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1人目「黒い糸」
火の無い所に煙は立たぬ
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幼い頃に聞いた噂。
「カメラのふぁいんだー?っていうのを見ると変なのが見えるんだってぇ」
そんな曖昧な、それ以上内容の無い噂。
18年間、信じてなんていなかった。
この時までは・・・。
俺は藤村 壱縁(ふじむら いちむね)。
23歳、会社員。
何気ない毎日を、ただただ過ごしていた。
「楽しいことないかなぁ・・・」
壱縁は少し退屈していた。
高校を卒業と同時にそのまま就職し、一般的な会社員として5年。打ち込めるような趣味もなく、休日はだらだらと・・・。
時計を見ると昼の12時を少し過ぎた所だった。
「もうこんな時間か。今日は少し外に出るかな」
部屋にいてもスマホゲームで時間を潰して休日を消化するだけ。
たまに気分転換で、外に出かけるようにしている。
朝起きて一度も布団から出ていなかったため、服装はハーフパンツにTシャツのまま。
「着替えるか・・・」
今日は快晴。夏の日差しは壱縁の体を熱していく。
「今日暑過ぎだろ・・・」
車を駐車場に置き、目的の場所までは歩く。っと言っても目的地までは徒歩5分ほど。
しかし、就職してからデスクワークで衰退した壱縁の体へダメージを与えるには十分な時間だった。
「これは、何かの試練か?」
独り言が出る。
壱縁には友達が少ない。決していないわけではない。
ただ、社会人になると同時に県外へ行く者、返信がなかなか返ってこない者などなど・・・。
地元に残ったのは自分だけだった。
お察しの通り、社会人になってからは・・・0人。
店舗前に着きドアが開く。
「寒っ!!」
店内は設定温度が低いのか、涼しいどころか少し寒いくらいだった。
ここは電気屋。最近パソコンの調子が悪く買い替えを考えていたのだ。
「何か良いのあるかなぁ」
特にスペックを気にする方ではないが、仕事を持ち帰ってくることもあるので処理が早いに越したことはない。
パソコン関連は3階。エスカレーターに乗る。
寒さのせいか体がブルッと震えた。
「それにしても、寒過ぎじゃないか・・・?店員も他のお客さんも気にならないのか?」
2階、3階と登ってきたが視界に映る人達はこの気温を全く気にしていないようだった。
「もしかして風邪でも引いたかな?』
などと考えているうちにパソコン売り場へ着いた。
そこには何機種あるか数えられないほど並んでいた。
「ゲーミングパソコンか・・・高っ!!」
順番に見ているうちに、ふと自分へ向けられている視線に気付いた。
なんとも言えない気持ち悪さを感じる視線。周りをキョロキョロと見渡す。
しかし、他のお客さんどころか店員も見当たらない。
視線を感じた先にあったのは、一台のカメラだった。
「大特価。商品入れ替えのため30%OFF・・・。カメラって高いんだな」
セール品で値引きされてはいるものの、元が高いので決して安いとは言えない金額だった。
気づけば視線は消えていた。いや、消えていたというよりは忘れるほどに見入っていた。
「カメラか・・・。風景とか撮るようになれば歩くことも多くなるだろうし、少しは運動不足解消できるかな?」
元々興味があったわけではない。だが、何故かこのカメラからは目が離せなかった。
「お客様、カメラの購入をお考えですか?」
「!?」
どれだけの時間この場に立っていたのだろう。いつの間にか隣に若めの男性店員がいた。
「展示されているこちらが最後の一台となってまして、30%OFFと書いてますが今ご購入されるのでしたら50%OFFにしちゃいますよ♪」
「半額!?」
「えぇ、今ならさらにこちらのカメラバックを・・・」
店員は営業スマイル全開で壱縁に説明を続けていった。
「ただいまー」
誰もいない室内へと呟く。
「買ってしまった・・・」
部屋の中へ入ってきた壱縁の手には大きめの紙袋が一つ。
そう、カメラを買ったのだ。店員の説明を30分ほど聞くうちに欲しくなってしまいその場で購入。
パソコンを買い換えるために貯めていたお金で買ったのだ。
