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沙也加&充編
◇
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教室のいつもの席。数学の授業が終わってほっと一息吐く沙也加に、いつものダミ声が掛けられた。
「おい、沙也加。教えてくれ……二次関数って何だ? 七色なのか?」
大真面目のボケに、彼女は思わず吹き出した。
「それ、虹じゃない! 二次関数は、それとは全く関係なくて……」
充と沙也加……明らかに意外なその組み合わせに周囲はまだ慣れないようで、未だに奇異な視線が集まる。だが、当の沙也加は全く気にせずに教科書を広げて、丁寧に説明を始めた。
「あの二人って、付き合ってるんじゃ……ないのよね?」
ひそひそ声で尋ねる紅に、克也はこくりと頷いた。
「うん。倉科さんは、『大切なお友達』だって言ってたよ」
「うーん……河田の奴、こないだは急に猫グッズを買いに来たし。あいつも、印象だいぶ変わったわね」
「そうだね。昨日は僕にも勉強、聞いてきたなぁ……化学の分かんないところあるとかで」
「あれま……それはまた、すごい心境の変化ね」
そう言って顔を見合わせる二人の傍らを、禍々しいほどのオーラを放つ彼女が通り過ぎる。「何事か?」と思った紅と克也が顔を上げると……物凄い剣幕のクラス委員が、充に怒鳴り声を上げた。
「こぉら、河田! また沙也加にちょっかい出して。馬鹿が感染っちゃうじゃない!」
「げっ、美優紀。いや、これはちょっかいじゃなくて……」
「じゃあ、何なのよ」
腰に手を当てて睨みつける彼女に充はタジタジで。そんな二人を見て沙也加はにっこりと笑った。
「美優紀、違うって。ミッツーに勉強を教えてあげてるのよ。お友達だから」
「はぁ、お友達? あんた、またこいつに変なこと吹き込まれて……」
まさに犬猿の仲。充に刺々しい言葉の数々を向ける美優紀に、沙也加は思わず吹き出して……ふと名案を思いつき、ぱぁっと目を輝かせた。
「そうだ、美優紀。また、キジトラに会いに行こうよ。トラもきっと、美優紀に会いたがってるよ!」
沙也加のその言葉に、「えっ、マジで? 会いに行きたい!」という弾んだ声と、「げっ、こいつが来んのかよ」という憂鬱そうな声が重なった。そしてさらに、思わぬところで反応が沸き上がる。
「え、キジトラ? キジトラって言った?」
「マジで! 私達も会いに行きたい!」
動物全般が大好きな紅と克也も、途端に目を輝かせて食いついたのだ。
すると、充は「げっ、マジかよ……」と煩わしそうに眉をひそめるが……それとは対照的に、沙也加はキラキラと目を輝かせた。
「えっ、本当に! 江崎さんと佐原くんも? 是非ぜひ、一緒に行こ! トラ、喜ぶわ~!」
それは微塵の悪意も感じさせない、純粋な声。彼女のその反応に、充はハァッと深く溜息を吐いた。
「ああもう、分かったよ。沙也加、お前が楽しいならそれで……みんなで会いに行こうぜ」
「やった! ありがとう、ミッツー!」
無邪気な天使の前では、不良ぶったキャラも形無しだ。頭をポリポリと掻く充に、沙也加はにっこりと白い歯を見せた。
(嬉しい……ミッツーとお友達でいることができて、素敵なクラスメイト達に囲まれて)
沙也加は思う。
高校に入学して、この半年あまりで本当に色々あった。初恋をして、叶わぬ想いに涙した。生まれて初めて告白されて、でも自分はその想いに応えることができなくて……それなのに、彼は自分の大切な友人になってくれている。そして、かけがえのないクラスメイト達に囲まれたその日々は、これまでにないくらいにキラキラと輝いているのだ。
