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紅&克也編〜2〜
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その日の紅は、ペットショップ『アーサー』でのバイト中も上機嫌だった。
(ふふ……何度思い出しても面白い。克也が白雪姫って……絶対、可愛いわよね)
ハムスター達の餌を交換しながらも、自然と顔がにやけてしまう。
学校って、こんなに楽しかったんだ……紅にとっては、それは新鮮な感覚だった。
中学生時代は、学校が楽しいなんて思ったことはなかった。とある男子からの告白を断ったことがきっかけで、クラスのリーダー格の女子に目をつけられて……クラス内ではハブられるし、自分が援交しているだとか、あることないことデマを流されるし。散々、煩わしい想いをしてきた。それは彼女にとって思い出したくもないもので、意識的に蓋をしていた……そんな記憶だった。
「江崎さん!」
「はい!」
不意にアーサーの女店長から名前を呼ばれ、振り返った。三十代くらいだろうか……店長にしては若いその女性は、無邪気な笑顔を浮かべている。
「今日から、新しくもう一人、バイトの子が入ることになったの。色々と教えて上げてね。こちら、三田くんよ」
「えっ……」
紅は耳と目を疑った。
「三田……」
口から、思い出したくもなかったその名前が溢れる。
店長が紹介したのは、三田 勝すぐる。中学時代、彼女に告白をしてきて……散々な想いをさせられるきっかけになった、その相手だったのだ。
「なんで?」
「えっ、まさか……紅!」
彼女を見た勝は顔を紅潮させて……
だがしかし、紅はしたくなかったその再会に、胸の中が苦い想いでいっぱいになった。
店長が忙しく事務所に引っ込むと……
「久しぶりだな! 学校、どこ行ってんの?」
まだ客の入りのない店内で再度餌やりに取り掛かる紅に、そいつは鬱陶しく絡んできた。しかし、ポーカーフェイスを保ってシカトする。
さっきまでの上機嫌はどこへやら。彼女の苛立ちは最高潮に達していた。
だって、こいつ……顔はイケメンで通っていたけれど、性格は最悪。
紅に振られた後、彼は「あんな遊んでそうな奴、こっちが願い下げだ」なんて負け惜しみを言った。それが噂となって女子の間で広まっていくうちに、「紅は援交している」なんて悪意のあるデマとなったのだ。気丈な紅はそんなしょうもない噂は気にしないようにしていたけれど、クラス内でハブられたのと相まって、相当に不愉快だったことには変わりなかった。
(どうしてこいつが、よりにもよって同じバイトを始めて、しれっと私に絡んでくるのよ?)
紅の胸中は嫌な想いで埋め尽くされてゆく。しかし、そんな彼女に、勝はまたもサラッと勘に触ることを口にした。
「何だよ、ツレないなぁ。まさか、まだあのこと、根に持ってるの?」
「はぁ?」
「だから。お前なんて遊んでそうだとか言ったこと」
彼は口元に嫌な笑みを浮かべている。
そう……紅はその発言の後、彼とは一切の関わりを断ち切っていたのだ。
(何、こいつ? 何を開き直ってんの?)
そんな想いとともに、紅は勝をこの上なく冷徹な瞳で睨んだ。すると彼は、平たい笑みを浮かべる。
「いや、そんな目で見んなって。あれは確かに俺が悪かった。でも俺にも立場ってもんがあるし……」
「迷惑だったわよ。すっごく」
眉をひそめて直球にズバリと言ったけれど、勝はそんなことを気にする様子はない。
「お、ようやくマトモに口、きいてくれたな。兎に角、一緒に働くことになったのも何かの縁だし。ここは仲良く……」
「できる訳ないわよ。だってあんた、生理的に無理だもん」
「うわ、ひっでぇ。俺、女子にそこまで言われたの、初めてだわ」
彼女の放つ辛辣な言葉にも勝は動じる様子はなく、寧ろ嬉しそうにヘラヘラと笑っていて。
(何、こいつ? もしかして、ドM?)
そんなことを考えて、紅は顔をしかめた。
どうして、こんな奴があんなに人気があったんだろう?
