時をかける物語

いっき

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黒い兄弟

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「リザ。子供達のために、本を書き続けよう」
クルトはにっこりと私に微笑んだ。
「だって、戦争や圧政で一番、つらく悲しい想いをするのは子供達なんだ。だから……リザの物語で励ましてあげなくちゃ。そうだろ?」
彼の声はいつも通り、穏やかで優しくて。だけれどもその奥には堪らないくらいの憤りを含んでいるということを、私は知っている。



幼い頃に罹った病気の所為で足の悪かった私、リザ・テツナーはドイツで生まれ育った。
不自由な体だった私の生き甲斐は、子供達にグリム童話を読んで聞かせることだった。
小さな村だったけれど、希望に溢れた子供達が瞳を輝かせて物語を聞いてくれて。そんな『語りべ』をしている時間が私にとって、何よりの幸せだった。
そして、ちょうど『シンデレラ』になり切って、子供達に物語を伝えていた時……私はクルトと運命の出会いを果たしたのだ。



「ええ、そうね。だって、ここ……カローナでは私達は自由。何を書いても咎められることも奪われることもないのですもの」
「あぁ。そして、ここから……世界中の子供達にリザの物語を発信するんだ。そう……ナチスの迫害に苦しむドイツの子供達のためにも」
ナチス……彼の口がその名を発した瞬間、私の体はビクンと震えた。
それは、私達から全てを奪った。住処も財産も、本を書くということも……そう。全ての幸せを。スイスのカローナに亡命した今でも時折、夢に見てうなされるほどに凶々しい……そんな記憶だったのだ。

しかし……
「キャッ!」
そんな記憶への悲しみと憎悪で心が軋みそうになっていた私を、クルトは急に抱きかかえた。
「だから!今から国立図書館に行こうよ」
「図書館に?」
「そう。だって、君が物語を書くにしても!ここ、スイスの子供達がどういう歴史を辿ってきたか。もっともっとよく知るべきだろ」
「え、ええ。でも……クルト、大丈夫?重くない?」
「ああ、僕ならへっちゃらさ。それに、君の書く物語を僕も、一刻も早く読みたいんだ」
もうお互い四十歳代になっても、私とクルトの関係は、二十代の頃と変わらない。
足の悪い私を彼が支えてくれて、穏やかで……その実、とっても熱く情熱的で。子供のように無邪気な笑顔を私に向けてくれて。
温かい……クルトの言葉に甘えて、私はその日も彼の優しい温もりに自らの身を委ねることにした。

私とクルトはカローナに亡命してしばらくは、その日の生活もままならぬ状態だった。
ナチスに財産も市民権も本を出版する権利も奪われて……しかし、私達には語りべをしていた頃からの親友達がいた。彼らは生活を助けてくれて、いつも励ましてくれて。そのおかげで、私達は何とか生活を立て直すことができた。
生活が落ち着いた頃。私達は助けてくれた親友達に何ができるか話し合った。
そして、その結果……みんなが逆境を乗り越える勇気を与えることのできる物語を書く。そんな結論に至ったのだ。
私達はすでに数冊の本を出版していた。元来、本が好きだった親友達は大喜びで物語を読んでくれて、彼らの子供達にも語り伝えてくれて。
素敵な恩返しができた……私達もそう思い、温かい気持ちになれたのだった。



「小さなスイスの奴隷たち……」
クルトが私の元に運んできてくれた新聞記事の中で、そんな報告を見つけた。
「うそ……まさか、この国でこんなことが……」
その、あまりにも目を背けたくなるような歴史に私は思わず口を覆った。

それは、1800年代のスイスで本当にあった出来事。貧しい農家の農夫達は、生活のために自らの子供達をミラノの煙突掃除夫として売った。子供達は底冷えするミラノの冬の間もボロ衣を身に纏い、食べ物もろくに貰えずに一日中「スパッツァカミーノ(煙突掃除)、スパッツァカミーノ!」と叫び、煙突掃除の仕事をして過ごすしかなかった。
煙突の中は非常に危険で、窒息したり火傷した子供もいたし、多くの者が気管支や肺を患い、若くして命を失った……。

「ひどい……」
その記事を読んだ私の目からは一筋の涙が伝って落ちた。
ドイツでの恐怖が嘘のように、落ち着いて幸せに暮らすことのできているこの国。まさか、このスイスで昔、そんな酷いことが行われていただなんて……。