「私、このクラスで本当に良かった」
沙也加は幸せいっぱいの笑顔を浮かべて。誰にも聞こえぬ声で、そう呟いたのだった。
「おい、沙也加。教えてくれ……二次関数って何だ? 七色なのか?」
大真面目のボケに、彼女は思わず吹き出した。
「それ、虹じゃない! 二次関数は、それとは全く関係なくて……」
充と沙也加……明らかに意外なその組み合わせに周囲はまだ慣れないようで、未だに奇異な視線が集まる。だが、当の沙也加は全く気にせずに教科書を広げて、丁寧に説明を始めた。
「あの二人って、付き合ってるんじゃ……ないのよね?」
ひそひそ声で尋ねる紅に、克也はこくりと頷いた。
「うん。倉科さんは、『大切なお友達』だって言ってたよ」
「うーん……河田の奴、こないだは急に猫グッズを買いに来たし。あいつも、印象だいぶ変わったわね」
「そうだね。昨日は僕にも勉強、聞いてきたなぁ……化学の分かんないところあるとかで」
「あれま……それはまた、すごい心境の変化ね」
そう言って顔を見合わせる二人の傍らを、禍々しいほどのオーラを放つ彼女が通り過ぎる。「何事か?」と思った紅と克也が顔を上げると……物凄い剣幕のクラス委員が、充に怒鳴り声を上げた。
「こぉら、河田! また沙也加にちょっかい出して。馬鹿が感染っちゃうじゃない!」
「げっ、美優紀。いや、これはちょっかいじゃなくて……」
「じゃあ、何なのよ」
腰に手を当てて睨みつける彼女に充はタジタジで。そんな二人を見て沙也加はにっこりと笑った。
「美優紀、違うって。ミッツーに勉強を教えてあげてるのよ。お友達だから」
「はぁ、お友達? あんた、またこいつに変なこと吹き込まれて……」
まさに犬猿の仲。充に刺々しい言葉の数々を向ける美優紀に、沙也加は思わず吹き出して……ふと名案を思いつき、ぱぁっと目を輝かせた。
「そうだ、美優紀。また、キジトラに会いに行こうよ。トラもきっと、美優紀に会いたがってるよ!」
沙也加のその言葉に、「えっ、マジで? 会いに行きたい!」という弾んだ声と、「げっ、こいつが来んのかよ」という憂鬱そうな声が重なった。そしてさらに、思わぬところで反応が沸き上がる。
「え、キジトラ? キジトラって言った?」
「マジで! 私達も会いに行きたい!」
動物全般が大好きな紅と克也も、途端に目を輝かせて食いついたのだ。
すると、充は「げっ、マジかよ……」と煩わしそうに眉をひそめるが……それとは対照的に、沙也加はキラキラと目を輝かせた。
「えっ、本当に! 江崎さんと佐原くんも? 是非ぜひ、一緒に行こ! トラ、喜ぶわ~!」
それは微塵の悪意も感じさせない、純粋な声。彼女のその反応に、充はハァッと深く溜息を吐いた。
「ああもう、分かったよ。沙也加、お前が楽しいならそれで……みんなで会いに行こうぜ」
「やった! ありがとう、ミッツー!」
無邪気な天使の前では、不良ぶったキャラも形無しだ。頭をポリポリと掻く充に、沙也加はにっこりと白い歯を見せた。
(嬉しい……ミッツーとお友達でいることができて、素敵なクラスメイト達に囲まれて)
沙也加は思う。
高校に入学して、この半年あまりで本当に色々あった。初恋をして、叶わぬ想いに涙した。生まれて初めて告白されて、でも自分はその想いに応えることができなくて……それなのに、彼は自分の大切な友人になってくれている。そして、かけがえのないクラスメイト達に囲まれたその日々は、これまでにないくらいにキラキラと輝いているのだ。
「私、このクラスで本当に良かった」
沙也加は幸せいっぱいの笑顔を浮かべて。誰にも聞こえぬ声で、そう呟いたのだった。
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