狂愛

いっき

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「ねぇ。今日、俺の家に来ない?」
その日の放課後。悟(さとる)に声をかけられてドキッとした。
私は高校に入学してから、学年一の成績を誇るイケメンの彼にずっと片想いしていて……その恋を成就させるためには、どんなことでもやった。そう、どんなことでも……。
そして、そんな私の想いが報われ、先日、彼の方から「付き合おう」って告白してきたのだ。

「ええ、嬉しい! でも、私、悟のお母さんに会うの、初めてね」
「親は共働きでいないし、そんなこと気にしなくても、ぜーんぜん大丈夫。決まりな!」
彼のその言葉に私はさらにドキドキして、顔が火照ってしまった。だって、親がいなくても大丈夫。それって……甘美な時間を期待しても良さそうじゃない?
私は弾む想いで通学鞄を持って、彼と一緒に高校を出た。



秋もこの時期になると日は短くなり、彼の家への道の向こうの空は真っ赤な夕焼けで塗りたくられていた。その空の赤さが目を焼いてきて、私はどういうわけか、ゾクッと軽く鳥肌が立った。

「でも、俺達、こんなに幸せなんだけど、本当にいいんかな?」
「えっ?」
「だって、『あれ』からまだ、半年も経っていないんだよな。ほら、あいつ……真奈美(まなみ)のこと」
彼の口からその話題が出るたびに、私の全身が凍りつく。それは、私の中にうごめく罪の意識によるものだろう。

しかし、私のそんな内心には一ミリも気付かずに、悟は続けた。
「里菜(りな)、あいつと仲良かったしショックだっただろう。俺もメチャクチャショックで……でも、同じくらいショックなはずのお前が、俺を励まして元気づけてくれて。俺、あの時、お前のこと、すごく強いって思ったよ」
「そんな……強いだなんて。私もツラくて、ツラくて何度も泣いたのよ。でも、そんなに泣いてばかりいても、天国に行ったあの娘も報われないし……だから、私達、前を向くしかないのよ」

私は目にジワっと涙を潤ませて。もう何度目になるだろう……精一杯の演技をした。
「そうか……そうだよな。また思い出させてしまって……ごめんな」
彼はそんな私の頭を手でそっと撫でて、泣きそうな顔で優しく語りかけてくれた。

私はいつまで、この演技を続けなければならないのだろう……? それはきっと、誰もがあの娘のことを忘れて、その記憶を風化させてしまうまで。
でも、私は何度だって演じてやる。だって、あの娘を犠牲にしてまで掴んだこの幸せを、私は無くしたくないんだから。
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