「リザ。書こう」
クルトは私を真っ直ぐに見つめた。
「えっ、書くって……」
「煙突掃除夫として売られた少年の話。どんな逆境に立っていても、希望を持ち続けていたら打ち勝つことができるって。世界中の子供達にリザが伝えるんだよ」
「でも、私……」
自信ない……そんな言葉が私の口から出そうになった。

しかし、クルトは情熱的で熱い瞳を私に向けた。
「この物語こそ、リザにしか書けないんだ」
「私にしか……」
「そう」
彼はうなずいた。
「ナチスの圧政に、住む所も本を書く幸せも、物語を子供達に読み聞かせる喜びも……全てを奪われた。だけれども、そんな逆境から立ち直って、今また、幸せを手に入れようとしている。そんなリザだからこそ……強くて勇気があって、素敵な友人達に恵まれている君だからこそ、書けるんだ。いや……君でなければ、書けないんだよ」
「クルト……」
私の胸にはジーンと熱い感情が込み上げた。
私にしか書けない物語……書きたい。そして、クルトに、友人達に、世界中の子供達……みんなに、勇気と希望を与えたい。
そんな想いが、私の瞳を潤ませた。
「ええ、書くわ。私……煙突掃除夫として売られた子供のお話。そして、彼にらたくさんの友達がいて、愛と勇気に溢れていて、逆境だからこそ、より一層に輝いていて。そんな子供のお話を、私……書きます」
私がその決意を話すと、クルトはにっこりと優しく目を細めて。私達しかいない、平日の昼間の図書館でその唇を私のものにそっと重ねてくれた。



物語を書く時。私はまずは、タイトルをつけることから始める。
そして、そのタイトルに見合ったストーリーを描いてゆく。『考える』でも『書く』でもなくて、『描く』……というのは、私は自分の書く物語の主人公と感情を共有する。そう……自分の描く世界の主人公になって、さらなる世界を描いてゆく。これが『語りべ』として子供達に物語を伝えてきた私の癖……周囲から見ると、『能力』として映るらしい。

さて、タイトル……それは、あの記事を読んだ時から、ほぼ決まっていた。
煙突掃除夫として、すすまみれになった子供達の、愛と友情と優しさの物語。
いや……『友情』というよりは、それはもう『兄弟』に近いだろう。
だから、すすまみれになった黒い兄弟……そう。私は自分の描いてゆく世界を『黒い兄弟』と名付けた。

主人公は『ジョルジョ』。私の好きな画家『ジョルジョーネ』の名前の一部をもらった。それは、私が描こうとするストーリーにしっくりする名前のように思えて。

「ジョルジョ。これからよろしくね」
私は呟いて、にっこりと微笑んだ。

私は物語を描く時は、庭に出て椅子に座って描く。こうしていると、実際にジョルジョがスイスの草原で見た豊かな草花や、爽やかに吹き抜ける風、柔らかな陽射し……それらを感じて、それらと一つになることができる。

そう……私はジョルジョ。この国で優しい父母とたくさんの兄弟に囲まれて、愛情たっぷりに育てられてきた。
家には牧草地もあるしヤギも鶏もウサギもいる。大きなトウモロコシ畑も小麦畑もあって、裕福というわけではないけれど何も不自由なことのない、幸せな生活。
しかし、ある日……頬に傷のある男の登場で、そんな暮らしに暗雲が立ち込める。

「リザ。おーい、リザ!」
クルトの声で、はっと我に返った。
作品に没入するあまり、時間の経つのも自分がリザということも忘れてしまっていた。
あんなに青かった空はもう、一面がオレンジ色の夕焼けで染まっていた。
「どうだい、ジョルジョの調子は?」
私が作品を描く時、彼は必ずこういう尋ね方をする。
「ええ、元気いっぱいよ。スイスの大自然の中で愛情いっぱいの家族に囲まれて。でも……」
私の心は少し曇った。
「私、これからの彼を描くのが辛い。煙突掃除夫として売られて、たくさん苦しくて、悲しい想いをするなんて……」
私は物語の主人公になりきる……だからこそ、これから自分の描こうとしているストーリーのことを考えると、胸が押し潰されそうな想いがした。

