ぼくらのトン太郎

いっき

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その日から、学校が終わった後のトン太郎の遊び相手に中井くんも加わった。
いつもぶすっとしていた中井くんは、前よりもいきいきとしていて楽しそうで。そんな中井くんに来てもらって、トン太郎もとってもうれしそうだった。

それからもニュースでは豚コレラのこと、豚がたくさん殺されたことが流れた。そのたびに、ぼくはとってもつらくて悲しくなったけれど、前みたいに、そのことをひどいなんて思わなかった。
だって、それはとってもつらくて悲しいことで……だからこそ、それを早く終わらせるために家畜保健衛生所のお兄さんたちが心をいためながらがんばっているんだから。だから、ぼくたちはひたすらに、豚コレラなんて病気が早くなくなりますように、これ以上、悲しいことが起こりませんように……っていのりつづけた。

春になって、ぼくたちは小学四年生になった。そのころには豚コレラもどうにかおさまってくれたみたいで、ニュースで流れることも少なくなった。
トン太郎はあいかわらず、きれい好きだけれどぐうたらで、ぼくたちが宝探しゲームをしてやったら、いっつもうれしそうに鼻をひくひくと地面におしつけて、食べ物をほり当ててよろこんでいた。その様子がとてもかわいくて、浩介くんやあかりちゃんはもちろん、中井くんや新しいクラスでできたお友達も、毎日のようにトン太郎に会いに来てくれた。
そんな、夏休み前のある日のことだった。ホームルームの時間に、先生がクラスのみんなにチラシを配ってくれた。チラシには、『夏休み 家畜保健衛生所のお仕事体験教室』って書いてあった。先生はにっこりと笑って、みんなの前でお話した。
「みなさん、もうすぐ夏休みですね。そんな夏休みに、家畜保健衛生所っていう動物たちを病気から守る人たちが親子体験教室をやるということで、チラシをくれました。みなさん、ぜひ、お父さんやお母さんと参加してみて下さいね」
ぼくはそのチラシを見た。それは、ぼくの家からそれほど遠くない場所で、そこであのお兄さんたちが働いているんだって分かった。
ぼくは、お兄さんたちがどんなお仕事をしているのか、もっともっと知りたくて。ぜひ、この体験教室に行ってみたい。そう、思った。
その日の学校からの帰り道。
「大輝、浩介。お前らも、行くだろ?」
「えっ?」
「家畜保健衛生所のお仕事体験教室」
中井くんが白い歯を見せて、ニッと笑った。
「中井くんも行くの?」
「おぅ、あたりまえだろ。おれ、トン太郎のことがあってから、動物の病気のことをよく知りたいって。色々、調べてんだぜ」
それは、ぼくも同じだった。豚コレラのことがあってから、動物の病気のことが気になって、お父さんにたのんでインターネットで調べていた。
豚コレラとは別に『アフリカ豚コレラ』っていう、これもまた、すっごくこわい病気が外国からの輸入品にまじって入ってきているってこともこの間知った。
「私も行くわよ」
あかりちゃんもにっこりと笑うと、中井くんはちょっとほっぺたをもも色にそめた。中井くんがあかりちゃんを好きってうわさがあるんだけれど、どうやら本当みたいだ。
「よし! じゃあ、ぼくたち四人とも行こう!」
浩介くんもにっこりと笑ってそう言った。
ぼくたちは豚コレラのニュースがあって……トン太郎のことがあって。もっと知りたいと思っていたんだ。動物の病気のこと、家畜保健衛生所のお仕事のこと。だから、ぼくたちはお父さん、お母さんにお願いして、家畜保健衛生所のお仕事体験教室に行くことになった。

夏休みになっても、みんなトン太郎に会いに来てくれて、トン太郎もたいくつすることはないようだった。ぼくたちはトン太郎と遊ぶだけじゃなくて、山に登ってぼうけんしたり、川でつりをしたり、とっても楽しい休みをすごしていた。
そして、ついに体験教室の日になった。家畜保健衛生所はぼくの住んでいる家のうら手の田んぼのあぜ道をぬけて、少しだけ山を上がったところにあった。だけれども、こんなに田舎にあっただなんてびっくりするほどに、きれいでりっぱな建物だった。
ぼくがお父さんと一緒に親子体験教室という看板の立てられた部屋に入ると、浩介くんもあかりちゃんも中井くんももう来ていた。
「大輝、遅いぞ」
「へへっ、ごめん、ごめん。楽しみすぎて、ねぼうして」
「まぁ、大輝らしいけどな」
みんなはそう言って、笑っていた。
その部屋を見回すと、家畜保健衛生所のお仕事についてのパネルがあちこちに立てられていた。そこには牛、豚、鶏はもちろん、ミツバチも病気から守る家畜保健衛生所のお仕事が紹介されていた。病気から守るだけでなく、畜産をさかんにすることも仕事みたいだった。
「すごい……」
そのパネルを見て、ぼくの口をついて出た。パネルにかざられていたお仕事の風景の写真はかがやいて見えた。

「それでは、家畜保健衛生所のお仕事を紹介します」
そう言って出て来たのは、ぼくの家に来てトン太郎を見てくれた、あのお兄さんだった。お兄さんは大きなスクリーンで家畜保健衛生所のお仕事を説明してくれた。
牛や豚、鶏、ミツバチを病気から守ること。ぼくたちの住んでいる地域の畜産をさかんにすること。そして、ぼくたちの食べ物の安全を守ること。
その説明をするお兄さんはとってもかっこよくて。ぼくも大人になったらお兄さんみたいになりたいって思った。

体験教室ではバター作りやはちみつしぼりなんかを教えてもらって、それらはみんな、とっても楽しかった。そんな楽しい時間はあっという間にすぎて、気がつけばもう、帰る時間になっていた。
帰りぎわにぼくは、家畜保健衛生所の門の所でトン太郎を見に来てくれたお兄さんと目が合った。するとお兄さんはちょっと考えて、思い出したようにぼくに話しかけてくれた。
「君は確か、トン太郎くんの……」
「はい! お兄さん、あの時、トン太郎を見に来てくれましたよね」
覚えていてくれたんだ……そのことがうれしくて、感激していると、お兄さんはにっこりと笑った。
「トン太郎くんは、元気?」
「はい、とっても元気です」
「そっか。よかった」
お兄さんはうれしそうに目を細めた。そんなお兄さんを見て、ぼくもうれしくなった。
「ねぇ、お兄さん」
「うん?」
「ぼく、大きくなったら、お兄さんみたいに動物を守って……かっこいい仕事がしたい」
「えっ?」
お兄さんはぼくの言葉にちょっとおどろいたみたいだけれど、すぐにまた、にっこりと笑った。
「そっか。この仕事はツラいことも、悲しいことだって、いっぱいあるぞ。大丈夫?」
「うん! だって……うちにトン太郎を見に来てくれた時から、お兄さんはぼくのあこがれだから」
すると、お兄さんはほほえんだ。
「そうか。そんな風に思ってくれたなら、うれしいよ。あと十年、いや、二十年後かな……君も家畜保健衛生所に来てくれるのを待ってるよ」
お兄さんは「その時にはぼくはおじさんになってるけどね」と言葉を続けて、うれしそうに笑ったのだった。

トン太郎は今日もソファーで気持ち良さそうにねそべっている。ごはんをあげたら、とっても幸せそうに食べる。
そんなトン太郎を見ていると、本当に幸せだなって思う。でも、その幸せはぼくたちがしっかりと世話をして、きれいに飼っているからで。そして、家畜保健衛生所の人たちが病気が広がらないように毎日、がんばって働いてくれているからこそで。ぼくはトン太郎を飼う以上、それを決して忘れてはいけない。豚コレラがニュースで流れて、みんながこわくて悲しい想いをして……だからこそ、ぼくはそう思う。
「なぁ、トン太郎。ぼくは将来、トン太郎たちを病気から守る。そんなお仕事をしたいんだ」
ぼくがそっとつぶやくと、お腹いっぱいでまたソファーにねそべっていたトン太郎はうれしそうに目を細めた。
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