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第九章 作戦
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*
私の中に愛しい者が入ってゆく。それは、毒されて私に敵意を持っているけれど、愛しい。愛しくて、堪らない。
彼は私を攻撃する。だけれども、私は彼を包み込む。優しく、温かく……。
「オリオン。今度は私が、あなたを守るから……」
すると彼は徐々に温かさを取り戻してゆき、縋るように、私の名前を呼ぶ。
「ナ……セナ!」
*
「セナ! セナ!」
その大きな声で……体が強く、大きく揺さぶられて、私は目を覚ました。
目の前には、必死で私の名前を呼ぶ無骨な彼がいた。それは、愛しくて……会いたくて堪らなかったオリオンの、元気な顔。
「オリオン……」
「セナ! 良かった。セナ……」
安堵したオリオンの顔……初めて見た。
だって、彼はいつも不機嫌でぶっきら棒で。誰かに感情を寄せるなんて、想像もつかなかった。
でも、今……目の前の彼はまるで幼い子供のように思えて。そんな彼がより愛しくて堪らなくて。
思わずオリオンを抱き寄せて、その唇に私の唇を重ねた。
「セナ……」
唇を離して。改めて彼の顔を見つめると、頬は桃色に染まっていた。
それはまるで、純情な少年のようで……そんなオリオンを見て、私も、自分が『初めて』だったんだと思い出した。
だから、私の顔もカァッと熱くなって。何だかいたたまれなくなって、ガバッと寝床に潜り込んだ。
「セナ。おい、お前……何をやっているんだ? 折角、助かったのに」
「えっ……」
まるでいつもの調子を取り戻した様子のオリオンの声に、私は寝床から這い出して……思い出した。
そうだ。オリオンはサソリに刺されて、瀕死の状態で。だから、私と血を交換して。
もう、こんなに元気になって……私達、二人とも助かったんだ!
「やった……」
私の口からは、思わず喜びの言葉が出た。
「やったよ、オリオン。私達、助かったんだ。これからも……ずっと一緒にいれるのよね!」
私はまた、ギュッと強くオリオンを抱き締めた。
「おい、こら……やめんか。ったく……」
オリオンは照れ隠しにぶっきら棒に言うけれど、私には分かる。彼も本当は、とっても嬉しいんだ。
だから、私は彼の温かい体温を感じて。その優しさにずっと、この身を委ねていたのだった。
*
「アルテミス。今日も、ありがとう! 美味しいシチュー。ね、オリオンも! お礼、いいなよ」
「あ……ああ」
息を吹き返しても、オリオンは相変わらずだ。
「ああ、じゃなくて。お礼!」
「ああ……すまんな」
「いや、謝ってどうする? お礼を言えって言ってるの!」
「いいわよ、オリオン、セナさん。たくさん、召し上がれ」
アルテミスはやっぱり美しくて、輝くような笑顔を私達に見せてくる。
彼女は優しくて、綺麗で、温かくて……どこからどう見ても、素敵な女性で。だから、私は不安になる。
この前、オリオンとアルテミスの過去のことを聞いて……アルテミスはまだ、オリオンに想いを抱いているんだって思った。
そして、オリオンも……きっとまだ、アルテミスのことを想ってる。
だから、オリオンの恋人は……ずっと一緒にいる人は、アルテミスの方が幸せなんじゃないかな。
オリオンにとっても、アルテミスにとっても……そんな考えが、心の片隅に渦巻いて。まるで痼りのように、私の心を不安にさせるんだ。
「しばらくは、絶対安静」っていうアルテミスの言葉に忠実に、オリオンは朝食後、すぐにいびきをかきながら眠り始めた。
全く、こいつは生存本能に忠実だな……彼の幸せそうな寝顔に、私もつい、顔が綻ぶ。
だけれども、私の方は中々、寝付けなくって。ベッドから起き出して、アルテミスのもとへ戻った。
「あら、セナさん……」
アルテミスはお昼の準備をしながら、長い睫毛の目を細めて私ににっこりと微笑んでくれた。
「アルテミス……」
彼女はやっぱり、素敵な女性で。そのオーラにただただ、圧倒される。
アルテミスは、たじたじになっている私にテーブルにつくように促して、ハーブティーを運んでくれた。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
アルテミスの碧い瞳に私は吸い込まれそうになる。そんな彼女の瞳をじっと見つめて。私は恐る恐る、ゆっくりと口を開いた。
「アルテミスって、まだ……」
「えっ?」
「まだ、オリオンのことが好きなの?」
言ってしまった後で後悔した。
私……何を聞いているんだろう?