すると、椅子に座ったままの私をクルトはそっと抱き締めてくれた。
「大丈夫。僕がついている」
彼の腕、胸……全ての柔らかな温もりが私の奥にまで伝わってきた。
「リザ。君には、君を大切に想っている人がいる。そして、ジョルジョにも。沢山の友達……兄弟に囲まれて、共に困難を乗り越えていくんだ。そうだろ?」
「ええ……そうね」
クルトのその言葉は、私の胸の砂地に染みこんで、じんわりと瞳を濡らした。
「クルト、ありがとう。一緒に描いていきましょう。ジョルジョとその兄弟達を……」
いつでも優しく温かい、私のクルト。
きっと、ジョルジョにもそんな仲間がたくさんできる。そして、どんな困難にも打ち勝って、豊かな大自然のあるこのスイスに……温かな家族の元に帰るんだ。
私は、この物語の世界を引き続き描くことが楽しみで仕方ない……そんな想いでいっぱいになった。

ジョルジョの村が冷害に苦しみ、大変な山火事が発生して、物語は大きな転機を迎える。
ジョルジョを煙突掃除夫として売る以外に、家族が生活を続ける術がなくなってしまったのだ。
父母は頑としてそれを拒むが、ジョルジョ自身は家の状況を理解して、自ら煙突掃除夫として働きに出る決意をする……。

「ジョルジョは、やっぱり君だな」
私の描く物語を読んだクルトはクスッと笑った。
「家族のために、自らイバラの道を選ぶなんて……自らを犠牲にするだなんて。本当に君らしいよ」
「うーん、そうかしら」
「そうだよ。だって、僕がナチスに逮捕された時も……」
「それは、当たり前じゃない。何も悪いことをしていないクルトを逮捕するだなんて……それに、私、クルトのいない人生なんて考えられないんだから」
それは、労働者運動の先頭に立っていたクルトが逮捕された時。私は自らも逮捕される危険を顧みずに、ラジオや新聞……あらゆるメディアを通じてこの理不尽さを訴えた。
その頃、ラジオを通じて子供達に物語を聞かせる仕事をしていた私の声は、世間のあらゆる人々を奮い立たせ、流石のナチスもそれを無視できない状況になり、渋々、クルトを釈放した。その代わり、私達はすぐにこの村へ亡命することを余儀なくされ、ナチスから全てを奪われたのだ。

「ははっ、そうだね。やっぱり、ジョルジョは君でないと描けないよ」
「うん、まぁ……それはそうね」
現実の苦境に立つ子供達に励ましの言葉を伝える……そんなパワーをこの物語に込めるには、私自身、逆境に打ち勝つエネルギーがあることが必須で。私はこれからの物語を、苦しい時や悲しい時、自分がどうやって立ち直ったかを思い出しながら描いた。

ジョルジョはついに、頬に傷のある男に売られることになった。
他の子供達と一緒に小さな船に詰め込まれ、男と共にイタリアのミラノへ向かう。
ジョルジョはそこで、アルフレッドという少年と出会い、友達になった。
しかし、その晩はひどい嵐で、ジョルジョ達が乗った船は転覆してしまう。泳ぎの上手いジョルジョはアルフレッドを助けた後に、頬に傷のある男が溺れかけているのを見つけて、彼のことも救出し、陸まで泳ぎ切った。

「君はつくづく、お人好しだなぁ」
クルトは少し苦い顔をして笑った。
「頬傷の男は悪い奴なんだろ?見殺しにしても良かったのに」
「ええ、そうね。でも……」
私はすっと、目を閉じた。
「子供達には、悪い奴なら見殺しにしてもいい……なんてことは思って欲しくない。それに、ジョルジョは迷わずに男を『助けた』わ」
「そうか……」
クルトは温かな笑顔を浮かべた。
「僕の大好きな君は、やっぱりそうなんだな。どんな状況にいても、優しさと勇気を忘れない……」
私は照れて、ただこくりと頷いた。
作中のジョルジョの行動は私自身の行動……クルトはそのことを、誰よりも一番よく分かってくれているのだ。



それ以降……私はそれまで以上に、憑かれたかのように、物語に没入した。

ミラノに着いたジョルジョとアルフレッドは、それぞれ別の親方に買われた。
ジョルジョはロッシ親方。ロッシはそれほど悪い人間ではないが、そのおかみと息子のアンジェルモは底意地が悪く、ジョルジョを目の仇にする。しかし、その家には病弱の娘、アンジェレッタもいた。彼女は美しく、心優しくて、すぐにお互い好きになった。

ついに、ミラノでの煙突掃除の仕事が始まった。
最初こそ、依頼人の優しさに触れてこの仕事も悪くないと思っていたジョルジョであったが、すぐにその過酷さを思い知る。

さらに、おかみやアンジェルモの執拗な嫌がらせに遭って挫けそうになるジョルジョであったが、アンジェレッタはいつも優しく話を聞いてくれた。ジョルジョにとっては、アンジェレッタと話す時間が唯一、心の安らげる時間だった。

そんなある日のこと。アンジェルモがロッシの財布を盗み、それをジョルジョの所為にした。ジョルジョは濡れ衣を着せられて、小部屋に閉じ込められた。
小部屋から逃げ出したジョルジョは、本物の泥棒に捕まり、一味の手伝いをさせられる。そして泥棒と共に警察に捕まり、牢屋に入れられた。

その頃、家ではアンジェレッタが、アンジェルモがロッシの財布を手にしているところを見たと両親に打ち明けた。
ジョルジョは無実が証明され、ロッシの手で牢屋から出してもらうことができた。
しかし、この一件によってアンジェルモとの確執が絶対的なものとなり、『戦争』が始まることとなった……。

「すごい……ワクワクする。物語、面白くなってきたね」
クルトはまるで、子供のように目を輝かせてはしゃいだ。
「ええ。今がまさに、この物語の肝の部分よ。これから、ジョルジョは仲間達と『黒い兄弟』を結成して、ワルガキ団との戦いが始まるの」
「そうか……子供達の愛と勇気、友情の物語が始まるわけだ」
「ええ、そして……」
「ん?」
「あ……いえ、何でもないわ」
不思議な顔をするクルトを、私は精一杯に誤魔化した。
勿論、これから始まるのはジョルジョ達の愛と勇気、友情の物語だ。だけれども……私はこの世界を描いていく上で、もう一つ描かなければいけないことがある。
それは『別れ』。それも、ジョルジョにとって一番大事な友人との……
物語を書く時にジョルジョになり切ってしまう私にとっては、想像するだけでツラいことだった。だがしかし、この物語のストーリーとして……そして、子供達に本当の『強さ』を伝える上で、避けては通れないことなのだ。

私は意を決して筆を取った。



ジョルジョはアルフレッドを訪ねて再会を果たす。しかし、その姿を見て驚愕した。彼はすっかり痩せ衰え、病気にかかっていた。
アルフレッドが自分とは比べ物にならぬくらいに酷い扱いを受けていたことを知り、ジョルジョは悲しみに暮れる。
しかし、そんな状況にもアルフレッドは果敢に立ち向かい、煙突掃除夫の子供達の結社『黒い兄弟』を作っていた。
それは、アルフレッドの仲間達の集団で、『狼団』と呼ばれる子供達に対抗していた。ジョルジョはすぐに『黒い兄弟』の仲間達と打ち解け、『戦争』が始まった。

『戦争』がひと段落着いた頃、ジョルジョはアルフレッドをアンジェレッタに会わせた。
話を終えてアルフレッドが帰った後。アンジェレッタは、アルフレッドは病気でもう長くないことをジョルジョに告げた。そのことにより、ジョルジョは深い悲しみの底に落ちた……。



筆を持つ私の手は震え、目からは思わず涙が落ちた。
私はジョルジョ。唯一無二の友人、アルフレッドを失ってしまう。
どうして、もっと早く彼の元を訪ねなかったのだろう……もう少し早ければ、自分が彼を救えたかも知れないのに。
そんな後悔が、波のように私の胸に打ち寄せた。

しかし、クルトは私に優しく微笑んでくれた。
「描いてよ、リザ。大丈夫。君には僕が……そして、素敵な仲間達がついてるから」
そして、私をそっと抱きしめた。
「どんなに悲しいことがあっても、ジョルジョにはそれを乗り越える力がある……そして、そのパワーこそが明日への希望になる。そうだろ?」
「ええ……そうね。ジョルジョはきっと、乗り越えられるわ」

正直に言うと、分からなかった。私がこの悲しみを乗り越えられるかどうか。
だけれども、どんなにツラい場面にあっても、私はクルトと共に乗り越えてきたんだ。
だから、きっと……。
私は再度、筆を取った。



アンジェレッタの予想は的中し、アルフレッドの病状は悪化の一途を辿っていた。
そんな折、アルフレッドはジョルジョに、自分の妹『ビアンカ』の話をした。複雑な家庭事情の中、自分と同じく苦境に立っている、世界でたった一人の宝。
アルフレッドはジョルジョに、自分が死んだらビアンカを訪ね、彼女を保護して欲しいと頼んだ。ジョルジョは友情にかけてそうすると誓った。

