「本当に……そんな方法があるのかい?」
たとえ一縷の望みであったとしても信じたい。
それは恋も周防も同じだろう。
「巡……何をするつもりなの?」
「この方法は魔王にも協力してもらう必要がある」
「エリーナに?」
俺は頷きその手段の説明をした。
※
「本当に……そんなことができるかい?」
「保証する。
魔王自身に強制するつもりもない」
「でも……」
説明を受けた上で周防は迷っているようだった。
だが、それは当たり前だ。
なぜなら俺が彼にした全員を幸せにする為の方法は――最悪、魔王エリーナを犠牲にすることになるのだから。
俺に疑いを持っても仕方ないだろう。
だが、
「周防……俺が力付くで魔王を討伐していない理由――それはお前も助けたいからだ」
その気になれば俺は、この暗黒大陸ごと魔王を消滅させることだってできる。
勿論、だがそんな大量虐殺をするつもりはない。
「俺は日本に戻った時に、自分自身に誓ったんだ。
異世界に転移してしまったクラスメイトを全員、必ず助けてみせるってな」
勿論、どうしても異世界にいたい。
そういう想いを持っているのなら――それが、そいつ自身の幸せになるのなら話は別だ。
だが、もしも少しでも未練があるのなら……。
「俺を信じてくれないか?」
絶対に救う――嘘偽りない想いを周防に伝えた。
眉を顰め頭を抱える周防。
彼には重い決断をしてもらわなければならない。
答えは直ぐに出さなくて当然だと思う。
だから決断が下されるまで俺たちは待ち続けた。
そして、
「……わかった。
彼女の元へ案内する」
「周防くん!?」
「ありがとう、周防」
俺と恋は、周防が提案を受け入れてくれたことで笑みを交わす。
「ただし、全てはエリーナが納得してくれたらだ」
「もちろんだ」
そして俺は周防に手を伸ばした。
「ふふっ……日本にいたら握手することなんてなかっただろうね」
「……確かに」
こういうのはなんだか照れくさいもんな。
でも、互いの目を、そして握手から伝わる力強さを通して――俺たちは互いを信じる。
「……なんだか狭間くんは、頼もしくなったね」
「そうか?」
「うん……不思議とそう感じるよ」
「それは年の功という奴かもしれないな」
「……そうだったね。
今の君は確かに先輩か」
一瞬、目を丸めてから、おかしそうに微笑を浮かべる周防。
彼らの体感で言えば俺は同級生なのだから当然の反応だろう。
「……考えてみたら、巡は精神的におっさんになったのかもね」
「おっさ――幼馴染のお前にそれを言われると、なんだか複雑だぞ」
「まぁ、いいじゃん。
頼りになるのは本当なんだから」
一応、恋も褒めてくれているのだろう。
俺たちの間にはもう重々しい空気は消え去っていて――以前のクラスメイトとしての関係が戻っていのだった。
「……ははっ」
事情を把握した周防の口から乾いた笑いが漏れた。
その表情には深い影が落ちていく。
「……最悪の偶然だな」
魔族に召喚された転移者が、人間側の勇者に視線を向ける。
恋は警戒するように身体を強張らせた。
攻撃を受けるかもしれない――と、恋は危惧したのだろう。
そんな彼女の姿に、身近な友人であったはずの関係に綻びが生まれてしまったような重苦しさが生まれる。
「いきなり襲うような真似はしないよ」
周防もそれを感じ取ったのだろう。
複雑な表情を崩すことはなかったが、今直ぐに敵対するような意志はないと告げた。
「あっ……ご、ごめん……」
「仕方ないよ。
僕たち関係を考えればね……」
二人に罪はない。
神の悪戯で転移に巻き込まれて面倒な事情を押し付けられただけだ。
が――ここでの問題は、使命を果たさなければ元の世界に戻ることができないということだ。
つまり周防が再び日本に帰るには勇者を討伐――もっと直接的に言ってしまえば、恋を殺す必要があるということで……。
『因果なものだな』
悪びれた様子もなくアルは呟く。
だが、そこに悪意は微塵もない。
この先を楽しむような興味が孕んでいるようだった。
神々の視点からすれば一個人の生死など些末なことなのだろう。
『いっそ異世界管理局を崩壊させてやりたいくらいだ』
『それはやめておけ。
あそこの女神たちもただ遊んでいるわけではない。
存在する全ての星々の管理も兼ねているのだ。
管理者がいなくなれば、全ての星々に更なる混沌が押し寄せることになる』
これらの行為は世界を救う為に必要なこと……というわけなのだろう。
個人の犠牲で世界が救われるのなら――という神の視点から見た大局的な判断なのかもしれないが、それに巻き込まれた方はたまったものではない。
『俺なりに対策はあるが……その前に聞かせてくれ。
最高神の権限でどうにかできないのか?』
『巡がどうしてもと頼むなら、友として手を貸すことはやぶさかではないが……人は自ら歩みものであろう?』
この程度の事態に手を貸すつもりはないらしい。
一応確認をしてみたが、そもそも神々は自らの手を下すことはない。
彼らの手足となって異世界を動くことになるのが、転移者であり転生者……ということだろう。
「周防……俺たちは魔王を殺す為にここに来た」
「……そう、だろうね」
俺たちの視線が交差する。
そして周防は重々しく頷いた。
戸惑いはあるようだが、事実から逃げるつもりはないのだろう。
「お前の使命は魔王を守ることじゃないんだな?」
「ああ……でも僕は彼女――エリーナを守りたい。
たとえ君たちと争うことになったとしても……」
周防の瞳には揺るぎない決意が宿っている。
「どうして? 魔王はユグドの人たちを苦しめてるのに……」
「……麗花さんはそう聞いているんだね」
