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結奈&晴人編
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翌日。結奈は重い頭のまま、目を覚ました。
(ダルい……動きたくない)
前日の記憶がありありと蘇って、彼女は深く溜息を吐いた。
それは、まさに踏んだり蹴ったり……中学の頃から付き合っていた彼氏には酷い振られ方をするし、やけくそになって行ったクラブで出会った男には襲われかけた。それは思い出しただけで背筋が凍るほどの恐怖な体験で……ベッドの上で、結奈はぶるっと身震いをした。
だけれども、ただ一つだけいいことがあった。帰り道……ひたすらに茫然としていたら、地味なクラスメイトと会った。
学校にいた時にはあんな奴、視界に入っていても、そこにいると認識していなかった……そのくらいの存在だった。
だけれども、そいつ……遠藤 晴人は結奈の傷口に絆創膏を貼ってくれて、ジャケットを貸してくれて。手の震えが治まるまでずっと、手を重ねてくれていた。
「……ていうか、ポケットから絆創膏って。あんたはドラえもんか」
ベッドに仰向けになっていた結奈は一人でそんなことを呟いて、クスッと笑った。晩の晴人の素朴な優しさ……彼女にはそれが嬉しくて。心に負った深い傷が、まるで絆創膏を貼ってもらったかのように癒されていくような、温かな感情を覚えたのだった。
「そう言えば……」
結奈は、先程よりは若干軽くなった体をベッドから起こした。
「ジャケット、返さなくっちゃな」
それは地味なあいつにしてはお洒落で皺もなく、しっかりと手入れされていて、何となく一張羅のような印象を受けた。だから、新学期が始まってから返すのでは遅いかも知れない。それに……彼女は今、何だか途轍もなく晴人に会いたくなっていたのだ。
スマホを取り出して見ると、もうお昼前……そう言えば、窓にはカーテンをしていたけれど、遮蔽し切れていない外の強い光が部屋の中に注ぎ込まれていた。
結奈はカーテンを開けて、スマホのLINE画面を開いた。
『ねぇ。遠藤の連絡先って知らない? あんたの彼氏経由で』
紅にメッセージを送った。クラスでは晴人は克也の前の席で、よく仲良さげに話していたことを思い出したのだ。
しかし、紅から返ってきた返事にずっこけた。
『克也に聞いてみたけど……遠藤とは親友だけれど、連絡先は知らないって』
って。それ、親友って言える!?
なんてツッコミは、あの男共には無意味なような気がして。
結奈は紅に
『そっか、了解。サンキュ!』
とだけ送信して、次の手を考えることにした。
「うーん……やっぱり、家におしかけるしかないか」
暫く考えて出した結論はそれだった。結奈も一応、クラスメイトの住所付きの名簿は持っている。グーグルマップでも使えば、今すぐにでも行けるのだ。
何だか、こっちががっついているようで不本意だったけど……昨日、あんな時間まで何をしていたのかとか、聞きたいことも山ほどあって。
結奈はジャケットを折り畳んで紙袋に入れて、ギラギラと太陽の照りつける中、スマホのマップを見ながら歩き始めたのだった。
「ふーん、ここがあいつの家か」
結奈はその、白い壁をした家を眺めた。
それは、普通の一軒家……結奈の家とさほど変わらないくらいだった。学校では派手な結奈と地味な晴人だったが、家庭環境はそう変わらないのかも知れなかった。
少し緊張しながらインターホンを押すと、「はい、はーい」という陽気な声とともにガチャっとそのドアが開いた。
「あら……」
家から出て来た……彼のお母さんだろうか。晴人とは対照的に人柄の明るさが滲み出ているそのおばさんは、結奈を見て目を丸くした。
「あの……私、晴人くんのクラスメイトの藤岡っていいます。ジャケットをお借りしていたので、返そうと思って……」
「まぁ、そうなの!まぁ、入って、入って。ちょっと、晴人!晴人~!」
何だか慌ただしいそのおばさんは無理矢理に結奈を家に上げて、ドタバタと二階に上がって行った。
「何か、すごい……」
結奈は引きつった顔のまま、玄関で待っていた。
「ごめんなさいねぇ。あの子、今起きたばかりで。すぐに着替えさせますから、どうぞ上がって」
「いえ……ここで待ってます」
「まぁ、そうおっしゃらずに。晴人にこんな可愛らしい女友達がいるなんて、私も嬉しいんだから。お茶くらい、振舞わせて下さいな」