その数日後だった。ジョルジョのもとに来た仲間が、アルフレッドが亡くなったと告げたのは。
冷たくなったアルフレッドを見て、ジョルジョはまるで頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、真っ白になった。
すると、『黒い兄弟』の仲間達は歌を歌い始めた。それは『英雄の歌』。アルフレッドが自分達のために作ってくれた歌。
ジョルジョもそれを口ずさんで、そして……アルフレッドとの友情にかけて、明日へと力いっぱいに生き抜いていくことを誓ったのだった。



ジョルジョとアルフレッドとの永遠の別れを描いた私は、当分の間、寝込んで筆を取れない日が続いた。
こうなることは分かっていた。作中に没入してしまう私にとっては、『親友の死』はあまりにも重い。

そして、クルトはそんな私を献身的に看病してくれた。
「リザ、すまなかったな。君をこんなにも苦しませてしまって」
クルトは本当に申し訳なさそうな顔をした。
そんな彼に、私はにっこりと微笑んだ。
「いいえ。こんなに苦しみ抜いたからこそ、私……ジョルジョの明日は、どんなに苦しいことがあっても、希望に満ちて輝くものになるのよ。あぁ、楽しみだわ。この物語を完成させることが……」

彼には「無理をしないで」と念を押されつつ、私は再び描き始めた。



ジョルジョは仲間達と力を合わせてアルフレッドを埋葬し、お墓を作った。
その葬儀には『狼団』のメンバーも参列した。『戦争』の渦中にあったグループだったが、これをきっかけに『黒い兄弟』と和解することができた。

それからも、ジョルジョにとって、いくつものツラいことがあった。しかし、ジョルジョにとってそれは、アルフレッドの死に比べれば大したことのないことで。アルフレッドへの誓いにかけて、ジョルジョは明日へ向かって生き抜いた。

そして、アルフレッドの誓いの通り、ジョルジョはビアンカを訪ねた。苦しい状況にあっても明るくお転婆で、その実、とても強い彼女を、ジョルジョはすぐに好きになった。

ジョルジョが村を出てから九年後。妻となったビアンカを連れて、ジョルジョは家族のもとを訪ねた。父母は息子を売ったことを大変に後悔していたが、訪ねて来た彼がジョルジョだと気付くと、涙を流して喜んだ。こうしてジョルジョは家族と再会し、ビアンカも歓迎されたのだった。

(完)



「『黒い兄弟』の完成、おめでとう!」
この物語の完成を、クルトは誰よりも心待ちにし、私以上に喜んでくれた。
「そして……この物語はすごいよ。もう、言葉にならない……」
『黒い兄弟』を読んだ彼の瞳は、じんわりと温かい涙で濡れて潤んだ。
「ええ……でも、この物語は、私一人では完成することが出来なかったわ」
私は自分の描いた物語を見て……そして、彼と真っ直ぐに目を合わせた。
「クルト。あなたが私を支えてくれて……そして、私達を支えてくれた、沢山の親友達がいたから。だから、完成することができたの」
「そうだな……」
クルトは、すっと目を閉じた。
「ジョルジョの物語は……これからだ。リザ、そうだよな?」
そっと目を開けた彼に、私はフワリと柔らかく微笑んだ。
「ええ、そうよ。私がこの物語を村の子供達に伝えて……さらに国境や時を超えて、苦しみや悲しみの中にいる子供達に勇気と希望を与えて。ジョルジョの物語は、まだまだ続いていくの」
「手伝うよ、リザ」
彼はそう言って、優しく私の手を包み込んでくれて。
爽やかな風の吹く庭の木漏れ日の下。私達はそっと唇を重ねた。



「リザおばさーん。それで?それで、ジョルジョはどうしたの?」
庭の緑が風を受けて、さやさやと小さな音を立てるその下。
村の子供達は、瞳をまるで星のようにキラキラと輝かせて、私の語る物語を聞いてくれる。
「ジョルジョはね、狼団の猫のように身軽な子供と戦うことなったんだ。そしてね……」
いつになっても、語りべとして村の子供達に私の物語を聞かせる……それは、私にとって、一番の幸せなのだ。

私の描いた物語『黒い兄弟』は、出版されて大変な反響を呼んだ。国境を超えて、世界中の子供達に読まれる名作になった。
私はジョルジョを通じて、村の子供達に愛と希望と、『本当の強さ』を伝える。

そして、それは国境も世代も、時も超えて……世界中の子供達に伝えられる。それは、子供達の中でどんな逆境にも立ち向かうことのできる『本当の強さ』を培うことになるのだ。

そんな想いを込めて。今日も語りべを続ける私を見て、クルトはにっこりと微笑んでくれた。
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