彼女はあの時、教えてくれたのに。どれだけ好きでも、その恋は許されない。そんな、悲しい恋なんだって。
すると、アルテミスは少し寂しそうに笑った。
「それは……まだ好きじゃない、と言えば嘘になるわ」
「やっぱり……」
「でもね。あなたには負ける」
「えっ?」
私が顔を上げると、彼女は切なげな……だけれども、満面の笑みを浮かべた。
「あなたが、自分の命を投げ出してでもオリオンを救いたい、と言った時ね。私、思ったの。ああ……この娘には敵わない。オリオンを想う気持ちでは……って」
「いえ、そんなこと……アルテミスだって。私と同じ立場になったらきっと、同じようにするわ」
私の言葉にアルテミスは寂しげに微笑んだ。
「ええ、そうね。でもね……きっと、そうするではダメなの。あなたは実際に、自らの危険を顧みずにオリオンを救った。だから……オリオンに対する想いでは、私は絶対にあなたを超えることはできない」
「そう……なのかな」
「ええ、そうよ」
アルテミスは私の手を両手でギュッと握った。
「それに、オリオンの想いも。きっと、もう……あなただけを見ているわ。オリオンを見てて、私には分かるの」
「うん……」
オリオンの私への態度……それは、いつでも、同じような感じで。少し変わったことと言えば、私と話す時、頬が薄っすらと桃色に染まるようになった。
そんな小さなことからも、このアルテミスはオリオンの気持ちが分かるんだな。
私は嬉しくて……だけれど同時に切なくもある、不思議な気持ちになった。
「だから! あなたはもっと、自信を持って。あなたとオリオンはもう……この世界で一番の、恋人同士なんだから!」
「この世界で一番の……」
アルテミスの言ってくれたその言葉は嬉しくて。それも、私の憧れの、飛び切り素敵な女性に言われて、すごく幸せだった。
だから、私の目にはじんわりと熱いものが込み上げてきた。
「アルテミス、ありがとう。私……ずっと、オリオンと一緒にいる。彼の恋人として」
「ええ……」
私の言葉に頷いた彼女はしかし、まっすぐと目を合わせて真剣な顔をした。
「私も。あなたとオリオンにはずっと、幸せに暮らしていてもらいたい。だから……だからこそ。あなたには、話しておかなければならないことがあるの」
「話しておかなければならないこと?」
アルテミスは真剣な表情を崩さずに頷いた。
「私の兄……アポロン神のことよ」
「アポロン神……」
その名を聞いて、私の体は一気に強張った。
アルテミスとオリオンの仲を引き裂いて、オリオンの命を狙っている神。
サソリ使いのガイアは彼が差し向けて、オリオンは死の縁を彷徨った。
「ええ。アポロンはオリオンがサソリに刺されて死んだと思っていたから、しばらくは大人しくしていた。でもね、もうそろそろ、気付く頃だと思うの。オリオンがまだ生きてるって」
「そんな! どうしたら……」
「落ち着いて。私に、考えがある。オリオンにも言おうと思っていたことなんだけど……」
アルテミスはそう言って、作戦を静かに私に話してくれた。
*
その日の空は青々として、どこまでも広がっていた。そして、海も……空と同じように青く澄んで、まるで吸い込まれそうだった。
「すごい! この世界の海も、こんなに綺麗なんだ」
オリオンと手を繋いで、足元から少しずつ水に入る私ははしゃいだ。
「お前……今日はただ、楽しみに来てるわけじゃないんだぞ」
緊張した面持ちのオリオンは、呆れ顔で私を見る。
「分かってるわよ。でも、そんなに緊張することないって。アルテミスの作戦だもの……絶対にうまくいく」
そう。海に来たのはアルテミスの作戦だ。
それは、満月のあくる日。海の中には異世界に通じる穴ができるというのだ。
