ぼくらのトン太郎

いっき

文字の大きさ
5 / 6

しおりを挟む
 次の日。
「おい、大輝。お前の家の豚、まだ殺されてないのか?」
中井くんがまた、いじわるそうに笑って言った。
だけどぼくは、昨日とはちがう。だって、家畜保健衛生所のお兄さんからちゃんと教えてもらったから。豚コレラはどんな病気なのか、どうして病気になってしまった豚は殺されるのか、そして、そのお仕事は人と動物が元気に生きていくために、とっても大事だということ……。だから、ぼくはこぶしをぎゅっとにぎりしめて、中井くんをキッと見つめた。
「トン太郎は殺されたりしないよ。だって、ぼく、ちゃんとトン太郎を飼っているんだから」
「はぁ? ちゃんと?」
中井くんはぼくの言うことが分からない、というふうに顔をしかめたけれど。ぼくは、はっきりと言った。
「家の中できれいに飼っているかぎり、トン太郎は絶対に豚コレラになったりしないんだ」
ぼくは、昨日お兄さんから聞いたことを中井くんにしっかりと説明した。
豚の仲間のイノシシが豚コレラにかかること。そのイノシシが近づくと豚にもうつってしまうこと。だけれども、イノシシが近づいたりしない所できちんと飼っていたら絶対に豚コレラにはならないし、もちろん、殺されたりしないこと。
すると、自信まんまんに説明するぼくにおどろきながらも中井くんは口を開いた。
「でも、コレラなんだし、人にもうつるんだろ? もし万が一、豚コレラになったら自分も死ぬんだし、そんなあぶないの、殺してもらった方がいいんじゃ……」
「豚コレラは人にはうつらないわよ」
あかりちゃんのりんとした声が、中井くんの言葉をさえぎった。
「豚コレラは豚かイノシシにしかうつらない。私たちがうつって死んだりはしないわ」
「じゃ……じゃあ、どうして病気の豚を殺すんだよ?」
あかりちゃんの言葉にたじろいだ中井くんに、ぼくもしっかりと説明した。
「元気な豚を守るためだよ」
「守るため?」
「そう」
ぼくはうなずいた。
「家畜保健衛生所のお兄さんたちは、元気な動物を守るために、あぶない病気にかかった動物をしかたなく殺すんだ。悲しいこと……こわい病気にかかったり、動物がたくさん死んでしまったり、ぼくたちがこわくて不安になったりすることを終わらせるために」
ぼくの頭の中では、昨日、お兄さんから伝えてもらった言葉がくりかえされて……そして、豚コレラにかかってしまった豚の写真も思い出していた。それは、ぼくの目もじんわりとなみだでにじませて。悲しいことは終わらせなくてはならない……お兄さんのその言葉が、ぼくの口からしっかりと、熱をもって出た。
「なんだよ……豚なんて、どうせ食べるものなんだし、殺してもどうってことないだろうがよ」
中井くんはばつが悪そうにそんなことを言って。すると、浩介くんが中井くんをにらみながら口を開いた。
「それなら、中井。今日、大輝の家に行って、トン太郎に会ってみろよ」
「はぁ?」
「お前、トン太郎に会ったことないだろう。会ってみたら、すごくかわいいぞ。それに、お前が思っているより、ずっときれいだし」
「ったく……分かったよ。トン太郎ってのに、会ってやるよ」
中井くんはほっぺをふくらませて、きげん悪そうにそう言った。
そう言えば、中井くんはトン太郎を見たこともなかったな……だから、ミニブタってどんなのか、全く知らないのかも知れなかった。

「これが、お前のトン太郎……犬みてぇじゃん」
トン太郎を見た中井くんは口を開くなりそう言って……それを聞いたぼくたち三人は、吹き出した。
「トン太郎、犬みたいだって。ちがうって、言いなよ」
ぼくがそう言うと、ソファーにねていたトン太郎は、めいわくそうにむっくりと頭をもちあげてこっちを見た。
「あ、でも、やっぱ豚だ。何か……おれの母ちゃん、そっくり」
「あ、今度はそれ、お前の母ちゃんにひどくない?」
浩介くんがそう言うと、中井くんも吹き出して……いじわるを言っていたのがうそのように、四人でトン太郎をかこんで声を出して笑った。

「さぁ、トン太郎。大根を探しておいで」
ぼくたち四人は庭に出て、いつものようにトン太郎と宝探しゲームをした。
トン太郎は鼻をひくひく、地面に近づけて探して……大根をうめた場所を探し当てると、鼻を使ってほりかえした。
「ミニブタって、鼻で地面をほるんだな」
中井くんは、そんな動物は初めて見たようで。うでを組んで、感心していた。
「そう。トン太郎は小さい時から、鼻で地面をほるのが大好きだったんだ」
「へぇ。こいつにも、小さい時があったんだ?」
「うん!」
ぼくはそう言って、ぼくとトン太郎が小さい時のアルバムを取り出した。

「うわっ、これがトン太郎? こんなに小さかったんだ?」
「本当だ、可愛い! それで、この小さい子が大輝くん?」
「うん! トン太郎はぼくが三歳の時にうちに来たんだ。お父さんが変わった動物が好きで、一人っ子のぼくの兄弟分の代わりに誕生日に連れて来たんだって。お母さんは、ミニブタにばい菌がついてないかって心配して、反対したみたいだけどね」
ぼくがそう言って笑うと、中井くんもばつが悪そうに苦笑いした。
「おれも、それは心配だったんだけどな」
「でも。ミニブタはきちんと清潔に飼って、ぼくたちもさわった後にはちゃんと手を洗ったら、全然そんなこと心配ないんだ。それに、ホント、かわいいし。ぼくはトン太郎を弟のように思ってる」
ほりあてた大根を口をもぐもぐと動かして食べるトン太郎を見て、ぼくは目を細めた。

トン太郎を家に上げてやって、いつものようにブラシをかけてやった。今日は中井くんにもやってもらって、トン太郎は気持ち良さそうに目をつぶっていた。
「なぁ、大輝……」
中井くんはそんなトン太郎からぼくに目を移して、すまなさそうにまゆをグッと下げた。
「ごめんな」
「えっ?」
「お前にとっては、このトン太郎が弟みたいなものだったんだよな。それなのに、あんなことを言ってしまって」
「気にしなくていいよ。確かにとってもつらくて悲しかったけど……中井くんがこうしてトン太郎に会って。こんなにかわいくて、決してこわい病気になんかなっていないって分かってくれたら」
ぼくがほほえむと、中井くんは少しはずかしそうに頭をかいた。
「おれ、大輝がうらやましかったんだ」
「うらやましかった?」
「ああ。おれ、大輝と同じく一人っ子でさ。ペットも飼ってなくて。でも、大輝はおれと同じで一人っ子なのに、いっつもトン太郎のことを学校でうれしそうにしゃべってて。そのことで、まわりに友達もたくさんできて。だから、豚コレラがニュースになって、病気がこわかったのもあったけど。つい、いじわるを言ってしまったんだ」
そう言って、中井くんはうつむいた。
そうなんだ……中井くんも、一人っ子だったんだ。兄弟もいなくて、ぼくみたいにトン太郎もいなかったら、さびしかったにちがいない。クラスの大将でちょっとこわいと思っていた中井くんを、何だかちょっと近くに感じた。
だから、ぼくは中井くんににっこり笑った。
「中井くん。明日からも見に来てよ、トン太郎」
「えっ、本当に? いいの?」
中井くんの目がかがやいた。
「うん。こいつ、トン太郎もよろこぶよ」
「おぅ……大輝、ありがとうな」
まどからさす夕陽に照らされた中井くんのほっぺたは少し赤かった。
そんなぼくたちを見て、浩介くんもあかりちゃんもにっこりと、白い歯を見せてうれしそうに笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)

カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ…… 誰もいない野原のステージの上で…… アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ——— 全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。 ※高学年〜大人向き

ぼくのだいじなヒーラー

もちっぱち
絵本
台所でお母さんと喧嘩した。 遊んでほしくて駄々をこねただけなのに 怖い顔で怒っていたお母さん。 そんな時、不思議な空間に包まれてふわりと気持ちが軽くなった。 癒される謎の生き物に会えたゆうくんは楽しくなった。 お子様向けの作品です ひらがな表記です。 ぜひ読んでみてください。 イラスト:ChatGPT(OpenAI)生成

【親子おはなし絵本】ドングリさんいっぱい(2~4歳向け(漢字えほん):いろいろできたね!)

天渡 香
絵本
「ごちそうさま。ドングリさんをちょうだい」ママは、さっちゃんの小さな手に、ドングリさんをのせます。 +:-:+:-:+ ドングリさんが大好きな我が子ために作った絵本です。 +:-:+:-:+ 「ひとりでトイレに行けたね!」とほめながら、おててにドングリさんを渡すような話しかけをしています(親子のコミュニケーションを目的にしています)。 +:-:+:-:+ 「ドングリさんをちょうだい」のフレーズを繰り返しているうちに、子供の方から「ドングリさんはどうしたらもらえるの?」とたずねてくれたので、「ひとりでお着がえできたら、ドングリさんをもらえるよ~」と、我が家では親子の会話がはずみました。 +:-:+:-:+ 寝る前に、今日の「いろいろできたね!」をお話しするのにもぴったりです! +:-:+:-:+ 2歳の頃から、園で『漢字えほん(漢字が含まれている童話の本)』に親しんでいる我が子。出版数の少ない、低年齢向けの『漢字えほん』を自分で作ってみました。漢字がまじる事で、大人もスラスラ読み聞かせができます。『友達』という漢字を見つけて、子供が喜ぶなど、ひらがなだけの絵本にはない発見の楽しさがあるようです。 +:-:+:-:+ 未満児(1~3歳頃)に漢字のまじった絵本を渡すというのには最初驚きましたが、『街中の看板』『広告』の一つ一つも子供にとっては楽しい童話に見えるようです。漢字の成り立ちなどの『漢字えほん』は多数ありますが、童話に『漢字とひらがなとカタカナ』を含む事で、自然と興味を持って『文字が好き』になったみたいです。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

雪の降る山荘で

主道 学
児童書・童話
正体は秘密です。 表紙画像はフリー素材をお借りしました。 ぱくたそ様。素敵な表紙をありがとうございました。

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

処理中です...