冷たい海

いっき

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強がり

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「待たせたね」
 僕の両親が病室に入ってきた。その顔は不自然なほど明るくて……だが、母親の目が赤くなっていたのを僕は見逃さなかった。
「美夏ちゃん、大丈夫よ。すぐに家に帰れるって」
「本当? やったぁ」
 家に帰れるかどうか以上に気になることは山ほどあっただろうに、その時の彼女は母親の言葉の上面に対して喜んでいた。きっとそこには、幼いながらも勘の良い彼女の、僕の両親に対する気遣いが含まれていたのだろう。
「さ、涼平。帰ろう」
「お父さん、お母さん、涼平兄ちゃん。また明日も来てね!」
「うん、もちろん」
 一人きりで精一杯に強がりの笑顔を浮かべる美夏に後ろ髪を引かれる想いをしながらも、僕は両親とその病室を後にした。

「それで……本当はどうなの?」
 病院を出て……両親と三人で歩く並木道で僕は尋ねた。
「え……」
 母親は目を見開き、思わず立ち止まった。
「嘘なんでしょ? 大丈夫だなんて」
 僕には分かっていた。
 その日の朝……美夏は立てなかった。
 僕も朝からずっと自分に言い聞かせてきた。大丈夫だって。今日は彼女の低血圧が特に酷いだけだって。
 でも……引っ張って彼女を立たせた時に僕の右手に伝わってきた足の筋力の感触。手を放した瞬間のあの脱力の仕方。それは、彼女の状態が尋常でないことを物語っていた。
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