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車椅子
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そんなある日。僕はいつものように学校帰りに病室を訪れた。すると、今まで見たこともなかった……僕にとっての彼女には似つかわしくないものが、目に飛び込んできた。
「ねぇ、涼平兄ちゃん。見て見て! 車椅子!」
彼女は自らにあてがわれた、お洒落な桃色の車椅子に得意げに座っていた。
「美夏、お前。それ……」
「お父さんが買ってくれたんだ。それにね、私、来週には退院できるって!」
彼女の精一杯の明るい言葉。病室の電灯の光を反射する、新品の車椅子。
しかし、僕はその新品の車椅子を見た途端に、胸の底から堪えられない痛みが込み上げてきた。僕は実感せざるを得なかった。彼女はもう元通り……冷たい波の打ち寄せるあの海辺を走り回ることができないんだって。
「涼平兄ちゃん?」
車椅子の美夏は不思議そうに僕を見つめた。僕はその澄んだ無垢な瞳を見て、自らの内に込み上げる想いが口から流れ出すのを禁じ得なかった。
「お前は……それでいいのかよ?」
「えっ?」
彼女の顔色が変わった。それでも僕は続けた。
「それに座ってしまったらきっと、『本当に』お前はもう、歩くことも走り回ることもできない。それで……本当にいいのかよ」
痛い想いは激流となって自らの口から流れ出し、その病室にいる僕を沈めた。
しかし……
「じゃあ……どうして?」
美夏のその言葉に、僕の背筋はびくりと反応した。
彼女はもう、それ以上の言葉を発することはなかった。でも、僕は分かっていた。その言葉の続き……彼女が何を言おうとしていたのか。そう……彼女は『あの日』、僕の口から「大丈夫。美夏は絶対に歩けるようになる」って。どうしても、涙が枯れてなくなってしまうほどに、その言葉が聞きたかったんだ。
「ねぇ、涼平兄ちゃん。見て見て! 車椅子!」
彼女は自らにあてがわれた、お洒落な桃色の車椅子に得意げに座っていた。
「美夏、お前。それ……」
「お父さんが買ってくれたんだ。それにね、私、来週には退院できるって!」
彼女の精一杯の明るい言葉。病室の電灯の光を反射する、新品の車椅子。
しかし、僕はその新品の車椅子を見た途端に、胸の底から堪えられない痛みが込み上げてきた。僕は実感せざるを得なかった。彼女はもう元通り……冷たい波の打ち寄せるあの海辺を走り回ることができないんだって。
「涼平兄ちゃん?」
車椅子の美夏は不思議そうに僕を見つめた。僕はその澄んだ無垢な瞳を見て、自らの内に込み上げる想いが口から流れ出すのを禁じ得なかった。
「お前は……それでいいのかよ?」
「えっ?」
彼女の顔色が変わった。それでも僕は続けた。
「それに座ってしまったらきっと、『本当に』お前はもう、歩くことも走り回ることもできない。それで……本当にいいのかよ」
痛い想いは激流となって自らの口から流れ出し、その病室にいる僕を沈めた。
しかし……
「じゃあ……どうして?」
美夏のその言葉に、僕の背筋はびくりと反応した。
彼女はもう、それ以上の言葉を発することはなかった。でも、僕は分かっていた。その言葉の続き……彼女が何を言おうとしていたのか。そう……彼女は『あの日』、僕の口から「大丈夫。美夏は絶対に歩けるようになる」って。どうしても、涙が枯れてなくなってしまうほどに、その言葉が聞きたかったんだ。
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