「パソコンは使えなくなったわけではないし、いざとなったら職場のノートパソコンを持って帰ってくればいいし」
そう自分に言い聞かせ、買ってしまったことへの理由にする。
箱の中にはカメラのボディにレンズが一本。レンズキットというらしい。その他、バッテリー等々が入っており全てがセットになっている・・・らしい。
「言われるがままに買ってしまったけど、使い方もわからないんだよなぁ」
現在時刻が17時35分。残りの寝るまでの時間は、説明書を読むことと晩ご飯を食べることで終わった。
「やっと撮ることができる!」
カメラを購入してから5日後。単休の日にカメラを買ってしまったため、なかなか撮りに来ることが出来なかったのだ。
「シャッターボタンがここで、撮った写真を確認するのがここっと」
今日になるまで仕事が終わって帰ってきては説明書を読み、わからない用語は調べを繰り返してきた。
勢いで買ったものの、今では興味津々だった。
初心者感を知らない人達に見られたくなかったため、車を20分ほど走らせた所にある自然豊かな公園へと来た。
街中を歩くよりは人が少なく、伸び伸びと撮れそうだ。
何を撮るかは特に決めず、とりあえず歩き始めた。
青い空、濃い緑の木、色とりどりの花、近くには小さな池。
被写体にできそうな素材がいっぱいある。
「とりあえず、何か撮ってみるか」
何気なく近くの小さな池へ、ファインダーを覗きカメラを構える。
「脇を締めて、ブレないように・・・」
そんなことをしていると壱縁の前を1人の女性が横切った。
「え?」
ファインダー越しに見えた女性。そして黒い糸のようなものが一緒に見えた。
思わず構えていたカメラを下ろす。しかし、先ほど見えた糸は見えない。
再びゆっくりとカメラを構えた。
そこに見えたのは、女性の後ろにゆらゆらと揺れる黒い糸が1mほど。
見間違いではなかった。
そもそもその女性の服装は真っ白なワンピース。黒い糸とは無縁なはずだ。それに、その糸を見ているとても不安な気持ちになる。
今まで見たことのない不思議な光景に、壱縁はカメラを構えたまま動くことができなかった。
暑さの汗とは違う何かが背中を流れていくのを感じた。
「カメラのふぁいんだー?っていうのを見ると変なのが見えるんだってぇ」
そんな曖昧な、それ以上内容の無い噂。
18年間、信じてなんていなかった。
この時までは・・・。
俺は藤村 壱縁(ふじむら いちむね)。
23歳、会社員。
何気ない毎日を、ただただ過ごしていた。
「楽しいことないかなぁ・・・」
壱縁は少し退屈していた。
高校を卒業と同時にそのまま就職し、一般的な会社員として5年。打ち込めるような趣味もなく、休日はだらだらと・・・。
時計を見ると昼の12時を少し過ぎた所だった。
「もうこんな時間か。今日は少し外に出るかな」
部屋にいてもスマホゲームで時間を潰して休日を消化するだけ。
たまに気分転換で、外に出かけるようにしている。
朝起きて一度も布団から出ていなかったため、服装はハーフパンツにTシャツのまま。
「着替えるか・・・」
今日は快晴。夏の日差しは壱縁の体を熱していく。
「今日暑過ぎだろ・・・」
車を駐車場に置き、目的の場所までは歩く。っと言っても目的地までは徒歩5分ほど。
しかし、就職してからデスクワークで衰退した壱縁の体へダメージを与えるには十分な時間だった。
「これは、何かの試練か?」
独り言が出る。
壱縁には友達が少ない。決していないわけではない。
ただ、社会人になると同時に県外へ行く者、返信がなかなか返ってこない者などなど・・・。
地元に残ったのは自分だけだった。
お察しの通り、社会人になってからは・・・0人。
店舗前に着きドアが開く。
「寒っ!!」
店内は設定温度が低いのか、涼しいどころか少し寒いくらいだった。
ここは電気屋。最近パソコンの調子が悪く買い替えを考えていたのだ。
「何か良いのあるかなぁ」
特にスペックを気にする方ではないが、仕事を持ち帰ってくることもあるので処理が早いに越したことはない。
パソコン関連は3階。エスカレーターに乗る。
寒さのせいか体がブルッと震えた。
「それにしても、寒過ぎじゃないか・・・?店員も他のお客さんも気にならないのか?」