確かに顔はいい。ほんのりと茶髪に染めた吊り目の彼は、そこらのアイドルとなら張れるくらいにイケメンだ。中身はクズのくせに……きっと、このルックスだけを見て、クラスのリーダー格の女子はこいつに熱を上げていたのだろう。紅にとっては、実に迷惑な話だった。
「ルックスで言ったらホント、お似合いだと思うけどな、俺とお前。どうだ? 中学時代のあれ、撤回して付き合うってのは……」
「はぁ? あり得ない。誰が、あんたなんかと。それに私、彼氏いるし」
「えっ……」
紅の言葉に、勝は一瞬固まる。
それと同時にアーサーの自動ドアが開いて、いつもの『彼』が入ってきて……紅はとびきりの笑顔になった。
「克也ぁ! やっと来たわね。もう……待ってたのよ。今日は遅かったし、心配したわ」
「え……あ、うん」
その歓迎の仕方は明らかに不自然で、克也は戸惑った。
「でも、今日はいつもより早く帰れたくらい……てっ!」
紅はすっと彼の隣に行き、その手の甲をしたたかつねった。
(もう……ちょっとは空気を読んで、話を合わせなさいよ)
そんな想いとともに、横目で克也を睨む。
「紅。もしかして、そいつが……」
「ええ!」
目を丸くする勝に小悪魔な笑みを見せて、ひけらかすかのように彼氏の手をギュッと握った。
「私の彼氏……克也よ」
「えっ……」
紅に改めて彼氏として紹介されて、克也は途端に赤くなる。
そして……
「ウソだろ……」
確かに爽やかではあるけれど……それでもルックスでは、自分に遠く及ばない。そんな彼を、勝は茫然と見つめたのだった。
(ふふ……何度思い出しても面白い。克也が白雪姫って……絶対、可愛いわよね)
ハムスター達の餌を交換しながらも、自然と顔がにやけてしまう。
学校って、こんなに楽しかったんだ……紅にとっては、それは新鮮な感覚だった。
中学生時代は、学校が楽しいなんて思ったことはなかった。とある男子からの告白を断ったことがきっかけで、クラスのリーダー格の女子に目をつけられて……クラス内ではハブられるし、自分が援交しているだとか、あることないことデマを流されるし。散々、煩わしい想いをしてきた。それは彼女にとって思い出したくもないもので、意識的に蓋をしていた……そんな記憶だった。
「江崎さん!」
「はい!」
不意にアーサーの女店長から名前を呼ばれ、振り返った。三十代くらいだろうか……店長にしては若いその女性は、無邪気な笑顔を浮かべている。
「今日から、新しくもう一人、バイトの子が入ることになったの。色々と教えて上げてね。こちら、三田くんよ」
「えっ……」
紅は耳と目を疑った。
「三田……」
口から、思い出したくもなかったその名前が溢れる。
店長が紹介したのは、三田 勝すぐる。中学時代、彼女に告白をしてきて……散々な想いをさせられるきっかけになった、その相手だったのだ。
「なんで?」
「えっ、まさか……紅!」
彼女を見た勝は顔を紅潮させて……
だがしかし、紅はしたくなかったその再会に、胸の中が苦い想いでいっぱいになった。
店長が忙しく事務所に引っ込むと……
「久しぶりだな! 学校、どこ行ってんの?」
まだ客の入りのない店内で再度餌やりに取り掛かる紅に、そいつは鬱陶しく絡んできた。しかし、ポーカーフェイスを保ってシカトする。
さっきまでの上機嫌はどこへやら。彼女の苛立ちは最高潮に達していた。
だって、こいつ……顔はイケメンで通っていたけれど、性格は最悪。
紅に振られた後、彼は「あんな遊んでそうな奴、こっちが願い下げだ」なんて負け惜しみを言った。それが噂となって女子の間で広まっていくうちに、「紅は援交している」なんて悪意のあるデマとなったのだ。気丈な紅はそんなしょうもない噂は気にしないようにしていたけれど、クラス内でハブられたのと相まって、相当に不愉快だったことには変わりなかった。
(どうしてこいつが、よりにもよって同じバイトを始めて、しれっと私に絡んでくるのよ?)
紅の胸中は嫌な想いで埋め尽くされてゆく。しかし、そんな彼女に、勝はまたもサラッと勘に触ることを口にした。
「何だよ、ツレないなぁ。まさか、まだあのこと、根に持ってるの?」
「はぁ?」
「だから。お前なんて遊んでそうだとか言ったこと」
彼は口元に嫌な笑みを浮かべている。
そう……紅はその発言の後、彼とは一切の関わりを断ち切っていたのだ。
(何、こいつ? 何を開き直ってんの?)
そんな想いとともに、紅は勝をこの上なく冷徹な瞳で睨んだ。すると彼は、平たい笑みを浮かべる。
「いや、そんな目で見んなって。あれは確かに俺が悪かった。でも俺にも立場ってもんがあるし……」
「迷惑だったわよ。すっごく」
眉をひそめて直球にズバリと言ったけれど、勝はそんなことを気にする様子はない。
「お、ようやくマトモに口、きいてくれたな。兎に角、一緒に働くことになったのも何かの縁だし。ここは仲良く……」
「できる訳ないわよ。だってあんた、生理的に無理だもん」
「うわ、ひっでぇ。俺、女子にそこまで言われたの、初めてだわ」
彼女の放つ辛辣な言葉にも勝は動じる様子はなく、寧ろ嬉しそうにヘラヘラと笑っていて。
(何、こいつ? もしかして、ドM?)
そんなことを考えて、紅は顔をしかめた。
どうして、こんな奴があんなに人気があったんだろう?
確かに顔はいい。ほんのりと茶髪に染めた吊り目の彼は、そこらのアイドルとなら張れるくらいにイケメンだ。中身はクズのくせに……きっと、このルックスだけを見て、クラスのリーダー格の女子はこいつに熱を上げていたのだろう。紅にとっては、実に迷惑な話だった。
「ルックスで言ったらホント、お似合いだと思うけどな、俺とお前。どうだ? 中学時代のあれ、撤回して付き合うってのは……」
「はぁ? あり得ない。誰が、あんたなんかと。それに私、彼氏いるし」
「えっ……」
紅の言葉に、勝は一瞬固まる。
それと同時にアーサーの自動ドアが開いて、いつもの『彼』が入ってきて……紅はとびきりの笑顔になった。
「克也ぁ! やっと来たわね。もう……待ってたのよ。今日は遅かったし、心配したわ」
「え……あ、うん」
その歓迎の仕方は明らかに不自然で、克也は戸惑った。
「でも、今日はいつもより早く帰れたくらい……てっ!」
紅はすっと彼の隣に行き、その手の甲をしたたかつねった。
(もう……ちょっとは空気を読んで、話を合わせなさいよ)
そんな想いとともに、横目で克也を睨む。
「紅。もしかして、そいつが……」
「ええ!」
目を丸くする勝に小悪魔な笑みを見せて、ひけらかすかのように彼氏の手をギュッと握った。
「私の彼氏……克也よ」
「えっ……」
紅に改めて彼氏として紹介されて、克也は途端に赤くなる。
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