タツマキにのまれて……

いっき

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「地面に温められた空気は、空の上へと向かって上がっていく。この現象、何て言ったかな?」

 塚田先生がたずねると、まじめな女子の飯田さんや、でしゃばり男子の羽村なんかがちらほらと手を挙げた。四年生の理科の授業では、先生がする質問の答えを知っている生徒は、大体は手を挙げる。

 でも、ぼくは手を挙げなかった。分からないんじゃない……答えが『対流』だってことくらい、ずっと前から知っている。だけれども、わざわざ手を挙げるだなんて何だかかったるい。

「じゃあ……今野」

「はい! 『対流』です」

 その女子……今野 真緒(まお)が答えると、先生はにっこりと笑った。

「そう、対流だ。今野、よく分かったね」

「へへっ、家でよく勉強してるんです」

 その活発な女子はニッと白い歯を見せた。

「よく勉強してなくても、そのくらい分かるって……」なんて言いたかったけれど、わざわざそんなことを言うこともない。だから、ぼくはぼんやりとまどの外をながめた。

 春には桃色の花をさかせていた桜の木は、もうすっかりと緑色の葉っぱに衣がえしている。ゴールデンウィークが明けてからは太陽の光もすっかり強くなって、ぼくたちもみんな、半そでのシャツに衣がえしていた。桜の葉っぱには、かすかな風が当たってそよそよとゆれていてすずしそう。

 葉っぱって、どうして緑色なんだろうって思ったことがあるけれど……風にゆれてすずしそうな気分になる色って、緑色以外には思いつかない。だから緑色なのかなぁ、なんてぼぉっと考えていた。

「それじゃあ……ぼぉっとまどの外を見ている金谷。金谷 要(かなめ)!」

 急に名前をよばれて、思わず黒板の前に立つ先生の顔を見た。教室のあちらこちらから、クスクスと笑う声が聞こえてくる。

「この対流がより、さかんになったら……積乱雲の下で地上から雲に向かって、とてつもなく速いうずまきの形をした空気の流れができる。それを何と言う?」

「えっ?」

「ずっとぼぉっとまどの外をながめていられるくらい、簡単な授業なんだ。このくらい、お前なら楽勝で答えられるよな?」

 塚田先生はそう言って、まるで子供のような……小学四年生のぼくたちとそう変わらない、いたずらっ子な笑顔をうかべた。ぼくは「はぁー」と深く、ため息をつく。

「はい……それは、タツマキって言います」

 やる気なく立ち上がって、しぶしぶと答えた。先生のこの少年のような笑顔……ぼくは苦手だ。


「そう、タツマキだ。みんなも知っていると思うんだけど、今、この世界はところどころで異常気象が相ついでいる。だから、タツマキもいつ、どこで発生するか分からないんだ」

「先生! もしタツマキに会ったら、どうしたらいいんですか?」

 クラス内ではいつも先生におあいそをしている学級委員の川野が、分かり切った質問をした。すると、塚田先生はうでを組んで、むずかしそうな顔をする。

「うん、そうだな……自分の身が安全な場所ににげるのが、一番だな。鉄筋コンクリートでできた丈夫な建物の下とか。何しろ、それは小さな台風だ。とてつもなく強い、風の流れの渦なんだ。自分の身は自分で守るようにな!」

「はぁい!」

 クラスのみんなはいつものように、ぴったりと声を合わせた。
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