1 / 1
悪くない誤解
しおりを挟む
正月早々に、小学校の同級生で新年会を行う。
同級生は仲が良く、毎年一回はこのように同窓会を行うという。
僕はつい最近まで知らなかったのだが、昨年の暮れに始めたSNSで同級生とまた繋がりができ、参加することになったのだ。
「ほら、あっくん。鼻毛切る! そんで、新しく買ったこの服着て行く!」
新婚の妻は何故か張り切っており、僕は言われるままに身支度をする。
「うん、格好いい! あっくん、ちゃんとした身成をすればいい男なんだから、同窓会、きっとモテるよ」
身支度を終えた僕を見て、妻が微笑む。
「いいのか?」
「何が?」
「正月早々に、美代を一人残して同窓会なんか行って。やっぱり、欠席してどっか、いい所食べに行くか?」
すると、妻がほっぺたを膨らます。
「もう! 何言ってんの! あっくんはいつも頑張ってるし、こんなこと、滅多にないんだから。最後まで、楽しんでくるのよ!」
追い出されるように送り出された。
同窓会は居酒屋で行われた。
あの頃一緒にバカやってた男子も、三十になると流石に落ち着き、会社の上司のグチなんかをこぼしている。
そっか……あれから、もう十八年も経ったんだ。
感傷に浸っていると……
「おぅ、里美!」
名前を聞いた途端、ドキっとした。
里美……小学生の時好きだったあの娘が遅れて来たのだ。
「ごめーん、遅れて」
里美はベロを出し、女子の端っこの席……僕の向かいに座った。
「あ、あっくん! 同窓会に来るの、初めてなんじゃない? 何か、垢抜けた?」
「さとちゃんも、綺麗になったね」
「やだもう、お世辞上手ね!」
お世辞じゃない。
里美は、もう二人も子供がいるとは思えないほど綺麗で、つい見惚れてしまった。
向かいの席の僕達は、昔の話に花を咲かす。
運動会で僕がこけたこと、学芸会では男まさりの里美が王子様役をやったこと……
そして、話題は最近のことになった。
「フェイスブックでハワイの結婚式の写真、見たよ! 可愛い奥さんね!」
「うん、まぁ……」
「否定しない所がまた、あつあつね!」
里美は昔と変わらず、元気いっぱいだ。
しかし、少し寂しそうな顔をした。
「本当は、私があっくんと結婚式挙げたかったんだけどね」
「えっ?」
「だって、私、小学生の時、あっくんが好きだったんだから」
僕は耳を疑った。
だって、里美が好きだったのはクラス一のスポーツ男子、吉岡だったはず……。
「でも、あっくん、沙奈ちゃんのことが好きだったんでしょ? だから私、吉岡のことが好き、ってことにして身を引いたの」
「そんな……だって、僕も本当はさとちゃんのことが好きだったのに……」
「えっ?」
でも、里美は吉岡のことが好き、って噂を聞いたから、クラス一の美少女、沙奈ちゃんのことが好きだということにして、身を引いていたのに……。
「じゃあ、私達、本当はあの時……」
「両想いだったってこと?」
何だか、僕達二人だけ、十八年前の『あの時』に戻った気がした。
その時……
『ブー、ブー』
里美の携帯にマナーモードの着信が入った。
僕の携帯もブルッと振動し、妻からのLINEが入る。
『同窓会、最後まで楽しんできてね』
そのメッセージを見た僕は、思わずクスッと笑ってしまった。
「みんな、ごめーん。旦那から電話がきて、息子が泣き止まないらしい」
里美が帰る準備に取り掛かる。
「僕も、ごめん。さっき、嫁さんから『最後まで楽しんできてね』ってメッセージがきた」
僕も帰る準備をする。
「えっ? 奥さん、最後まで楽しんで、って言ってるんでしょ」
里美は不思議な顔をする。
「違う、違う。こういうメッセージを送ってくる時は、『寂しい、早く帰ってきて』って言ってるんだよ」
僕が苦笑いすると、里美は微笑む。
「やっぱり……あっくんと結婚した奥さんは幸せね」
僕が帰ると、妻が玄関口で出迎えてくれた。
「あっくん……何か、早くなかった? ちゃんと、最後まで、楽しんだ?」
「うん、楽しんだ、楽しんだ。でも、美代が恋しくて堪らなくなって、早く帰ってきた」
「何それ」
と言おうとする妻の唇に、僕は唇を重ねた。
僕は暫し、目を閉じる。
驚いた顔をした妻も、暫し目を閉じる……。
『あの時』、
誤解をしていなかったら、僕は里美と、今とは全く違う幸せを手にしていたかも知れない。
でも……あの誤解がなかったら、今のこの幸せはなかったんだ。
妻の唇の温もりが、今の幸せをひしひしと伝えてくれた。
「さぁて、休みはもう明日一日だけだ。明日は、どこ行きたい?」
キスを終えた僕は、照れ隠しに話題を変えた。
「どこも行かなくていいから……あっくんと一緒にいたいな」
妻は、頬を赤らめている。
「何だ、ホントは同窓会に行って欲しくなかったんじゃんか」
「だって……そんなこと言ったら、私、我儘なお嫁さんになってしまうんだもん」
真っ赤になっていじける可愛い妻を見て、『あの時』の誤解は悪くなかったな、と改めて思ったのだった。
同級生は仲が良く、毎年一回はこのように同窓会を行うという。
僕はつい最近まで知らなかったのだが、昨年の暮れに始めたSNSで同級生とまた繋がりができ、参加することになったのだ。
「ほら、あっくん。鼻毛切る! そんで、新しく買ったこの服着て行く!」
新婚の妻は何故か張り切っており、僕は言われるままに身支度をする。