「はぁ……では、お言葉に甘えて」
その母親のパワーに圧倒されながら、結奈は家の居間に通された。
それは、所謂、普通のリビングで……結奈の家とも変わらないようなスペースだったけれど。何だか自分の家よりも生活感に溢れていて、温かいような感じがした。
「紅茶でいいかしら?」
「はい。どうも、ありがとうございます」
ソファーに座った結奈は、ほっとする。そう言えば、今まで彼氏の家に行った時は親に会うことなんて一度もなくて……よく分からないけれど、冷たいような感じしかしなかったな。そんなことを、思い出していた。
「どう?あの子……学校でも誰とも話していないでしょう?」
母親は苦笑い混じりに、紅茶を出した。
「いえ、誰とも……ということはないようですよ。ちゃんと友達もいるようですし……仲良さそうに話しています」
答えてから、これってどういう会話だ……なんて思って、結奈も思わず苦笑いした。
「あら、ホント?友達なんて、いるの?あの子、学校でのこと、何も話してくれないから」
まぁ、あいつには学校での話したいことなんてないだろうな……。結奈は母親のその言葉に納得しながら紅茶をすすった。
「たまに話すことって言ったら、そうねぇ……同人誌のイベントでのことくらいかしら」
「同人誌のイベント?」
結奈は、聞き慣れないその言葉を尋ね返した。
「ええ。晴人、小説を書いて出してるみたいだから。親には全然、読ませてくれないけど」
「うそ……小説!?あいつが?めっちゃ、読んでみたい!」
驚きのあまり結奈は素を出してしまい……思わず赤くなって口を噤んだ。そんな彼女に母親はクスッと笑った。
「昨日もそのイベントに行ってたみたいよ。そうね……あなたにだったら、あの子も読ませてくれるかも知れないわね。自分の小説……」
その時だった。
居間のドアがガチャっと開き、寝起きの彼が入って来て……結奈を見て、みるみるその顔は赤くなった。
その髪は寝グセでひどくはねていて。そんな彼を見て、結奈は思わず吹き出した。
「藤岡……さん?」
「おはよ、遠藤!というか、もう、『おそよう』の時間かしらね」
そんなことを言ってケラケラ笑う結奈は、昨晩の様子と打って変わり……完全にいつもの調子を取り戻していたのだった。
(ダルい……動きたくない)
前日の記憶がありありと蘇って、彼女は深く溜息を吐いた。
それは、まさに踏んだり蹴ったり……中学の頃から付き合っていた彼氏には酷い振られ方をするし、やけくそになって行ったクラブで出会った男には襲われかけた。それは思い出しただけで背筋が凍るほどの恐怖な体験で……ベッドの上で、結奈はぶるっと身震いをした。
だけれども、ただ一つだけいいことがあった。帰り道……ひたすらに茫然としていたら、地味なクラスメイトと会った。
学校にいた時にはあんな奴、視界に入っていても、そこにいると認識していなかった……そのくらいの存在だった。
だけれども、そいつ……遠藤 晴人は結奈の傷口に絆創膏を貼ってくれて、ジャケットを貸してくれて。手の震えが治まるまでずっと、手を重ねてくれていた。
「……ていうか、ポケットから絆創膏って。あんたはドラえもんか」
ベッドに仰向けになっていた結奈は一人でそんなことを呟いて、クスッと笑った。晩の晴人の素朴な優しさ……彼女にはそれが嬉しくて。心に負った深い傷が、まるで絆創膏を貼ってもらったかのように癒されていくような、温かな感情を覚えたのだった。
「そう言えば……」
結奈は、先程よりは若干軽くなった体をベッドから起こした。
「ジャケット、返さなくっちゃな」
それは地味なあいつにしてはお洒落で皺もなく、しっかりと手入れされていて、何となく一張羅のような印象を受けた。だから、新学期が始まってから返すのでは遅いかも知れない。それに……彼女は今、何だか途轍もなく晴人に会いたくなっていたのだ。
スマホを取り出して見ると、もうお昼前……そう言えば、窓にはカーテンをしていたけれど、遮蔽し切れていない外の強い光が部屋の中に注ぎ込まれていた。
結奈はカーテンを開けて、スマホのLINE画面を開いた。
『ねぇ。遠藤の連絡先って知らない? あんたの彼氏経由で』
紅にメッセージを送った。クラスでは晴人は克也の前の席で、よく仲良さげに話していたことを思い出したのだ。
しかし、紅から返ってきた返事にずっこけた。
『克也に聞いてみたけど……遠藤とは親友だけれど、連絡先は知らないって』
って。それ、親友って言える!?
