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最愛の者
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その日の僕は学校が終わるや否や、両親が美夏を連れて行った病院へ駆け出した。
きっと、大丈夫。だって、昨日まであんなに元気だったし、好物の唐揚げなんて僕の分まで食べていたし。呑気にそんなことを考える、幸せな自分がいた。
でも、だからこそ。昨日までがあんなに幸せだったからこそ、これからの僕達に突然に災いが降り注ぐのではないか……得体の知れない何かが美夏を奪って、僕の元から連れ去ってしまうのではないか。そんな漠然とした恐怖も僕の胸の中に同時に潜んでいた。
そして、相反するその感情の共存はただひたすらに僕に訴えかけた。僕にとって美夏はただの従妹以上にかけがえのない……最愛の者になっていたんだって。
病室に入った僕は、拍子抜けした。
彼女は寝巻き姿でベッドにいたものの、上半身を起こして林檎をシャリシャリと食べていたのだ。
「あ、涼平兄ちゃん。食べる?」
無邪気に林檎を勧めてきた彼女に、僕は全身が脱力するのを感じた。
「いや、食べる?って、お前……お父さんとお母さんは?」
「お医者さんと話してるよ。何か、難しい話みたい」
彼女は今日は一日、検査ばかりしていたようだ。「学校をサボれてラッキー」と言って八重歯を見せた彼女はしかし、表情が何処か引き攣っているように見えた。
無理もないことだ。一日中検査をした結果を僕の両親が神妙な面持ちで聞いている……そんな状況、不安でないはずがない。その時の彼女は、強がりだったのだ。
きっと、大丈夫。だって、昨日まであんなに元気だったし、好物の唐揚げなんて僕の分まで食べていたし。呑気にそんなことを考える、幸せな自分がいた。
でも、だからこそ。昨日までがあんなに幸せだったからこそ、これからの僕達に突然に災いが降り注ぐのではないか……得体の知れない何かが美夏を奪って、僕の元から連れ去ってしまうのではないか。そんな漠然とした恐怖も僕の胸の中に同時に潜んでいた。
そして、相反するその感情の共存はただひたすらに僕に訴えかけた。僕にとって美夏はただの従妹以上にかけがえのない……最愛の者になっていたんだって。
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