異世界って、どこなのか分からない。私が元いた世界なのかも知れないし、全く想像もつかない世界があるのかも知れない。
でも、オリオンはこの世界では、必ず神から命を狙われる。だから……私と一緒に異世界へ逃げるんだ。
頑固なオリオンはその作戦に中々、うんとは言わなかったけれど、私とアルテミスで説得して。今日、この作戦を決行することにした。
海にずぶずぶと入ってゆき、オリオンの背丈くらいの深さになった。私の体はオリオンに支えられて、辛うじて頭を海面から出していた。
浜辺にいたアルテミスはすっかりと小さく見えたけれど……その横に、一人の男性が出現した。
逞しい体をした、金髪のその男は……きっと、アポロン神だ。
彼はアルテミスに何か話している。
声は聞こえないけれど分かる。
「アルテミス。弓の達人であるお前でも、あれを射ることはできまい」……そう、神話通りのことを話しているんだ。
そして、アルテミスはその挑発に乗って、こちらを狙って弓を引いて……
「オリオン! 今よ!」
私は彼と一緒に、思い切って透き通るような海に潜った。
オリオンと手を繋いで、深く、深く……どこまでも海を潜っていく。
陸上ではきっと、「アルテミスがオリオンを射殺して、彼は海の藻屑になった」……そう、神話通りに話が進んで、アポロンもそれに納得するだろう。だって、私達はこれからこの世界ではない、異世界へ行くんだから。
海をひたすらに潜って潜って……私達は見つけた。まるで渦巻きのような、黒い大きな穴。
これが異世界へと通じる穴……そのことは、一目見て、感覚的に理解した。
恐ろしさはあった。だって、その穴は強大で、どこへ繋がっているのか、全く想像もつかなくて。
でも……彼、オリオンと一緒なら、何処ででも。私は幸せに暮らしていける。そう、いつまでも……
そんな想いと共に、私達は思い切って、吸い込まれるようにその穴の中へ入って行った。
私の中に愛しい者が入ってゆく。それは、毒されて私に敵意を持っているけれど、愛しい。愛しくて、堪らない。
彼は私を攻撃する。だけれども、私は彼を包み込む。優しく、温かく……。
「オリオン。今度は私が、あなたを守るから……」
すると彼は徐々に温かさを取り戻してゆき、縋るように、私の名前を呼ぶ。
「ナ……セナ!」
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「セナ! セナ!」
その大きな声で……体が強く、大きく揺さぶられて、私は目を覚ました。
目の前には、必死で私の名前を呼ぶ無骨な彼がいた。それは、愛しくて……会いたくて堪らなかったオリオンの、元気な顔。
「オリオン……」
「セナ! 良かった。セナ……」
安堵したオリオンの顔……初めて見た。
だって、彼はいつも不機嫌でぶっきら棒で。誰かに感情を寄せるなんて、想像もつかなかった。
でも、今……目の前の彼はまるで幼い子供のように思えて。そんな彼がより愛しくて堪らなくて。
思わずオリオンを抱き寄せて、その唇に私の唇を重ねた。
「セナ……」
唇を離して。改めて彼の顔を見つめると、頬は桃色に染まっていた。
それはまるで、純情な少年のようで……そんなオリオンを見て、私も、自分が『初めて』だったんだと思い出した。
だから、私の顔もカァッと熱くなって。何だかいたたまれなくなって、ガバッと寝床に潜り込んだ。
「セナ。おい、お前……何をやっているんだ? 折角、助かったのに」
「えっ……」
まるでいつもの調子を取り戻した様子のオリオンの声に、私は寝床から這い出して……思い出した。
そうだ。オリオンはサソリに刺されて、瀕死の状態で。だから、私と血を交換して。
もう、こんなに元気になって……私達、二人とも助かったんだ!
