病んだ妹に悪役令嬢へ転生させられたが、俺エンドだけは避けたい

的射 梓

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中編 (友人レティシアside)

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- レティシアside -

 今日はアネットちゃんの結婚式にお呼ばれしました!
 アネットちゃんのご親戚、新郎のユベールさんのご親戚、それにそれぞれの家にお仕えしてる人たちでいっぱいです。

 あまり学校のお友だちは来てないのかな?
 アナイスちゃんも来ると思ったんだけど、「お姉さまが他の男に奪われるところなんて、見たくありません」って。
 気持ちは分からなくない……かな?
 アナイスちゃんって本当にアネットちゃんのこと大好きで、同い年なのに「お姉さま」って呼んでるんだもん。
 お友だちが取られちゃうみたいで嫌かもしれないけど、でもせっかくの結婚式くらい出たらいいのにって思います。

 だって、ウェディングドレス姿のアネットちゃんって本当に綺麗なんだよ?
 いつもの暗色系でクールなアネットちゃんもかっこいいけど、ウェディングドレスに負けないくらい白い肌の映えるアネットちゃんもすごくすごく素敵だよー!
 ほんのり顔を赤くしているところもとっても可愛らしいです。

 でもアネットちゃん緊張してるから、ちょっと顔コワいかも……。
 ユベールさんはいつもみたいにニコニコしててとっても優しそう。

「水霊リンデーアのご加護ある日にその証を受け、悲しみは半に割り、喜びは倍に成すこと、歩みを合わせながら過ごしていくことを、ここに誓いなさい」

 神官さまの心澄み渡るような言葉が響きました。
 アネットちゃんとユベールさんの前に杯が出されます。
 その杯に、真ん中がハートの形にくびれてて先が二つに割れたかわいいストローが刺さりました。
 リンデーア式の結婚式だから、二人で霊酒を飲み干すことで誓いが完成するんだよね。

 緊張したアネットちゃんがおずおずとストローを口にするまで、ユベールさんは優しく見守っていました。
 二人でちゅうちゅうって霊酒を吸い上げる幸せそうな音、離れてるからそんなはずないのに聞こえてきそう。
 やがて霊酒がなくなると、ストローを離した二人の唇が近づいて――

 わー♡ きゃー♡

 わたしが結婚するときもリンデーア式がいいかなって、ちょっと思いました。

 * * *

 美人でスタイルよくて賢くって、どこか浮世離れしていてこの世のものとは思えない聖女様っていうか。
 おうちが宗教関係の偉いところだから、ちょっと潔癖症みたいなところがあるのかな?
 「付き合い悪いし、お高くとまってるよね」なんていう子もいるけど、そうなのかな……。

 仲良くなる前のアネットちゃんって、そんな印象でした。

 ある日の昼休み、学校の食堂でアネットちゃんを見かけました。
 アナイスちゃんと一緒にいることが多いんだけど、その日は一人で食べてて。
 すみっこのほうでぽつんとごはんを食べてるアネットちゃんってなんだか絵の中から出てきたみたいで、気になって話しかけてみたんです。

「ね、隣いいかな」
「ええ、どうぞ」

 アネットちゃんの横の席取って、お昼ごはんをテーブルに乗せました。

「アネットさんだよね? わたしはレティシアって言うの」
「さんはいらないわ。よろしく、レティシアさん」
「あ、わたしも呼びタメ全然OKだよ。アネットちゃん、よろしくお願いします」

 そう言ったら、アネットちゃんは怪訝けげんそうな顔で。

「……ちゃん?」

 あれ、何かおかしなこと言っちゃったかな?

「えっと、ちゃん呼びは嫌い?」
「いいえ。かまわないけれど、ただ、ちょっと慣れてないだけ」

 よかった。アネットちゃんってあまりアナイスちゃん以外の子と仲良く話してるところ見ないし、本当に慣れてないだけみたい。

「あ、いちごジャムトーストだ! わたしもそれ好き」
「そう」

 うう、なんだかそっけない……。
 後で聞いたんだけど、このときアネットちゃんはちょっと緊張してたみたい。
 アネットちゃんって沈着冷静に見えるけど、けっこうあがり症なとこあるんだよね。

 でも間近で見たアネットちゃんは切れ長で目鼻立ちのくっきりした美人で、ごはんがとてもおいしく食べられました。
 男の人でも女の人でも、綺麗な人は眼福だよね!

「あのねあのね、今そこの劇場で『燃ゆる山河は鬼百合の香り』って舞台やってるの知ってる?」
「そうなの」
「そうなのそうなの! でね、わたしこの前観てきたんだけどね、あ、アネットちゃんってネタバレとか気にする子?」

 いけないいけない、抑えきれない推し愛が暴発するところだった!