なんてツッコミは、あの男共には無意味なような気がして。
結奈は紅に
『そっか、了解。サンキュ!』
とだけ送信して、次の手を考えることにした。
「うーん……やっぱり、家におしかけるしかないか」
暫く考えて出した結論はそれだった。結奈も一応、クラスメイトの住所付きの名簿は持っている。グーグルマップでも使えば、今すぐにでも行けるのだ。
何だか、こっちががっついているようで不本意だったけど……昨日、あんな時間まで何をしていたのかとか、聞きたいことも山ほどあって。
結奈はジャケットを折り畳んで紙袋に入れて、ギラギラと太陽の照りつける中、スマホのマップを見ながら歩き始めたのだった。
「ふーん、ここがあいつの家か」
結奈はその、白い壁をした家を眺めた。
それは、普通の一軒家……結奈の家とさほど変わらないくらいだった。学校では派手な結奈と地味な晴人だったが、家庭環境はそう変わらないのかも知れなかった。
少し緊張しながらインターホンを押すと、「はい、はーい」という陽気な声とともにガチャっとそのドアが開いた。
「あら……」
家から出て来た……彼のお母さんだろうか。晴人とは対照的に人柄の明るさが滲み出ているそのおばさんは、結奈を見て目を丸くした。
「あの……私、晴人くんのクラスメイトの藤岡っていいます。ジャケットをお借りしていたので、返そうと思って……」
「まぁ、そうなの!まぁ、入って、入って。ちょっと、晴人!晴人~!」
何だか慌ただしいそのおばさんは無理矢理に結奈を家に上げて、ドタバタと二階に上がって行った。
「何か、すごい……」
結奈は引きつった顔のまま、玄関で待っていた。
「ごめんなさいねぇ。あの子、今起きたばかりで。すぐに着替えさせますから、どうぞ上がって」
「いえ……ここで待ってます」
「まぁ、そうおっしゃらずに。晴人にこんな可愛らしい女友達がいるなんて、私も嬉しいんだから。お茶くらい、振舞わせて下さいな」
「はぁ……では、お言葉に甘えて」
その母親のパワーに圧倒されながら、結奈は家の居間に通された。
それは、所謂、普通のリビングで……結奈の家とも変わらないようなスペースだったけれど。何だか自分の家よりも生活感に溢れていて、温かいような感じがした。
「紅茶でいいかしら?」
「はい。どうも、ありがとうございます」
ソファーに座った結奈は、ほっとする。そう言えば、今まで彼氏の家に行った時は親に会うことなんて一度もなくて……よく分からないけれど、冷たいような感じしかしなかったな。そんなことを、思い出していた。
「どう?あの子……学校でも誰とも話していないでしょう?」
母親は苦笑い混じりに、紅茶を出した。
「いえ、誰とも……ということはないようですよ。ちゃんと友達もいるようですし……仲良さそうに話しています」
答えてから、これってどういう会話だ……なんて思って、結奈も思わず苦笑いした。
「あら、ホント?友達なんて、いるの?あの子、学校でのこと、何も話してくれないから」
まぁ、あいつには学校での話したいことなんてないだろうな……。結奈は母親のその言葉に納得しながら紅茶をすすった。
「たまに話すことって言ったら、そうねぇ……同人誌のイベントでのことくらいかしら」
「同人誌のイベント?」
結奈は、聞き慣れないその言葉を尋ね返した。
「ええ。晴人、小説を書いて出してるみたいだから。親には全然、読ませてくれないけど」
「うそ……小説!?あいつが?めっちゃ、読んでみたい!」
驚きのあまり結奈は素を出してしまい……思わず赤くなって口を噤んだ。そんな彼女に母親はクスッと笑った。
「昨日もそのイベントに行ってたみたいよ。そうね……あなたにだったら、あの子も読ませてくれるかも知れないわね。自分の小説……」
その時だった。
居間のドアがガチャっと開き、寝起きの彼が入って来て……結奈を見て、みるみるその顔は赤くなった。
その髪は寝グセでひどくはねていて。そんな彼を見て、結奈は思わず吹き出した。
「藤岡……さん?」
「おはよ、遠藤!というか、もう、『おそよう』の時間かしらね」
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