「やった……」
私の口からは、思わず喜びの言葉が出た。
「やったよ、オリオン。私達、助かったんだ。これからも……ずっと一緒にいれるのよね!」
私はまた、ギュッと強くオリオンを抱き締めた。
「おい、こら……やめんか。ったく……」
オリオンは照れ隠しにぶっきら棒に言うけれど、私には分かる。彼も本当は、とっても嬉しいんだ。
だから、私は彼の温かい体温を感じて。その優しさにずっと、この身を委ねていたのだった。
*
「アルテミス。今日も、ありがとう! 美味しいシチュー。ね、オリオンも! お礼、いいなよ」
「あ……ああ」
息を吹き返しても、オリオンは相変わらずだ。
「ああ、じゃなくて。お礼!」
「ああ……すまんな」
「いや、謝ってどうする? お礼を言えって言ってるの!」
「いいわよ、オリオン、セナさん。たくさん、召し上がれ」
アルテミスはやっぱり美しくて、輝くような笑顔を私達に見せてくる。
彼女は優しくて、綺麗で、温かくて……どこからどう見ても、素敵な女性で。だから、私は不安になる。
この前、オリオンとアルテミスの過去のことを聞いて……アルテミスはまだ、オリオンに想いを抱いているんだって思った。
そして、オリオンも……きっとまだ、アルテミスのことを想ってる。
だから、オリオンの恋人は……ずっと一緒にいる人は、アルテミスの方が幸せなんじゃないかな。
オリオンにとっても、アルテミスにとっても……そんな考えが、心の片隅に渦巻いて。まるで痼りのように、私の心を不安にさせるんだ。
「しばらくは、絶対安静」っていうアルテミスの言葉に忠実に、オリオンは朝食後、すぐにいびきをかきながら眠り始めた。
全く、こいつは生存本能に忠実だな……彼の幸せそうな寝顔に、私もつい、顔が綻ぶ。
だけれども、私の方は中々、寝付けなくって。ベッドから起き出して、アルテミスのもとへ戻った。
「あら、セナさん……」
アルテミスはお昼の準備をしながら、長い睫毛の目を細めて私ににっこりと微笑んでくれた。
「アルテミス……」
彼女はやっぱり、素敵な女性で。そのオーラにただただ、圧倒される。
アルテミスは、たじたじになっている私にテーブルにつくように促して、ハーブティーを運んでくれた。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
アルテミスの碧い瞳に私は吸い込まれそうになる。そんな彼女の瞳をじっと見つめて。私は恐る恐る、ゆっくりと口を開いた。
「アルテミスって、まだ……」
「えっ?」
「まだ、オリオンのことが好きなの?」
言ってしまった後で後悔した。
私……何を聞いているんだろう?
彼女はあの時、教えてくれたのに。どれだけ好きでも、その恋は許されない。そんな、悲しい恋なんだって。
すると、アルテミスは少し寂しそうに笑った。
「それは……まだ好きじゃない、と言えば嘘になるわ」
「やっぱり……」
「でもね。あなたには負ける」
「えっ?」
私が顔を上げると、彼女は切なげな……だけれども、満面の笑みを浮かべた。
「あなたが、自分の命を投げ出してでもオリオンを救いたい、と言った時ね。私、思ったの。ああ……この娘には敵わない。オリオンを想う気持ちでは……って」
「いえ、そんなこと……アルテミスだって。私と同じ立場になったらきっと、同じようにするわ」
私の言葉にアルテミスは寂しげに微笑んだ。
「ええ、そうね。でもね……きっと、そうするではダメなの。あなたは実際に、自らの危険を顧みずにオリオンを救った。だから……オリオンに対する想いでは、私は絶対にあなたを超えることはできない」
「そう……なのかな」
「ええ、そうよ」
アルテミスは私の手を両手でギュッと握った。
「それに、オリオンの想いも。きっと、もう……あなただけを見ているわ。オリオンを見てて、私には分かるの」
「うん……」
オリオンの私への態度……それは、いつでも、同じような感じで。少し変わったことと言えば、私と話す時、頬が薄っすらと桃色に染まるようになった。
そんな小さなことからも、このアルテミスはオリオンの気持ちが分かるんだな。
私は嬉しくて……だけれど同時に切なくもある、不思議な気持ちになった。
「だから! あなたはもっと、自信を持って。あなたとオリオンはもう……この世界で一番の、恋人同士なんだから!」