「うん、格好いい! あっくん、ちゃんとした身成をすればいい男なんだから、同窓会、きっとモテるよ」
身支度を終えた僕を見て、妻が微笑む。
「いいのか?」
「何が?」
「正月早々に、美代を一人残して同窓会なんか行って。やっぱり、欠席してどっか、いい所食べに行くか?」
すると、妻がほっぺたを膨らます。
「もう! 何言ってんの! あっくんはいつも頑張ってるし、こんなこと、滅多にないんだから。最後まで、楽しんでくるのよ!」
追い出されるように送り出された。
同窓会は居酒屋で行われた。
あの頃一緒にバカやってた男子も、三十になると流石に落ち着き、会社の上司のグチなんかをこぼしている。
そっか……あれから、もう十八年も経ったんだ。
感傷に浸っていると……
「おぅ、里美!」
名前を聞いた途端、ドキっとした。
里美……小学生の時好きだったあの娘が遅れて来たのだ。
「ごめーん、遅れて」
里美はベロを出し、女子の端っこの席……僕の向かいに座った。
「あ、あっくん! 同窓会に来るの、初めてなんじゃない? 何か、垢抜けた?」
「さとちゃんも、綺麗になったね」
「やだもう、お世辞上手ね!」
お世辞じゃない。
里美は、もう二人も子供がいるとは思えないほど綺麗で、つい見惚れてしまった。
向かいの席の僕達は、昔の話に花を咲かす。
運動会で僕がこけたこと、学芸会では男まさりの里美が王子様役をやったこと……
そして、話題は最近のことになった。
「フェイスブックでハワイの結婚式の写真、見たよ! 可愛い奥さんね!」
「うん、まぁ……」
「否定しない所がまた、あつあつね!」
里美は昔と変わらず、元気いっぱいだ。
しかし、少し寂しそうな顔をした。
「本当は、私があっくんと結婚式挙げたかったんだけどね」
「えっ?」
「だって、私、小学生の時、あっくんが好きだったんだから」
僕は耳を疑った。
だって、里美が好きだったのはクラス一のスポーツ男子、吉岡だったはず……。
「でも、あっくん、沙奈ちゃんのことが好きだったんでしょ? だから私、吉岡のことが好き、ってことにして身を引いたの」
「そんな……だって、僕も本当はさとちゃんのことが好きだったのに……」
「えっ?」
でも、里美は吉岡のことが好き、って噂を聞いたから、クラス一の美少女、沙奈ちゃんのことが好きだということにして、身を引いていたのに……。
「じゃあ、私達、本当はあの時……」
「両想いだったってこと?」
何だか、僕達二人だけ、十八年前の『あの時』に戻った気がした。
その時……
『ブー、ブー』
里美の携帯にマナーモードの着信が入った。
僕の携帯もブルッと振動し、妻からのLINEが入る。
『同窓会、最後まで楽しんできてね』
そのメッセージを見た僕は、思わずクスッと笑ってしまった。
「みんな、ごめーん。旦那から電話がきて、息子が泣き止まないらしい」
里美が帰る準備に取り掛かる。
「僕も、ごめん。さっき、嫁さんから『最後まで楽しんできてね』ってメッセージがきた」
僕も帰る準備をする。
「えっ? 奥さん、最後まで楽しんで、って言ってるんでしょ」
里美は不思議な顔をする。
「違う、違う。こういうメッセージを送ってくる時は、『寂しい、早く帰ってきて』って言ってるんだよ」
僕が苦笑いすると、里美は微笑む。
「やっぱり……あっくんと結婚した奥さんは幸せね」
僕が帰ると、妻が玄関口で出迎えてくれた。
「あっくん……何か、早くなかった? ちゃんと、最後まで、楽しんだ?」
「うん、楽しんだ、楽しんだ。でも、美代が恋しくて堪らなくなって、早く帰ってきた」
「何それ」
と言おうとする妻の唇に、僕は唇を重ねた。
僕は暫し、目を閉じる。
驚いた顔をした妻も、暫し目を閉じる……。
『あの時』、
誤解をしていなかったら、僕は里美と、今とは全く違う幸せを手にしていたかも知れない。
でも……あの誤解がなかったら、今のこの幸せはなかったんだ。
妻の唇の温もりが、今の幸せをひしひしと伝えてくれた。
「さぁて、休みはもう明日一日だけだ。明日は、どこ行きたい?」
キスを終えた僕は、照れ隠しに話題を変えた。
「どこも行かなくていいから……あっくんと一緒にいたいな」
妻は、頬を赤らめている。
「何だ、ホントは同窓会に行って欲しくなかったんじゃんか」
「だって……そんなこと言ったら、私、我儘なお嫁さんになってしまうんだもん」
真っ赤になっていじける可愛い妻を見て、『あの時』の誤解は悪くなかったな、と改めて思ったのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
【完結】少年の懺悔、少女の願い
干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。
そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい――
なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。
後悔しても、もう遅いのだ。
※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。
※長編のスピンオフですが、単体で読めます。
【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる