悪くない誤解

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悪くない誤解

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正月早々に、小学校の同級生で新年会を行う。
同級生は仲が良く、毎年一回はこのように同窓会を行うという。

僕はつい最近まで知らなかったのだが、昨年の暮れに始めたSNSで同級生とまた繋がりができ、参加することになったのだ。

「ほら、あっくん。鼻毛切る! そんで、新しく買ったこの服着て行く!」

新婚の妻は何故か張り切っており、僕は言われるままに身支度をする。

「うん、格好いい! あっくん、ちゃんとした身成をすればいい男なんだから、同窓会、きっとモテるよ」

身支度を終えた僕を見て、妻が微笑む。

「いいのか?」

「何が?」

「正月早々に、美代を一人残して同窓会なんか行って。やっぱり、欠席してどっか、いい所食べに行くか?」

すると、妻がほっぺたを膨らます。

「もう! 何言ってんの! あっくんはいつも頑張ってるし、こんなこと、滅多にないんだから。最後まで、楽しんでくるのよ!」

追い出されるように送り出された。



同窓会は居酒屋で行われた。
あの頃一緒にバカやってた男子も、三十になると流石に落ち着き、会社の上司のグチなんかをこぼしている。

そっか……あれから、もう十八年も経ったんだ。
感傷に浸っていると……

「おぅ、里美!」

名前を聞いた途端、ドキっとした。
里美……小学生の時好きだったあの娘が遅れて来たのだ。

「ごめーん、遅れて」

里美はベロを出し、女子の端っこの席……僕の向かいに座った。

「あ、あっくん! 同窓会に来るの、初めてなんじゃない? 何か、垢抜けた?」

「さとちゃんも、綺麗になったね」

「やだもう、お世辞上手ね!」

お世辞じゃない。
里美は、もう二人も子供がいるとは思えないほど綺麗で、つい見惚れてしまった。

向かいの席の僕達は、昔の話に花を咲かす。
運動会で僕がこけたこと、学芸会では男まさりの里美が王子様役をやったこと……
そして、話題は最近のことになった。

「フェイスブックでハワイの結婚式の写真、見たよ! 可愛い奥さんね!」

「うん、まぁ……」

「否定しない所がまた、あつあつね!」

里美は昔と変わらず、元気いっぱいだ。
しかし、少し寂しそうな顔をした。

「本当は、私があっくんと結婚式挙げたかったんだけどね」

「えっ?」

「だって、私、小学生の時、あっくんが好きだったんだから」

僕は耳を疑った。
だって、里美が好きだったのはクラス一のスポーツ男子、吉岡だったはず……。

「でも、あっくん、沙奈ちゃんのことが好きだったんでしょ? だから私、吉岡のことが好き、ってことにして身を引いたの」

「そんな……だって、僕も本当はさとちゃんのことが好きだったのに……」

「えっ?」

でも、里美は吉岡のことが好き、って噂を聞いたから、クラス一の美少女、沙奈ちゃんのことが好きだということにして、身を引いていたのに……。

「じゃあ、私達、本当はあの時……」

「両想いだったってこと?」

何だか、僕達二人だけ、十八年前の『あの時』に戻った気がした。

その時……

『ブー、ブー』

里美の携帯にマナーモードの着信が入った。
僕の携帯もブルッと振動し、妻からのLINEが入る。

『同窓会、最後まで楽しんできてね』

そのメッセージを見た僕は、思わずクスッと笑ってしまった。



「みんな、ごめーん。旦那から電話がきて、息子が泣き止まないらしい」

里美が帰る準備に取り掛かる。

「僕も、ごめん。さっき、嫁さんから『最後まで楽しんできてね』ってメッセージがきた」

僕も帰る準備をする。

「えっ? 奥さん、最後まで楽しんで、って言ってるんでしょ」

里美は不思議な顔をする。

「違う、違う。こういうメッセージを送ってくる時は、『寂しい、早く帰ってきて』って言ってるんだよ」

僕が苦笑いすると、里美は微笑む。

「やっぱり……あっくんと結婚した奥さんは幸せね」



僕が帰ると、妻が玄関口で出迎えてくれた。

「あっくん……何か、早くなかった? ちゃんと、最後まで、楽しんだ?」

「うん、楽しんだ、楽しんだ。でも、美代が恋しくて堪らなくなって、早く帰ってきた」

「何それ」
と言おうとする妻の唇に、僕は唇を重ねた。
僕は暫し、目を閉じる。
驚いた顔をした妻も、暫し目を閉じる……。

『あの時』、
誤解をしていなかったら、僕は里美と、今とは全く違う幸せを手にしていたかも知れない。
でも……あの誤解がなかったら、今のこの幸せはなかったんだ。
妻の唇の温もりが、今の幸せをひしひしと伝えてくれた。



「さぁて、休みはもう明日一日だけだ。明日は、どこ行きたい?」

キスを終えた僕は、照れ隠しに話題を変えた。

「どこも行かなくていいから……あっくんと一緒にいたいな」

妻は、頬を赤らめている。

「何だ、ホントは同窓会に行って欲しくなかったんじゃんか」

「だって……そんなこと言ったら、私、我儘なお嫁さんになってしまうんだもん」

真っ赤になっていじける可愛い妻を見て、『あの時』の誤解は悪くなかったな、と改めて思ったのだった。
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