紅~いつもの街灯の下で

いっき

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結奈&晴人編

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 遠藤 晴人(はると)はその深夜、同人誌即売のイベント帰りだった。
 自分の書いた小説を本にして、即売会で売る……それは彼の密かな趣味で、会場には創作仲間もいた。そのイベント自体は夕方に終わったのだけれど、その後も創作仲間同士で互いの小説の回し読みなんかをしていたので、帰りがすっかりと遅くなってしまったのだ。

「でも……いくら何でも遅くなり過ぎたかな」
 彼はもう日付変更間近の時間を指している腕時計を見て、苦笑い混じりに呟いた。
 だけれども、イベントで遅くなるのは毎度のことで、LINEを送っていたので、親もそのことについては了解済みで。
「ま、いっか。夏休みくらい」
 彼はそう呟いて、その日のイベントでの高揚感をまた頭の中で反芻していた。

 学校の近く……公園を照らす街灯の辺りに差し掛かった時だった。
「えっ……」
 彼は一瞬、固まった。
 街灯の灯りに照らされて、まるで放心しているかのようにぼんやりとしている……儚げなほどに美しい女性がいる。金髪に透き通るほどに白い肌をした彼女は白人と見紛うほどに綺麗で、晴人は一瞬、心を奪われた。
 しかし、よく見ると……その女性に見覚えがあった。普段とは違う化粧をしており、格段に大人っぽく見えるけれど。彼女はクラスメイトの……
「藤岡……さん?」
 恐る恐る掛けたその声にゆっくりと振り返った結奈は、晴人をじっと見つめた。その瞬間、彼は金縛りに遭ったように動けなくなった。
 少し茶色がかった結奈の瞳は透き通っていて、晴人の意識をすっと吸い込んで。
 驚いた……こいつって、こんなにも綺麗だったんだ。
 それは、彼女がいつも教室で見せていた……チャラチャラとしたグループの中で馬鹿みたいに笑い合っている姿からは、想像もつかない表情だった。

「遠藤……?」
 結奈の声で晴人はふと我に返り、結奈の格好を見た。着ているのは翡翠色の綺麗なワンピース……だけれど、所々破れており、血が滲んでいた。
「転ん……だの?」
 何か事情がありそう……そう思いながらも取り敢えず尋ねると、結奈は無言で頷いた。
「ちょっと、付いて来て」
「えっ?」
 晴人は結奈と共に、街灯に照らされた公園のベンチに腰掛けた。

 晴人は背負っていたリュックのポケットを開けて絆創膏の箱を取り出した。
「貼りなよ」
「えっ……」
「応急処置」
「うん……」
 結奈は絆創膏を取り出した。しかし、手が震えて上手く剥がせないみたいで……だから、晴人はそっと手を差し出して、彼女の代わりにそれを血の滲む傷口に貼り始めた。結奈は彼のその行為を無言で受け入れて、それは、普段見ている彼女からは想像もつかないほどに素直な反応で。
(こいつ……本当に藤岡だろうか?)
 晴人は急に不安になって、結奈の顔にそっと目を遣った。

(震えてる……)
 街灯に照らされた結奈の歯はガタガタと、肩と手も小刻みに震えていた。真夏とは言っても真夜中のこの時間はやや冷んやりとするほどで、肌寒いのかも知れない。それに、彼女の服はところどころ、破れていて素肌が見えていて。晴人はドキドキしながらも、自らのジャケットを脱いで彼女の肩に掛けた。
「えっ……」
「貸すよ。転んだとこ……破けてるし」
「うん……ありがとう」
 やっぱり、教室で見ている彼女とは様子が違う。教室ではいつも、派手な面子とケラケラと笑い合っていて……地味な晴人には到底、声を掛けることが出来なかった。自分みたいな地味な生徒を見下して、馬鹿にしている……そう、思っていた。それなのに、今日の彼女はこんなに素直に、晴人のしたことに御礼まで言ってくれている。
(……というか、今まで、声を掛けようと思ったこともなかったなぁ)
 そんなことを考えながら彼女を見るとまだ手が小刻みにガクガクと震えていて。夜の闇にぼんやりとした街灯の下ではよく分からなかったけれど、何だか、顔色も真っ青なように見えて……晴人は急に彼女のことが心配になった。
 だから、ゆっくりと自分の手を出して、彼女の手にそっと重ねた。
 結奈は少し驚いた顔でこちらを見たけれど、拒もうとはしないで……だけれども、その手は少し冷たいような気がして。
 結奈の手が温まって震えが治まるまで、晴人はずっとその手の温もりを彼女に与え続けたのだった。
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