2階、3階と登ってきたが視界に映る人達はこの気温を全く気にしていないようだった。
「もしかして風邪でも引いたかな?』
などと考えているうちにパソコン売り場へ着いた。
そこには何機種あるか数えられないほど並んでいた。
「ゲーミングパソコンか・・・高っ!!」
順番に見ているうちに、ふと自分へ向けられている視線に気付いた。
なんとも言えない気持ち悪さを感じる視線。周りをキョロキョロと見渡す。
しかし、他のお客さんどころか店員も見当たらない。
視線を感じた先にあったのは、一台のカメラだった。
「大特価。商品入れ替えのため30%OFF・・・。カメラって高いんだな」
セール品で値引きされてはいるものの、元が高いので決して安いとは言えない金額だった。
気づけば視線は消えていた。いや、消えていたというよりは忘れるほどに見入っていた。
「カメラか・・・。風景とか撮るようになれば歩くことも多くなるだろうし、少しは運動不足解消できるかな?」
元々興味があったわけではない。だが、何故かこのカメラからは目が離せなかった。
「お客様、カメラの購入をお考えですか?」
「!?」
どれだけの時間この場に立っていたのだろう。いつの間にか隣に若めの男性店員がいた。
「展示されているこちらが最後の一台となってまして、30%OFFと書いてますが今ご購入されるのでしたら50%OFFにしちゃいますよ♪」
「半額!?」
「えぇ、今ならさらにこちらのカメラバックを・・・」
店員は営業スマイル全開で壱縁に説明を続けていった。
「ただいまー」
誰もいない室内へと呟く。
「買ってしまった・・・」
部屋の中へ入ってきた壱縁の手には大きめの紙袋が一つ。
そう、カメラを買ったのだ。店員の説明を30分ほど聞くうちに欲しくなってしまいその場で購入。
パソコンを買い換えるために貯めていたお金で買ったのだ。
「パソコンは使えなくなったわけではないし、いざとなったら職場のノートパソコンを持って帰ってくればいいし」
そう自分に言い聞かせ、買ってしまったことへの理由にする。
箱の中にはカメラのボディにレンズが一本。レンズキットというらしい。その他、バッテリー等々が入っており全てがセットになっている・・・らしい。
「言われるがままに買ってしまったけど、使い方もわからないんだよなぁ」
現在時刻が17時35分。残りの寝るまでの時間は、説明書を読むことと晩ご飯を食べることで終わった。
「やっと撮ることができる!」
カメラを購入してから5日後。単休の日にカメラを買ってしまったため、なかなか撮りに来ることが出来なかったのだ。
「シャッターボタンがここで、撮った写真を確認するのがここっと」
今日になるまで仕事が終わって帰ってきては説明書を読み、わからない用語は調べを繰り返してきた。
勢いで買ったものの、今では興味津々だった。
初心者感を知らない人達に見られたくなかったため、車を20分ほど走らせた所にある自然豊かな公園へと来た。
街中を歩くよりは人が少なく、伸び伸びと撮れそうだ。
何を撮るかは特に決めず、とりあえず歩き始めた。
青い空、濃い緑の木、色とりどりの花、近くには小さな池。
被写体にできそうな素材がいっぱいある。
「とりあえず、何か撮ってみるか」
何気なく近くの小さな池へ、ファインダーを覗きカメラを構える。
「脇を締めて、ブレないように・・・」
そんなことをしていると壱縁の前を1人の女性が横切った。
「え?」
ファインダー越しに見えた女性。そして黒い糸のようなものが一緒に見えた。
思わず構えていたカメラを下ろす。しかし、先ほど見えた糸は見えない。
再びゆっくりとカメラを構えた。
そこに見えたのは、女性の後ろにゆらゆらと揺れる黒い糸が1mほど。
見間違いではなかった。
そもそもその女性の服装は真っ白なワンピース。黒い糸とは無縁なはずだ。それに、その糸を見ているとても不安な気持ちになる。
今まで見たことのない不思議な光景に、壱縁はカメラを構えたまま動くことができなかった。
暑さの汗とは違う何かが背中を流れていくのを感じた。
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