ぼくらのトン太郎

いっき

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そんなある日の日曜日のお昼のことだった。
いつものようにテレビをつけていたお父さんがけわしい顔をしていた。それは『豚コレラ』のニュースのようだった。
「豚コレラ?」
それは、ぼくが初めて耳にする言葉だった。ニュースには白い服を着た大人がたくさんうつっていて、それを見たぼくは何だか、背筋がゾクっとさむくなった。
「養豚場のすべての豚を殺処分し、消毒を行なうこととします」
ニュースではそんな言葉が流れてきた。
「ねぇ……殺処分って、何?」
その言葉が分からずたずねると、お父さんは顔をこわばらせた。
「養豚場の豚を殺すんだ」
「えっ……」
殺す……その言葉はまるでぼくの頭に冷たい水をかけるかのように、ぼくの体をブルッとふるわせた。
「殺すって、どうして?」
「豚がこわい病気にかかって、ほっといたら他の豚もどんどんかかってしまうんだ。だから、病気にかかった豚を殺して広がっていくのをとめなければならない」
「どうして? だったら病気を治したらいいじゃない」
泣きそうになるぼくに、お父さんは首を横に振った。
「いいや、豚コレラは治らない。だから、殺す以外に方法はないんだ」
「そんな……」
治らない病気だって……ぼくたちだったらお医者さんに行って、必死で治してもらうのに。
「それに、ニュースでやっている豚たちは、いずれは肉になって食べられるためにうまれてきたんだ。殺されるのが早いかおそいか……ただ、それだけのちがいなんだよ」
ぼくも、牛や豚の肉を食べている。だから、お父さんの言っていることは分かる。
でも、ぼくにはどうしても……お父さんの言葉を全部は受け入れることはできなかったんだ。

ぼくは一階に降りて……柵の中のソファーにねそべるトン太郎に語りかけた。
「ねぇ、トン太郎。お前、もし食べられるために生まれてきたら、どうする?」
トン太郎はねぼけまなこで首をもたげ、じっとぼくを見つめた。
「治らない病気にかかって、すぐに殺されることになったら……」
トン太郎は鼻をひくひくさせて、何を考えているのか分からなかったけれど。ぼくの目にはじんわりとなみだがうかんだ。
それは、ニュースで殺される豚とぼくのトン太郎が重なってしまったから。もしぼくのトン太郎が苦しい病気にかかって、すぐに殺されてしまったら……考えるだけで、ぼくの目からはなみだがあふれて止まらなかった。
殺されてしまう養豚場の豚とトン太郎……何がちがうんだろう?
死ぬために生まれてきてしまった命と、ペットとして大切にしてもらう命……この世に生まれてきた同じ命なのに、どこがちがうんだろう?
考えれば考えるほどに、ぼくには命の重さというものが分からなくなった。
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