「どういう意味?」
「魔族には魔族の事情があるんだ」
俺が見てきた異世界でも、種族間の争いというのは多かった。
人種差別があるのは地球と変わらない。
迫害が怒りや悲しみを生み、大きな戦争へと繋がっていく。
(……話し合いでは解決できないところまできてしまったからこそ、転移者を召喚してまで争っているわけだからな)
だが俺にとっての問題はこの異世界の事情ではない。
二人をどうやってここから救い出すかだ。
「……もしも君たちがエリーナを殺すというなら、僕は……」
「俺たちと戦うか?」
返事はない。
いや、答えがないのが答えだろう。
「周防くんは……どうしてそこまで……?」
「僕は……」
恋に質問を向けられ、心優しい少年は言葉を詰まらせる。
次に口を開くまでに逡巡するような間があった。
「……僕は――エリーナが好きなんだ」
「え……?」
「す、好きって……そ、それって――」
そうか……。
考え込んでいた理由がわかった。
「一人の女性として、僕はエリーナが好きなんだ」
自分のそんな想いを誰かに伝えるのは、当然……照れるだろう。
(……好きな子を守りたいってわけだ)
「なら俺たちと敵対するのには十分な理由だな」
「すまない……」
それでも俺たちと――恋の命を奪わなければならないことを、周防は良しとは思っていない。
「僕からの提案がある。
……このまま、この異世界で暮らさないか?」
「なるほど……そうすれば争わなくてもいいと?」
元の世界に帰るという目的を捨ててしまえば、それは一つの手だろう。
「僕はエリーナと一緒にいたい。
彼女を守る為ならなんでもする……その決意は揺らぐことはない」
「……あたしは帰りたいよ。
家族に会いたい……きっと、あたしのこと心配してると思う。
夢だってある――やりたいこといっぱいあるの!
それは……周防くんだって同じじゃないの?」
「……育ての両親には感謝してる。
でも僕は麗花さんほど帰りたいって想いはない」
育ての両親?
周防の家庭の事情については聞いたことがなかったが……どちらにしても、現時点では二人の間には大きな差があった。
「なぁ、周防……俺からも提案がある」
「……なんだい?」
「俺は恋を守る。
もし恋とお前、どちらかしか助けられないなら……迷わず恋を選ぶ」
「……それは仕方ないことだよ」
俺のことを非情とは言わない。
大切な者を守りたい――その気持ちを持っている周防だらこそ、俺の想いを理解しているのだろう。
「だけどな――どっちも助けられるなら、その選択肢があるのなら当然そっちを選ぶ」
「……?」
「俺を信じてくれるなら――恋の願いも、お前の願いもどっちも叶えてみせる」
「本当に……そんな方法があるのかい?」
たとえ一縷の望みであったとしても信じたい。
それは恋も周防も同じだろう。
「巡……何をするつもりなの?」
「この方法は魔王にも協力してもらう必要がある」
「エリーナに?」
俺は頷きその手段の説明をした。
※
「本当に……そんなことができるかい?」
「保証する。
魔王自身に強制するつもりもない」
「でも……」
説明を受けた上で周防は迷っているようだった。
だが、それは当たり前だ。
なぜなら俺が彼にした全員を幸せにする為の方法は――最悪、魔王エリーナを犠牲にすることになるのだから。
俺に疑いを持っても仕方ないだろう。
だが、
「周防……俺が力付くで魔王を討伐していない理由――それはお前も助けたいからだ」
その気になれば俺は、この暗黒大陸ごと魔王を消滅させることだってできる。
勿論、だがそんな大量虐殺をするつもりはない。
「俺は日本に戻った時に、自分自身に誓ったんだ。
異世界に転移してしまったクラスメイトを全員、必ず助けてみせるってな」
勿論、どうしても異世界にいたい。
そういう想いを持っているのなら――それが、そいつ自身の幸せになるのなら話は別だ。
だが、もしも少しでも未練があるのなら……。
「俺を信じてくれないか?」
絶対に救う――嘘偽りない想いを周防に伝えた。
眉を顰め頭を抱える周防。
彼には重い決断をしてもらわなければならない。
答えは直ぐに出さなくて当然だと思う。
だから決断が下されるまで俺たちは待ち続けた。
そして、
「……わかった。
彼女の元へ案内する」
「周防くん!?」
「ありがとう、周防」
俺と恋は、周防が提案を受け入れてくれたことで笑みを交わす。
「ただし、全てはエリーナが納得してくれたらだ」
「もちろんだ」
そして俺は周防に手を伸ばした。
「ふふっ……日本にいたら握手することなんてなかっただろうね」
「……確かに」
こういうのはなんだか照れくさいもんな。
でも、互いの目を、そして握手から伝わる力強さを通して――俺たちは互いを信じる。
「……なんだか狭間くんは、頼もしくなったね」
「そうか?」
「うん……不思議とそう感じるよ」
「それは年の功という奴かもしれないな」
「……そうだったね。
今の君は確かに先輩か」
一瞬、目を丸めてから、おかしそうに微笑を浮かべる周防。
彼らの体感で言えば俺は同級生なのだから当然の反応だろう。
「……考えてみたら、巡は精神的におっさんになったのかもね」
「おっさ――幼馴染のお前にそれを言われると、なんだか複雑だぞ」
「まぁ、いいじゃん。
頼りになるのは本当なんだから」
一応、恋も褒めてくれているのだろう。
俺たちの間にはもう重々しい空気は消え去っていて――以前のクラスメイトとしての関係が戻っていのだった。
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