「この世界で一番の……」
アルテミスの言ってくれたその言葉は嬉しくて。それも、私の憧れの、飛び切り素敵な女性に言われて、すごく幸せだった。
だから、私の目にはじんわりと熱いものが込み上げてきた。
「アルテミス、ありがとう。私……ずっと、オリオンと一緒にいる。彼の恋人として」
「ええ……」
私の言葉に頷いた彼女はしかし、まっすぐと目を合わせて真剣な顔をした。
「私も。あなたとオリオンにはずっと、幸せに暮らしていてもらいたい。だから……だからこそ。あなたには、話しておかなければならないことがあるの」
「話しておかなければならないこと?」
アルテミスは真剣な表情を崩さずに頷いた。
「私の兄……アポロン神のことよ」
「アポロン神……」
その名を聞いて、私の体は一気に強張った。
アルテミスとオリオンの仲を引き裂いて、オリオンの命を狙っている神。
サソリ使いのガイアは彼が差し向けて、オリオンは死の縁を彷徨った。
「ええ。アポロンはオリオンがサソリに刺されて死んだと思っていたから、しばらくは大人しくしていた。でもね、もうそろそろ、気付く頃だと思うの。オリオンがまだ生きてるって」
「そんな! どうしたら……」
「落ち着いて。私に、考えがある。オリオンにも言おうと思っていたことなんだけど……」
アルテミスはそう言って、作戦を静かに私に話してくれた。
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その日の空は青々として、どこまでも広がっていた。そして、海も……空と同じように青く澄んで、まるで吸い込まれそうだった。
「すごい! この世界の海も、こんなに綺麗なんだ」
オリオンと手を繋いで、足元から少しずつ水に入る私ははしゃいだ。
「お前……今日はただ、楽しみに来てるわけじゃないんだぞ」
緊張した面持ちのオリオンは、呆れ顔で私を見る。
「分かってるわよ。でも、そんなに緊張することないって。アルテミスの作戦だもの……絶対にうまくいく」
そう。海に来たのはアルテミスの作戦だ。
それは、満月のあくる日。海の中には異世界に通じる穴ができるというのだ。
異世界って、どこなのか分からない。私が元いた世界なのかも知れないし、全く想像もつかない世界があるのかも知れない。
でも、オリオンはこの世界では、必ず神から命を狙われる。だから……私と一緒に異世界へ逃げるんだ。
頑固なオリオンはその作戦に中々、うんとは言わなかったけれど、私とアルテミスで説得して。今日、この作戦を決行することにした。
海にずぶずぶと入ってゆき、オリオンの背丈くらいの深さになった。私の体はオリオンに支えられて、辛うじて頭を海面から出していた。
浜辺にいたアルテミスはすっかりと小さく見えたけれど……その横に、一人の男性が出現した。
逞しい体をした、金髪のその男は……きっと、アポロン神だ。
彼はアルテミスに何か話している。
声は聞こえないけれど分かる。
「アルテミス。弓の達人であるお前でも、あれを射ることはできまい」……そう、神話通りのことを話しているんだ。
そして、アルテミスはその挑発に乗って、こちらを狙って弓を引いて……
「オリオン! 今よ!」
私は彼と一緒に、思い切って透き通るような海に潜った。
オリオンと手を繋いで、深く、深く……どこまでも海を潜っていく。
陸上ではきっと、「アルテミスがオリオンを射殺して、彼は海の藻屑になった」……そう、神話通りに話が進んで、アポロンもそれに納得するだろう。だって、私達はこれからこの世界ではない、異世界へ行くんだから。
海をひたすらに潜って潜って……私達は見つけた。まるで渦巻きのような、黒い大きな穴。
これが異世界へと通じる穴……そのことは、一目見て、感覚的に理解した。
恐ろしさはあった。だって、その穴は強大で、どこへ繋がっているのか、全く想像もつかなくて。
でも……彼、オリオンと一緒なら、何処ででも。私は幸せに暮らしていける。そう、いつまでも……
そんな想いと共に、私達は思い切って、吸い込まれるようにその穴の中へ入って行った。
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