「いえ、別にかまわないけれど……」
「じゃあ、話続けるね?」
「え? ええ、どうぞ」

 ちょっと間があったような気がするけど、でも止まれないもん。

「ブランシャール家陣営に仕える従士ケヴィンを演じてるのが、わたしの大好きなリシャール・ノヴァクっていう俳優さんなんだけどね、これがもう凄いの! 今回主人の騎士が戦えなくなって、従士隊だけで主人をかばいながら敵と戦う場面があるんだけど、強くて敵ばさばさ倒れれてくのにそこの剣さばきがすごく綺麗なの!」
「凄い俳優なのね」

 アネットちゃんにも推しの良さが伝わったみたい? これは布教のチャンスだよね!

「そうすごいの! リシャールってディレクターのゴリ推しで抜擢されたなんていう人もいるけどね、そんなの絶対ウソだから! 演技力はすごいし剣術だって相当なものだもん。わたし初日に行ったから舞台挨拶で聞いたんだけど、その舞台のために聖堂騎士団に客員騎士として入団して剣の腕鍛えてきたんだって。体育会系のところできっちりしごかれて正直泣きそうなくらいキツかったって、一緒に聖堂騎士団に行った俳優さんが言ってた。騎士団で修行しながら舞台の稽古もってすごくない? だから白刃戦の演技なんか鳥肌が立つくらい気迫があって、わたしもリシャールとご主人の間に入ったら斬られちゃうぐらいの。ううん、リシャールが斬ってくれるなら、むしろ斬って! 流れる汗とかすごいセクシーで、もう本当に変な声が出るの抑えるの必死だった。ふ、ふぉ、ふぉぉぉぉおおおお!」

 ああ、リシャール愛が抑えきれなかった!
 いつも冷静なアネットちゃんがきょろきょろあたりを見回してました。
 でもこの周りってずっと人いないから大丈夫だよね?

「ごめんね?」
「最近はそういうものが流行っているのね」
「そうなの! 今イチ推しの俳優さんがリシャールだよ! 『クレプスコロインマレ』に出てた頃からファンだったんだけど最近ファンの子増えてて」
「えっと、俳優さんじゃなくて」
「あ、別にわたし同担拒否とかないんだけどね、でもちょっとなんかもやもやするっていうか……ううん、でもリシャールすごいイケメンだからファンにならない方がおかしいよね。だからアネットちゃんもファンになると思うの!」

 はっと意識を目の前のアネットちゃんに向けたけど、伝わった……かな?

「そこまでの舞台なのね……」

 あ……。また、やっちゃったなーって。
 ちょっと興奮が引いて冷静になると、自分の話してたことにぞーっとしてきました……。

「ごめんね?」
「何が?」
「あのね、わたしってちょっと距離感の取り方が分からなくって、あまり仲の良くない人の前でも夢中で話したりしちゃうんです。気分悪くしたらごめんなさい」
「いえ、実に面白い話だったわ。私、何が流行っているかあまり知らないから」
「そう? じゃあまた見かけたらお話してもいいかな?」
「いいけれど……」

 こうしてわたしとアネットちゃんはお友だちになったのでした。
 アナイスちゃんは最初ちょっと塩対応だったけど、一緒にごはんとか食べているうち仲良くしてくれました。
 わたしっていつのまにか距離置かれちゃってること多いんだけど、アネットちゃんはいつも、実に興味深いわって話聞いてくれます。
 アネットちゃんが付き合い悪いなんてこと、全然ないよね!

 結婚したアネットちゃんとは今までみたいには会えなくなるかもだけど、でもずっと友だちだよ!

 * * *

 結婚式もだいたい終わって、今度はわたしのテーブルの上に紫色のベリージュースが運ばれてきました。
 これ、ただのジュースじゃなくて、ううん、ほとんどはただのジュースなんだけど、一つだけリンデーア様のご加護がかかったのが入ってるんだよね。
 ストローでかき混ぜて桃色に変わったら、アネットちゃんたちのご縁にあやかって次に結婚できる……可能性が上がるそうです。
 ちなみにもう結婚してる人とか生涯独身主義の人とかには絶対に当たらないんだって! 魔法ってすごいね!

 当たればいいなーと思ってわたしはストローを回し始めました。
 ぐるぐる、ぐるぐる。押した氷がからんからんって気持ちのいい音を立てます。
 ふふふ、どうかな、どうかなー?

 ……あれ? あれれれ?
 光の反射かもしれないけど、紫色のジュースの中から薄い色のが吹き上がってきました。
 えっ、これ、本当の、本当に? 自然と手が速くなって、シャカシャカと回しちゃってます。
 ジュースの色はどんどん薄くなって、最後にはまっピンクになりましたー!

 ううっ、まわりの席の人からのお祝いの言葉が恥ずかしい……!
 ありがとうアネットちゃん、わたしも幸せになるね!
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